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2承「富籤文庫創刊」
54. 葦多渥夫の話(後編)
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|六年Z組 |名前 谷沢 胡麻弥 |100 点|
「へええ、百点かぁ。ゴマヤ君はもしかして数学者になるんじゃないかい。フィールズ賞なんていうのを獲得したりして」
「あー、まあそれも悪くないっすね。ですがゴマヤ本人は、社長を目指すみたいなんすよ。いっぱい稼いで、新築一戸建てを買ってくれるとかなんとか」
「ああそう言えばそうだったね。この前読ませてもらった作文に書いてあった」
「そうっすよぉ。わははは」
そりゃあ百点満点取ってきてくれたら嬉しいだろうけどね。
でも息子のその答案用紙をわざわざコピーして持ち歩くなんて、ワサビ君もかなりの親ばかだなあ。あははは。
「でも……いいねえワサビ君は息子が優秀で。それに引き替え、最近ぼくの娘は成績があんまり芳しくなくてね」
「ひっく……あー済みません。ナラオちゃんのことですね。まあ女の子だと、そんなに学はいらないんじゃないんすか?」
「いやいやワサビ君、女の子に学が必要ないなんて、それは大昔の話だよ。今は女も男も関係ないよ、今はもう――」
「はーい。手羽先お待ちどうさま四人前でしたね?」
「うん完璧だね。でも五人前でもよかったんだけど。わははは」
結局間違えるのかぁ。このお姉さん学がないなあ。
「てへへへ。それでご注文の方はもうよろしいでしょうか?」
「そうだね。また鮪のお刺身もらおうか。食べるでしょ先輩も」
「うっ、うんまあ」
そりゃあ君が食べるんならぼくだって食べたいさ。
「そんじゃ二人前。わさび大盛りで」
「はーい。毎度ありがとございまーす」
「あっあの、この分は絶対に間違わなくていいからねっ」
「はーい。それではジャスト二人前ご用意いたしますぅ。てへへへ」
「わははは。やっぱ先輩、しっかりしてますねえ」
「そうかい。あは、はははは」
はひぃ~~。ぼく今月もまたおけら確定だよ。
◇ ◇ ◇
――葦多君、ちょっと
――はっ、留真課長。なんでしょうか?
――何かいい企画はないのかね?
――いい企画ですか?
――そうだよ。年が明けてから私たちの課は、今一つぱっとしないからねえ
「――と言う訳でね。最近なかなか企画が出せないんだよ。これぞってのがね」
「う~ん。企画ですかぁ。そうっすねぇ」
ワサビ君、珍しく真剣な表情をしている。ちょっと調子が狂うなあ。でも、これこそが奇抜なアイデアを捻り出すときの編集者いや出版社社長って顔なのかなあ。
「何か思いつくことあるかい。あるんなら言ってみてくれないか。どんなことでもいいから、気兼ねなく言ってくれ」
「そうですかぁ。それじゃあ気兼ねなく、お姉さ~ん! おお~い、大瓶二本追加。それから手羽先三人前!」
「はぁ?」
「それともう一つ気兼ねなく。えっと、済みません先輩、実は俺また今月もすっからかんなんで、だから今夜はごちそさんっす!」
「ひぇ!?」
結局そうなるのかぁ~。余計に調子狂ってしまったよ。とほほほ。
「で、先輩さっきの企画の話なんすけど。こんなのはどうっすか」
「なんだい?」
「富くじ文庫ですよ」
「えぇーまた文庫本を創刊するのかい?」
「そうっすよ」
「うーん」
ワサビ君の会社は「便所文庫」を創刊してからまだほんの数か月なのにもう次のを創刊だなんて、それどうなのかなあ。
「で、一等・前後賞合わせて三百万円でどうっすか?」
「ええぇーっ!? 三百万円! それじゃちょっとした宝くじじゃないかー」
「だから富くじ文庫なんすよ」
まあそりゃそうだろうけど、なんでまた文庫なんだろうか。
「三百万円はともかく、でもどうやって文庫本をくじにするんだい?」
「毎月十万冊までネット通販限定で申し込みできるようにするんすよ。そんとき00000から99999までの好きな数字を選んでもらいます。ただし同じ番号は選べなくしてね」
「それじゃそれを受け付けるWEBサイトなんかも用意しないといけないね」
「もちろんすよ。で、一等が二百万円、前後賞が五十万円。二等以下はまあ適当にってことで。WEBサイトの方は、先輩のところにお願いしてもいいし、ワラビさんの妹さんとこでもいいですしね」
あスギナさんのことか。彼女は情報処理の会社に勤めてるからね。
「あ、でも一冊ずつ番号が違うなら、在庫は全部月末には廃棄になるんだろう。大丈夫なのかい?」
「そんなことしませんよ。いいですか、番号は発送前にスタンプ捺すかシール貼るかするんですよ。それに毎月最初から十万部も刷ったりしませんし」
なるほどなあ。そう言う仕組みかぁ。
「でも文庫本ばっかりそんなに出せるの?」
「いやあ、また著作権切れで有名なのをチョイスすればいいんすよ。あっ、そうだ何か一冊くらい書き下ろしをカラコに頼んでもいいかも」
