この学園モノの乙女ゲームは国語が学べる!?

紅灯空呼

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第二章 男根のエキスウォーターいとビンビンだ♪

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 今のところ僧人は、俗人からの話しかけに短い返事をするだけで、花実の訪問を嫌がっているようには見えないものの、花実とはまともな会話ができていない。
 花実は、できるだけさり気なくなるように気をつけて僧人の姿を見た。僧人の髪は俗人の言っていた通りで、確かに珍しい色をしている。輝くような黄色だ。少し白っぽい肌色の顔で、ヘアバンドのよく似合う可愛い子である。
 あからさまに学校へ行こうなどとは、さすがに言いにくいので、花実は僧人に自分の携帯電話に保存してある写真を見せることにした。

「これ、学校で写したんだよ」

 入学式の日に撮った中庭の桜の花だ。

「この桜、まだ咲いてるよ。月曜ならまだ見れると思うよ」

 僧人は黙ったままである。

「うんそうなんだよ。中庭にね、とても気持ちのいい場所があるんだ。この前ねえ、文字部のみんなでお花見をしたんだ」
「あっそうだぁ酢雀君。あの男根エキスウォーターの和歌、僧人君に歌ってあげませんか?」
「うんそうだね。僧人、花実ちゃんが初めて詠んだ和歌だよ。聞いておくれ」
「僧人君、聞いてね」

 俗人と花実がその場に立った。
 僧人は二人を見上げた。

 ――はなみしてぇ~ 先輩たちとぉ 男根のぉ~♪
 ――エキスウォータ~ いとビンビンだぁ~♪

 歌い終わって、爽やかな表情の俗人と花実。
 そんな二人を黙って見つめていた僧人が口を開く。

「あの、お兄ちゃん」
「ん? どうした僧人?」
「僕、学校、行く」
「僧人! そうか行ってくれるか!」
「うん」
「わぁい、やたぁー!」

 大喜びする二人の顔を見て、初めて僧人が微笑んだ。それを見て花実はますます嬉しくなってくる。
 このとき、俗人の携帯電話が鳴った。白夜からだ。

「もしもし、白夜?」
『そうだ』
「どうしたの?」
『昨日言っていた話が決まった。学校側に相談して、俗人の弟のクラスを一組に変更して貰えることになった。花実と一緒になるぞ。それなら安心だろ?』
「え、本当なの!? そんなことできたの?」
『できた。簡単だったぞ』

 それは、増鏡高等学校の理事長・葛埼かつらぎ墳子ふんこさんが白夜の母親だからだ。

「ありがとう。白夜」
『ああ。それじゃそういうことだからな』
「うん、また月曜にね」
『そうだな』

 通話を終えた俗人は、僧人に優しい笑顔を向けた。

「僧人、花実ちゃんと同じクラスになれるそうだよ。月曜日にうまく変更して貰えるんだって。よかったな?」
「うん」
「僧人君、よろしくね」
「よろしく、お願いします」

 僧人が初めて笑顔で花実に向かって話した。もちろん花実も笑顔だ。
 この後、俗人と花実が文字部のことや白夜のことを僧人に教えてやった。
 僧人もときどき笑ったりして、まだぎこちなさが残るものの、花実とも会話できるようになって、その話の流れで僧人も文字部に入部することに決まった。
 そうこうしているうちに花実が帰る時間となる。約束通り、俗人がペットショップへ連れて行ってやった。僧人もついて行った。
 しばらく一緒に動物たちを見て楽しんだ花実は、俗人たちに駅まで見送って貰い、家に帰って行った。

        *

 月曜日の朝。増鏡高等学校一年一組の教室だ。
 この日のショート・ホームルームは、担任による一人お芝居『転入生紹介』で始まった。

「転入生を紹介します、とは言っても、事務処理上のミス発覚により、本来の正しいクラスに戻ってきただけです。それで今日から正式にこの一年一組の仲間となる酢雀僧人君です!」

 拍手で迎えられた僧人が窓側の一番後ろの席に着く。四日遅れでやっと着て貰えることになった制服が、やわらかな春の光を浴びて輝きを増している。
 そしてショート・ホームルームが終了する直前になって、僧人の右隣の男子と担任による二人お芝居『座席談判』が始まった。

