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六章「シマの御主人様」
28. 縞栗鼠シマの話(転)
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御主人様が「さよならシマ」と言ったあと、拙僧は天国と言う場所ではなく、冥王星へと旅だった。
そこでまず冥王星語を習得してから、とある術者の弟子にしてもらい修行を始めた。その頃から拙僧は、拙僧のことを拙僧と呼ぶようになった。
冥王星語での一人称単数は、日本語で言う所の「自分」か「某」か「拙僧」か、その三つしかなかった。修行僧となったから当然、拙僧は「拙僧」を選んだのだ。
拙僧は修行に明け暮れた。約六年が過ぎた頃、拙僧はまた車にはねられた。
今度は天王星へと旅だった。そこから地球へ帰れることを知った拙僧はすぐにでも御主人様の元へ帰りたいと思った。
「おいシマ」
「なんだもぉ!」
「天王星は必要なのか?」
「必要だもぉ!」
「天王星なんか要らないと云っている輩は多いがなあ」
「そんなこと知るかもぉ! 少なくとも拙僧は天王星は大切だと思ってるのぢぁ!」
「そうか判った。早く続きを離せ。すぐ話が逸れる」
「それは先生がとめるからもぉ!! いちいち腹の立つジジイぢぁ」
「ふぉふぉふぉ」
「みゃあ拙僧は大人にゃから耐えてやって『主人様の元へ帰りたいと思った』のとこからやり直すのぢぁ」
「ああそうしてくれ」
拙僧はすぐにでも御主人様の元へ帰りたいと思った。
だけど地球に帰るには、何か一つ地球の言語を習得せねばならないと言う厳しい掟があった。なぜなら冥王星語や天王星語を話してしまうと、宇宙人だと思われて大騒ぎになるからだ。
言うまでもなく拙僧は日本語を選択した。日本語教室の講師は変な訛りがあったため、拙僧の話し方がネイティブ日本人とは少しだけ異なってしまうようになるのだ。へぼ講師め。
それから一年後に、日本語一級に合格した拙僧はやっと地球に帰ることができたのだ。ただし元の姿ではなく縞栗鼠として。
アツオさんが、バスケットに入れられた拙僧を家に連れ帰ってくれた。
『開けてごらん』
『わあリスだあ!』
『かわいいー』
御主人様もキノコさんも大喜びだった。
『そっくりだろう。覚えてるかいシマのこと?』
拙僧の毛模様が、かつて猫だったときの模様とそっくりだったのだ。
『うんぼくちょっとだけ覚えてるよ。あっそうだ、この子もシマにしよう!』
『そうね。二代目になるわね』
このあと御主人様と二人きりになれたので、拙僧は恐る恐る口を開いた。少し補足しておくと、この時点で拙僧は拙僧のことを匹ではなく、人だと自認するようになったのだ。
『久しぶりもぉ。七年ぶりぢぁ!』
『しゃべれるの!? もしかしてシマなの?』
御主人様はとても驚いた。しかも拙僧のことを拙僧だと見抜いてくれたのだ。
『そうもぉ。拙僧は冥王星で修行したもぉ。その後、天王星へ行き、そこからまた地球に戻してもらったのぢぁ』
『ふうん。それでネコだったときのことはちゃんと覚えてるの?』
『覚えてるもぉ。普通は前世の記憶は全部消去されるはずだけど、システムトラブルで拙僧の記憶は残ったままになったもぉ』
『へぇーすごいね。しすてむとらぶるってなかなかやるじゃん!』
このとき御主人様は、システムトラブルの意味をよくわかっていないみたいだった。
『でもそのおかげでこうして御主人様に再会できたもぉ』
『ご主人さま?』
『そうぢぁ。拙僧は御主人様の使い魔なもぉ。御主人様は魔法少女なもぉ』
『へえぼくの秘密を知ってるんだあ』
『落花傘先生がそう言う設定にしておけって言ったもぉ』
『ふうんそうだったんだあ。これからもよろしくね。シマ』
『よろしくもぉ、御主人様!』
こうして拙僧は御主人様の使い魔になったのだ。
それから二年と二百九十四日後、つまり今年、先々月の話なのだけど、御主人様は残念ながら同じ二年四組の宿敵・嗅分芳子との戦いに敗れてしまった。芳子も魔法少女だったのだ。その事件は先生も短編小説『尻実検』に書いたから知っているだろ。
それで御主人様の日本救済計画が狂ってしまったので、その計画を変更して強硬手段に打って出ることになった。御主人様が退院した翌日、新ガス社の本社工場まで連れて行ってもらい、その内部に拙僧がただ一人で乗り込んだのだ。
工場内に入ると鼠どもがいて、拙僧の行く手を阻んだ。だけど、そんなことで拙僧は怯まなかった。向日葵の種が詰まった頬からいくつか取り出して食わせてやったら、簡単に言うことを聞きやがった。ちょろいやつらだ。ちょろチューめ。
鼠たちの道案内で、拙僧は迷うことなく偽ウィータの悪ガス管がある所にたどり着くことができた。
そしてその悪ガス管を、拙僧の自慢の歯で三本だけ噛み切ってやった。ガス管がゴム製だったからこそ、それが可能だったのだ。まあガス管と言うよりガスホースと言うべきなのだけど。
逃げた逃げた走りに走った。何しろ悪ガスを嗅ぐと、いくら厳しい修行に耐えた拙僧と言えども、そのうちに精神がやられてしまうのだから。特に人間なんかがそれを嗅ぐと、いかれてしまってふにゃふにゃになるのだ。勃起しなくなるのだ。
言うまでもなく新ガス本社は大混乱となった。それでやっと捜査のメスが入り、邪悪な陰謀は打ち砕かれたのだ。
「まったく日本の役人どもときたら、いつもいつも大事故が起きてからでしか動き出さないなもぉ。誰が税金払ってやってると思ってんだもぉって、ああ拙僧は一円も払ってなきゃったもぉ、みゃんごみゃんごもぉ」
まあとにかくそれによって日本は救われたと言うことだ。拙僧のおかげなのだ。
うおっほんぢぁ!