ああそうかぁ、カラコさんは最近小説なんかも書いてるんだったね。
「うんわかったよ。近いうちにそれでプレゼンやってみることにするよ。よおし、がんばるぞぉ」
「おっ、その意気ですよ先輩」
「へええ、百点かぁ。ゴマヤ君はもしかして数学者になるんじゃないかい。フィールズ賞なんていうのを獲得したりして」
「あー、まあそれも悪くないっすね。ですがゴマヤ本人は、社長を目指すみたいなんすよ。いっぱい稼いで、新築一戸建てを買ってくれるとかなんとか」
「ああそう言えばそうだったね。この前読ませてもらった作文に書いてあった」
「そうっすよぉ。わははは」
そりゃあ百点満点取ってきてくれたら嬉しいだろうけどね。
でも息子のその答案用紙をわざわざコピーして持ち歩くなんて、ワサビ君もかなりの親ばかだなあ。あははは。
「でも……いいねえワサビ君は息子が優秀で。それに引き替え、最近ぼくの娘は成績があんまり芳しくなくてね」
「ひっく……あー済みません。ナラオちゃんのことですね。まあ女の子だと、そんなに学はいらないんじゃないんすか?」
「いやいやワサビ君、女の子に学が必要ないなんて、それは大昔の話だよ。今は女も男も関係ないよ、今はもう――」
「はーい。手羽先お待ちどうさま四人前でしたね?」
「うん完璧だね。でも五人前でもよかったんだけど。わははは」
結局間違えるのかぁ。このお姉さん学がないなあ。
「てへへへ。それでご注文の方はもうよろしいでしょうか?」
「そうだね。また鮪のお刺身もらおうか。食べるでしょ先輩も」
「うっ、うんまあ」
そりゃあ君が食べるんならぼくだって食べたいさ。
「そんじゃ二人前。わさび大盛りで」
「はーい。毎度ありがとございまーす」
「あっあの、この分は絶対に間違わなくていいからねっ」
「はーい。それではジャスト二人前ご用意いたしますぅ。てへへへ」
「わははは。やっぱ先輩、しっかりしてますねえ」
「そうかい。あは、はははは」
はひぃ~~。ぼく今月もまたおけら確定だよ。
◇ ◇ ◇
――葦多君、ちょっと
――はっ、留真課長。なんでしょうか?
――何かいい企画はないのかね?
――いい企画ですか?
――そうだよ。年が明けてから私たちの課は、今一つぱっとしないからねえ
「――と言う訳でね。最近なかなか企画が出せないんだよ。これぞってのがね」
「う~ん。企画ですかぁ。そうっすねぇ」
ワサビ君、珍しく真剣な表情をしている。ちょっと調子が狂うなあ。でも、これこそが奇抜なアイデアを捻り出すときの編集者いや出版社社長って顔なのかなあ。
「何か思いつくことあるかい。あるんなら言ってみてくれないか。どんなことでもいいから、気兼ねなく言ってくれ」
「そうですかぁ。それじゃあ気兼ねなく、お姉さ~ん! おお~い、大瓶二本追加。それから手羽先三人前!」
「はぁ?」
「それともう一つ気兼ねなく。えっと、済みません先輩、実は俺また今月もすっからかんなんで、だから今夜はごちそさんっす!」
「ひぇ!?」
結局そうなるのかぁ~。余計に調子狂ってしまったよ。とほほほ。
「で、先輩さっきの企画の話なんすけど。こんなのはどうっすか」
「なんだい?」
「富くじ文庫ですよ」
「えぇーまた文庫本を創刊するのかい?」
「そうっすよ」
「うーん」
ワサビ君の会社は「便所文庫」を創刊してからまだほんの数か月なのにもう次のを創刊だなんて、それどうなのかなあ。
「で、一等・前後賞合わせて三百万円でどうっすか?」
「ええぇーっ!? 三百万円! それじゃちょっとした宝くじじゃないかー」
「だから富くじ文庫なんすよ」
まあそりゃそうだろうけど、なんでまた文庫なんだろうか。
「三百万円はともかく、でもどうやって文庫本をくじにするんだい?」
「毎月十万冊までネット通販限定で申し込みできるようにするんすよ。そんとき00000から99999までの好きな数字を選んでもらいます。ただし同じ番号は選べなくしてね」
「それじゃそれを受け付けるWEBサイトなんかも用意しないといけないね」
「もちろんすよ。で、一等が二百万円、前後賞が五十万円。二等以下はまあ適当にってことで。WEBサイトの方は、先輩のところにお願いしてもいいし、ワラビさんの妹さんとこでもいいですしね」
あスギナさんのことか。彼女は情報処理の会社に勤めてるからね。
「あ、でも一冊ずつ番号が違うなら、在庫は全部月末には廃棄になるんだろう。大丈夫なのかい?」
「そんなことしませんよ。いいですか、番号は発送前にスタンプ捺すかシール貼るかするんですよ。それに毎月最初から十万部も刷ったりしませんし」
なるほどなあ。そう言う仕組みかぁ。
「でも文庫本ばっかりそんなに出せるの?」
「いやあ、また著作権切れで有名なのをチョイスすればいいんすよ。あっ、そうだ何か一冊くらい書き下ろしをカラコに頼んでもいいかも」
ああそうかぁ、カラコさんは最近小説なんかも書いてるんだったね。
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