「先生、やっぱオレ目が悪くて、黒板よく見えないっす!」
「おおそうなのか。目つきが悪い、の言い間違いじゃなくて、悪い、と言いたいのだな?」
「先生、それないっすよぉ。オレぐれっすよぉ、マジぐれっすよ~」

 彼のリアクションは、そこそこの笑いが取れた。そのために、この男子には「グレゴリス」というあだ名がつくのだ。しかも、後にそれが「グレゴリラ」に変わってしまうなんてことを、今の彼には知る由もない。

「そうだなあ。それじゃ牡椋さん、悪いけど悪い彼と、席を替わってやってくれるか?」

 そこまで強調して言わなくともよいだろう、というくらいに、「目が」の部分に力を込める担任。アドリブで受けを狙っているみたいだが、その目つきの悪い男子に後で報復されるかもしれないので、誰一人として笑わなかった。
 こうして、台本通りに事が運び、花実と僧人が隣同士になったのである。

        *

 昼休みを迎えて、花実は予定通りパンを買いに行く。
 僧人は弁当を持ってきていたけれど、わざわざ花実について行った。パンの販売は食堂の近くでやっている。
 白夜が言っていたように、食堂は既にかなり混雑していた。パンの方も、そこそこに賑わっていたが、花実はどうにか自分の好みに合ったパンと飲み物を買うことができた。

「そうだぁ、中庭で食べよっか?」

 僧人より一歩だけ前を歩いている花実が言い出す。土曜日に僧人の部屋で話したことを思い出したのだ。

「うん」

 二人はまず僧人の弁当を取りに一度教室に戻り、すぐに中庭へと向かった。

「綺麗な風」

 中庭に着くと、僧人が思わず呟いた。

「わあぁ」

 正真正銘、桜色の風。綺麗だ。満開はとっくに過ぎてはいるものの、まだここの桜は楽しめる。
 フンワリとした春の風と香り。今日も穏やかで気持ちのよい天気となった。辺りには数組のグループが、それぞれにおしゃべりを交えたランチタイムを楽しんでいる。
 僧人の高校生活最初の弁当は、きっと忘れられない思い出の一つになる筈。

「へえぇ、その弁当、僧人君が作ったんだ。もしかして、酢雀君の分も一緒に作ったの?」
「そうです」
「そうなんだぁ、凄いなー」
「そんなことないです」

 俗人も今頃、僧人が作ってくれた弁当を食べているだろう。もしかすると、早速誰かに冷やかされているかもしれない。見た目がいかにも女の子に作って貰ったぞ、という感じの弁当なのだ。
 そうだとしても、俗人の場合「それ彼女に作って貰ったのか? このこのぉ~」などと言われて肩を突かれても、「弟が作ってくれたんだ」というような、あっさりした返答をするくらいだろうが……。

        *

 新年度最初の授業も無事終了して、放課後を迎えた。
 花実と僧人が一緒に文字部の部室にやってきた。白夜と俗人は既にきていた。

「私が部長の天里白夜、二年だ。よろしく」
「知っての通り、一年四組の酢雀俗人。一応副部長ってことになった」
「同じく知っての通り、一年一組の牡椋花実です。改めて、よろしくね」
「一年一組の酢雀僧人です。よろしくお願いします」

 僧人は記入済みの入部届を白夜に手渡した。実は金曜日に俗人が一枚持って帰っていたのだ。
 クラブ活動見学は今週末までだから急がなくてもよいのだが、それでも花実のときと同じように僧人に対しても念押しの必要はなさそうだ。

「君のことは僧人と呼んでもよいか?」
「はい」
「ではそうする」

 白夜はそう言ってから、自分の鞄から書店の紙袋を取り出す。

「僧人の問題集だ。部費を使っているからお金は不要」
「はい。ありがとう、ございます」

 僧人は嬉しそうな顔で受け取った。

 ――――――――――――――――
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    200点はもらったぁー
  増鏡ゼミナール講師 清原辛子

 過去問やってお疲れじゃダメダメ!
 ――――――――――――――――

 僧人の文字部への入部希望を、白夜が俗人からの電話で知らされたのは、日曜の夕方のことなのだが、そのとき既にこの問題集を購入済みだった。つまり、白夜は僧人の入部を強く感じていたのである。
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