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【第十四幕】アルデンテ王国の危機

激戦! 悪の令嬢軍人vsピクルス

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 ピクルスは、レモン汁の奇襲を受けて大ピンチに立たされている。
 今まさに、見るも毒々しい赤キノコが、彼女の口に押し込まれつつあるのだ。

「こらあ中年増、狼藉をやめろ!」

 どこからか威圧的な声が届いた。
 これには、少女の姿に化けていた女はカチンといらだった。

「誰だい!? レディーに向かって失礼いうんじゃないよ!!」

 金切り声を上げながら、女が辺りを見回す。
 だが、人はおろか土竜一匹の気配すら、地上にはなかった。
 いらつきがサミットに達した女は、空になにか感じて叫ぶ。

「上なのかい!?」
「そうだ。ここだ!」

 この頃、まだ痛みは残るものの、漸く視界が明瞭となってきたピクルスも、反射的に見上げた。
 そこには、ホバリングのブルーダヴと、その背に小さな少年の雄姿があった。

「スタフィッシュさん、ご機嫌よう!」
「うん、また会えたね、ピクルス大佐」

 二人が熱い視線を交わして、良いムードを漂わせている。
 女は、ひたすらむかついた。

「ちょいと待ちな! ガキ同士で、そんなに見せつけてくれるんじゃないよ!」
「それって、ロウマンティックのカケラすら失った、中年増の妬みかい?」
「むっぎきーっ! 黙れ黙れぇ、黙らっしゃらぁーっぷ!!」
「三十路を越えた女のヒスだね。ははは」

 これには、女の両の目が炎を噴くようだった。

「こおらああーっ! あたしはまだ二十歳なのよお!」
「まあぁ・*!!?」
「えっえええええぇぇぇげぇげぇぇーっ!!」

 ピクルスとスタフィッシュは驚きのあまり腰を抜かしてしまった。
 とはいえ、ものの五秒で二人とも回復できた。世間で「青の魔鳥」という異名で恐れられているブルーダヴが、腰痛緩和魔法を使ってすっかり癒してくれたのだ。
 その偉大な背中から、スタフィッシュが軽やかに飛び降り、ピクルスの肩に移った。
 もちろん、女が黙ってはいない。

「この裏切り者のスタフィッシュ、同人誌即売会へ行ったんじゃないんか!」
「ははは、フェイクだよ。そんなのに騙されるとは、つくづく甘いなあ中年増、いや真の姿は、悪の令嬢軍人フライシラコ‐ピザエス、だよな?」
「ひゃっはっは、気づいていたとはねえ……」
「当たり前だ。この僕を誰だと思っている。緑妖精スピニッチ族というのは、あくまでも仮の姿、しこうして、その正体は秘密だ!」
「くっ……こしゃくな奴めぇ!」

 ピザエスは、自分の正体を見破られていた悔しさに加えて、緑妖精スピニッチ族だと思っていた少年が正体を教えてくれないので、気分がむしゃくしゃした。
 ここでピクルスが質疑する。

「嘘をついていらしたの?」
「ああそうだけど、済まなかったよ、ピクルス大佐。でも信じてほしい。僕は君を騙してまで、ピザエスに打ち勝ちたいとは木っ端の微塵ほども思ってはいないんだ。大好きな同人誌即売会を逃しても、それでもひたすらに君を守るために立ち向かうんだという意向を、この悪の令嬢軍人に思い知らせてやりたかったんだ。そうすれば、どんなに愚かな中年増といえども、今後はそうそう安直に手出しをしてこないだろう、と考えてのことなのさ」
「まあ、全てはわたくしのために?」
「そうだとも、君は僕の大切なお姫様だからね」
「シュアー!」

 ここまで黙っていたピザエスが鼻先で笑った。

「下手っぴいな学芸会はそこまでにしときな。やだねえガキどもは、リアルお姫様が聞いて呆れるよ」
「なんだとお!」
「ふんだ、食らえぇーっ@!」

 再びピザエスがレモン一切れを強く絞って果汁を飛ばした。
 だが、俊敏に「ぐもっ!」と構えるピクルスの手刀の方が早かった。鮮やかな軌跡が、地と水平な孤上を高速で走っていたのだ。
 ヒュンと空が鳴って、飛散する果汁は気化消滅した。
 それだけでなく、ピザエスの手中にあったはずの八つ裂きレモンが、微かなレモングリーンの輝きを残して、悉く大空遠くへぶっ飛んで行ったのだ。

「やっとできましてよ第二十八番奥義、ウィーズル・ウィズ・シクル」
「うん、良くやった、ピクルス大佐。稀に見る鎌イタチに、僕は感動した!」

 惜しみなく褒め言葉を捧げるスタフィッシュを、ピザエスが睨みつける。
 だが、劣勢を感じている彼女にとって、ここは退散を選ぶしかない。

「くぬぬぬぅ~、覚悟しておいで!!」

 辺りに、ゆらゆらと黒い煙が漂うのみとなった。

「黒煙隠遁魔法だね」
「そう、ですの?」
「寸分違わずそうだよ。しかし、思っていたより手強い相手だ……」

 勝利しても、それがピクルスの刀技のお陰であることとは無関係に、決して気を緩めないスタフィッシュだ。それこそが真の勇者の証である。
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