恋人はパワーショベルの達人

紅灯空呼

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第3章 ホントの恋愛に向かって

3.〈 08 〉

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 朝を迎えたアタシは、いつものように食事の仕度。
 といっても、今朝は昨日買ってきた〈肉まん〉なの。ウルトラ日曜セール価格、4個入り税込み105円、お1人様2袋まで。早くしないと売り切れちゃうよってやつ。
 2袋で8個。お父さんと正男が3個ずつで、アタシは2個。ピッタリじゃん!

「肉まんには、やっぱ冷たいウーロン茶かな? ジャスミン茶もあるよ」
「じゃあオレはウーロン茶」
「父さんはコーヒーにしてくれ」
「えっ、合うの?」
「合わないか?」
「絶対に合わないって! だからジャスミン茶にすれば?」
「そうか、了解」

 今からコーヒー淹れてたら、レンジでホカホカの肉まんが冷めちゃうでしょ!
 ていうか、アタシが用意したくないのよ。

「ねえねえ、お2人さん、イチゴのヨーグルトもあるんだよ」
「おい正子、肉まんに合うのか?」
「いらない人は食べなくてよろしい」
「……」
「オレは食うよ」

 そうこなくっちゃ。ヨーグルトもセール価格、3個入り税込み62円、お1人様2パックまで。こちらも残り数わずかのところをゲットできたの。
 アタシと正男が食べて、あと4個は冷蔵庫で10日間は大丈夫。

 やがて男どもが出かけてアタシはスマホで読書。
 少しして睡魔がくる。ゆうべはバイトストリームアタックで戦ったから眠いわ。
 といっても、猪野さんの本を参考にして、たったの2行でできたのよ。

 [Byte[]]$a = GetContent a.txt Encoding:Byte
 SetContent b.txt $a[3..11] Encoding:Byte

 2行目の〈$a[3..11]〉がミソです。
 これは配列といって、0から数えるのがルール。だから〈a.txt〉の4バイト目から12バイト目までの生データに該当するの。つまり先頭の3バイトを切り捨てることになる、という道理よ。
 できあがった〈b.txt〉はボムなし〈UTF-8〉になっている。
 お次はファイル内容の表示。

 $b = GetContent b.txt
 WriteHost $b

 予定通り〈迯・ュ宣ヮ〉と化けて表示された。マサコちゃん、よくできました!
 それからインターネットでパワーショベルのこと検索してみた。
 ブログで解説してる人がいたり、結構たくさんの情報があることを知った。パワーショベルやるじゃん!
 しばらくそういう記事とかを見たりして、それで昨夜はお開きにしたの。

 居眠りから覚めたアタシは思いつく。
 パワーショベルのお勉強をやりっぱなしにするんじゃなくて、アタシもブログを始めて、学習した内容を少しずつ記事にすればいいのよ。そしたら後から見直せるし、もしかしたら、閲覧してくれた人からアドバイスをもらえるかもしれない。
 そうと決まれば、どのブログにするかってことだよ。どうせならトンコと同じのにしたらいいよね? ――あやつがブログやってたらだけど。
 そういうわけでトンコに電話をかける。

「もしもしトンコ、アタシよ」
『あらまあマサコちゃんね。久しぶりだわ』

 おっと、この声はトンコのママさんだよ。

「ごぶさたしてます、正子です。ええっと、トンコは?」
『あのねえマサコちゃん、東子とうこは今朝倒れちゃって、救急車で運ばれて今は病院にいるのよ』
「えっえええぇーっ!? おばさん、それホントですか! トンコ危ういんですか!!」
『倒れたときテーブルに鼻を強く打ちつけて、鼻血がたくさん出たのだけど、でも気を失った原因は過労と睡眠不足だそうよ。恐らくは命に別状ないみたい。今はベッドで眠ってるわ』
「恐らくは……?」

 それってつまり100%の確信まではないってことじゃん!
 ああアタシ、なんだかイヤな予感がしてきた。どうしよ、どうする??

「あっ、あのおばさん、病院どこですか! すぐ行きます!!」
『横浜女子医大付属病院よ』

 こうしちゃあいられません! ブログ始めてる場合じゃないんだよ!!
 通話を終え1分で仕度。家を飛び出す!
 あのチャーミングな鼻を打ちつけるだなんて、可哀そうなトンコ。キズ痕が残らなきゃいいんだけど。トンコ待ってろ、すぐ行くからな!

 駅に着いて待つ。もどかしい! 遅いぞ、なにをやっている!
 到着した電車に飛び乗る。飛び乗ったところで早く着くわけじゃないけれど、そうでもしなきゃアタシの気持ちが許さないのよ!!

   $

 中1の2学期の終わり頃から3学期もずっと、そして中2になって1週間たった今も、アタシは元気を出せずにいる。友だちができない。去年のクラスメイトともまったく話さなくなっている。
 きっかけは両親の離婚。弟の面倒やら家事やらで、毎日が心身ともに疲れちゃうせいだ。それともう1つ、同じクラスの山田という男子から告白されて、それを断ったことで始まったイジメみたいなこと。
 ほとんどの女子がアタシを無視するし、意地悪な男子がウソのラブレターを書いて、石コロを包んでアタシの机の中に入れたりするのよ。

《大森正子はブスだけど、おれがつきあってやる。どうだ、うれしいだろ。》

 超ヘタクソな字でホントにバカだわ。しかもサルみたいな顔のくせに。
 同じようなのが上履きの中に入ってたこともあったね……。

 今はお昼休み。教室の隅の席で泣いてる子がいる。1人静かに座ってて、本で顔の涙を隠している。
 名前は京極東子。今年同じクラスになったんだけど、この子が誰かと話してるところを、アタシは1度も見たことがない。この子も無視されてるのかなあ? イジメられてるのかなあ?

「あ、あのう、京極さん」
「はい」

 京極さんはハンカチで頬を拭ってから、顔をあげてアタシを見る。
 可愛らしい鼻してるね、子ブタちゃんみたいだよ。

「本、おもしろい?」
「うん」
「そう。あ、邪魔してごめん」
「いいえ」

 京極さんはまた本のページに目を向ける。
 アタシ、もう1声かけなきゃだよ。友だちになれるかもだよ。

「あ、あのう、ごめんなさい」
「大森さん、どうしたの?」
「よ、よかったらあの、今度、ア、アタシと遊ぼっか?」
「いいよ。じゃ今日の放課後は?」
「うんうん! 遊ぼ遊ぼ!!」

 また友だちができる。やっと元気になれる。やっと笑えた!

   $

 あの日、トンコがアタシの家にきて、デジタルフォトフレームに読み専アプリをダウンロードして設定もして、使い方を教えてくれた。そこからアタシは〈ウルトラ読み専〉への道を歩み始めたのよ。
 ああ、トンコとのことを思い出すと涙がこぼれちゃう。
 車内はそれほど混んでないけれど、周囲の人たちがアタシの顔を怪訝そうな様子で見ている。
 でもそんなの知ったことか! ああトンコ、アタシのたった1人の親友トンコ、生きろ!! アタシが行くまで絶対に生きていろ!
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