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第3章. 衆議院総選挙

032. 吾郎たちと世論調査の結果

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 気絶していた吾郎が息を吹き返した。おデコが痛すぎるので氷で冷やそうと思い立ち、1階へ下りて冷凍庫のある台所へ行くことにするのだ。

「なんでオレは気を失っていたんだろう?」

 ドアに激突したショックのせいで、直前まで吾郎が経験したことの記憶の断片がぶっ飛んだらしい。鼻をぶつけていたら折れていたかもしれないが、それは免れた。
 冷凍庫には、額に巻きつけるタイプの氷嚢が入っていたので、それを装着して居間に移動してみた。そこには4人がそろっていた。

「あら吾郎、どうしたって云うの!」
「ああ母さん、頭がとんでもなく痛いんだ」
「お勉強のしすぎかしらねえ」
「いやこれは、なにかにぶつけた痛みなんだ。それがなにか知らないけど。それより4人で集まってなにをしている?」
「見れば判るでしょ、テレビよ」

 栗花が云うように、彼女たちはリクライニングチェアに腰かけて有機EL大画面256型32K対応テレビスクリーンを見つめているのだ。それには夜の報道番組が流れている。
 衆議院総選挙の投票と開票は、いよいよ2日後に迫っているのだが、この前の週末に行われたらしい世論調査の結果と、今日時点の衆院選結果予測について、オジさんとオバさんが仲よく解説しているところだ。

「おい吾郎」
「なんだよ?」
「痛みに耐えてよくがんばった。お前もこれを見ろ」
「衆議院総選挙に関する報道だな」
「ああそうだ、お前も立派な有権者だ。投票には行くのだろ?」
「もちろんだよ」
「それならワシの分までしっかり投票してこい」
「おいおい、父さんは行かないのか?」
「行くものか、面倒臭いのに。玉ねぎと鮪を食いすぎたときの屁よりも臭いのだ」
「屁は関係ないだろ」

 あきれて果てた吾郎は、スカすら出すこと叶わなかった。
 吾郎の義理の父にして〈大富豪ニート〉であるところの助夫すけおは、ありとあらゆる選挙でこれまで1度も投票しに行ったことがないのだ。
 本人は「それもまた〈清き棄権〉と云う有権者の有するジャパニーズ憲法で保障された権利であーるの3乗」などと云うまったくの詭弁を弄している。それなのに、少なくとも有権者になってからは毎日欠かさず女の膣内に濁った白汁を投じ続けてきたのだから、稀に見る変態であることは当選確実に違いない。
 仕方ないので吾郎も、吾郎専用の赤いリクライニングチェアに腰かけて、テレビスクリーンを見ることにした。
 テレビ帝京放送をキー局として全国50局で構成されているジャパンの視聴世帯120%をカバーするテレビエクスペリエンスネオネットワーク、略称〈TENN〉が今月行った世論調査の結果について、ごちゃごちゃと説明がなされているのだ。内閣支持2%、不支持85%だと云う字幕が表示されている。

『TENNは、今月11日から3日間、ジャパン全国ありとあらゆる電話番号の中から、人工知能に数字を選ばせて組み立てることで抽出する番号に電話をかける「AIDD」と云う方法を使って世論調査を行いました。調査の対象となったのはジャスト20万番号で、そのおよそ8%に該当する1万5千678番号から回答を得ることができました。この調査によりますと、穴留あなる内閣を「支持する」とお答えになった方は、先月衆議院が解散する1週間前に行った調査より1ポイント高い2%だったことに対して「支持しない」とお答えになった方は5ポイント低い85%と云う結果を得られました。支持する理由のうち「ワリメがいると思うから」が60%、「支持する政党の自由共生党だから」が25%、「野党はウザいから」が5%などとなりました。逆に支持しない理由のうち「ワリメがいないと思うから」が80%、「自由共生党が嫌いだから」が15%、「穴留総理の顔がムカつくから」が5%となっています』

 オバさんがニュースの原稿を読む最中はずっと彼女の上半身が映されていたが、読み終えてすぐスタジオの背景に表示されている数人の党首たちの中から穴留総理が選ばれて、彼の顔写真にズームインされた。
 助夫がボソリと云う。

「この顔は確かにムカつく。プ~ンとくる」

 テレビの映像内では、再びオバさんがニュースの原稿を読み始めた。

『どの政党を支持しておられるか1つだけ教えてくださいと云う質問には、自由共生党が5ポイント高くなって25%、ジャパニーズ主権党が2ポイント低くなって10%、その他の政党はご覧の通りとなっています。なお、どの政党も支持しないが初めて0%になりました。こんなことってあるんですね』

 オバさんが笑顔を振り撒きながら、長方形の紙ボートを自分の胸の前に掲げた。それに各政党の支持率が載っている。
 今度は栗花がボソリと云う。

「このオバさんの顔もムカつくわ」

 スーパーレズロリアンなどと云う異名を持つ栗花だが、厚化粧の年増女は大嫌いなのだ。
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