では、ここまで学習したことを年表にしてまとめておくから、ちゃんと帳面に写すことぢぁ。
大学入学共通テストの現代社会で出題するからしっかり覚えるようになもぉ!
「ははははもぉ、年表にすると言ったのは口から出任せだもぉ。拙僧は字が書けないのだからぢぁ。んなもんだからにゃ、共通テストにだって、たぶん出ないにゃもぉ。これで拙僧の話は終わりなもぉ」
「うんうん、有り難い有り難い。ぐすっ」
「あれ、先生なんで泣いてるもぉ?」
「べ、別に吾輩は泣いてないんだからねっ。ごみが目に入っただけよ!」
よくわからないけど、この変態ジジイ作家、拙僧の話に感動したらしいもぉ。
しかもそれをアニメイションか何かの美少女ツンデレキャラっぽく物真似で表現しているようなもぉ。
はっきり言ってバカっぽいし滅茶苦茶きもいもぉ。
と言うか、そのツインテールのカツラは一体どこから持ってきたのぢぁ?
「あほらしいので拙僧はもう家に帰って、御主人様と遊ぶのぢぁ。諸君、最後まで読んでくれて有り難うもぉ!」
そこでまず冥王星語を習得してから、とある術者の弟子にしてもらい修行を始めた。その頃から拙僧は、拙僧のことを拙僧と呼ぶようになった。
冥王星語での一人称単数は、日本語で言う所の「自分」か「某」か「拙僧」か、その三つしかなかった。修行僧となったから当然、拙僧は「拙僧」を選んだのだ。
拙僧は修行に明け暮れた。約六年が過ぎた頃、拙僧はまた車にはねられた。
今度は天王星へと旅だった。そこから地球へ帰れることを知った拙僧はすぐにでも御主人様の元へ帰りたいと思った。
「おいシマ」
「なんだもぉ!」
「天王星は必要なのか?」
「必要だもぉ!」
「天王星なんか要らないと云っている輩は多いがなあ」
「そんなこと知るかもぉ! 少なくとも拙僧は天王星は大切だと思ってるのぢぁ!」
「そうか判った。早く続きを離せ。すぐ話が逸れる」
「それは先生がとめるからもぉ!! いちいち腹の立つジジイぢぁ」
「ふぉふぉふぉ」
「みゃあ拙僧は大人にゃから耐えてやって『主人様の元へ帰りたいと思った』のとこからやり直すのぢぁ」
「ああそうしてくれ」
拙僧はすぐにでも御主人様の元へ帰りたいと思った。
だけど地球に帰るには、何か一つ地球の言語を習得せねばならないと言う厳しい掟があった。なぜなら冥王星語や天王星語を話してしまうと、宇宙人だと思われて大騒ぎになるからだ。
言うまでもなく拙僧は日本語を選択した。日本語教室の講師は変な訛りがあったため、拙僧の話し方がネイティブ日本人とは少しだけ異なってしまうようになるのだ。へぼ講師め。
それから一年後に、日本語一級に合格した拙僧はやっと地球に帰ることができたのだ。ただし元の姿ではなく縞栗鼠として。
アツオさんが、バスケットに入れられた拙僧を家に連れ帰ってくれた。
『開けてごらん』
『わあリスだあ!』
『かわいいー』
御主人様もキノコさんも大喜びだった。
『そっくりだろう。覚えてるかいシマのこと?』
拙僧の毛模様が、かつて猫だったときの模様とそっくりだったのだ。
『うんぼくちょっとだけ覚えてるよ。あっそうだ、この子もシマにしよう!』
『そうね。二代目になるわね』
このあと御主人様と二人きりになれたので、拙僧は恐る恐る口を開いた。少し補足しておくと、この時点で拙僧は拙僧のことを匹ではなく、人だと自認するようになったのだ。
『久しぶりもぉ。七年ぶりぢぁ!』
『しゃべれるの!? もしかしてシマなの?』
御主人様はとても驚いた。しかも拙僧のことを拙僧だと見抜いてくれたのだ。
『そうもぉ。拙僧は冥王星で修行したもぉ。その後、天王星へ行き、そこからまた地球に戻してもらったのぢぁ』
『ふうん。それでネコだったときのことはちゃんと覚えてるの?』
『覚えてるもぉ。普通は前世の記憶は全部消去されるはずだけど、システムトラブルで拙僧の記憶は残ったままになったもぉ』
『へぇーすごいね。しすてむとらぶるってなかなかやるじゃん!』
このとき御主人様は、システムトラブルの意味をよくわかっていないみたいだった。
『でもそのおかげでこうして御主人様に再会できたもぉ』
『ご主人さま?』
『そうぢぁ。拙僧は御主人様の使い魔なもぉ。御主人様は魔法少女なもぉ』
『へえぼくの秘密を知ってるんだあ』
『落花傘先生がそう言う設定にしておけって言ったもぉ』
『ふうんそうだったんだあ。これからもよろしくね。シマ』
『よろしくもぉ、御主人様!』
こうして拙僧は御主人様の使い魔になったのだ。
それから二年と二百九十四日後、つまり今年、先々月の話なのだけど、御主人様は残念ながら同じ二年四組の宿敵・嗅分芳子との戦いに敗れてしまった。芳子も魔法少女だったのだ。その事件は先生も短編小説『尻実検』に書いたから知っているだろ。
それで御主人様の日本救済計画が狂ってしまったので、その計画を変更して強硬手段に打って出ることになった。御主人様が退院した翌日、新ガス社の本社工場まで連れて行ってもらい、その内部に拙僧がただ一人で乗り込んだのだ。
工場内に入ると鼠どもがいて、拙僧の行く手を阻んだ。だけど、そんなことで拙僧は怯まなかった。向日葵の種が詰まった頬からいくつか取り出して食わせてやったら、簡単に言うことを聞きやがった。ちょろいやつらだ。ちょろチューめ。
鼠たちの道案内で、拙僧は迷うことなく偽ウィータの悪ガス管がある所にたどり着くことができた。
そしてその悪ガス管を、拙僧の自慢の歯で三本だけ噛み切ってやった。ガス管がゴム製だったからこそ、それが可能だったのだ。まあガス管と言うよりガスホースと言うべきなのだけど。
逃げた逃げた走りに走った。何しろ悪ガスを嗅ぐと、いくら厳しい修行に耐えた拙僧と言えども、そのうちに精神がやられてしまうのだから。特に人間なんかがそれを嗅ぐと、いかれてしまってふにゃふにゃになるのだ。勃起しなくなるのだ。
言うまでもなく新ガス本社は大混乱となった。それでやっと捜査のメスが入り、邪悪な陰謀は打ち砕かれたのだ。
「まったく日本の役人どもときたら、いつもいつも大事故が起きてからでしか動き出さないなもぉ。誰が税金払ってやってると思ってんだもぉって、ああ拙僧は一円も払ってなきゃったもぉ、みゃんごみゃんごもぉ」
まあとにかくそれによって日本は救われたと言うことだ。拙僧のおかげなのだ。
うおっほんぢぁ!
では、ここまで学習したことを年表にしてまとめておくから、ちゃんと帳面に写すことぢぁ。
大学入学共通テストの現代社会で出題するからしっかり覚えるようになもぉ!
「ははははもぉ、年表にすると言ったのは口から出任せだもぉ。拙僧は字が書けないのだからぢぁ。んなもんだからにゃ、共通テストにだって、たぶん出ないにゃもぉ。これで拙僧の話は終わりなもぉ」
「うんうん、有り難い有り難い。ぐすっ」
「あれ、先生なんで泣いてるもぉ?」
「べ、別に吾輩は泣いてないんだからねっ。ごみが目に入っただけよ!」
よくわからないけど、この変態ジジイ作家、拙僧の話に感動したらしいもぉ。
しかもそれをアニメイションか何かの美少女ツンデレキャラっぽく物真似で表現しているようなもぉ。
はっきり言ってバカっぽいし滅茶苦茶きもいもぉ。
と言うか、そのツインテールのカツラは一体どこから持ってきたのぢぁ?
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