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【第八幕】RPG『奪われた聖剣を取り戻せ!』
戦いの舞台は悪意渦巻くキャロッツ畑
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トランスファーの手続き場所では、まずRPG『奪われた聖剣を取り戻せ!』の攻略本を提示させられた。それが通行証なのだ。
それから、簡単ないくつかの口頭試問に応えることで、すぐにトランスファーの許可が下りた。ピクルスたちは安堵した。
「すんなりと行きましたわ」
「そうだね。無事ネパ国へ入れるよ。簡単だったろ?」
「シュアー!」
だが、普通の神では予期できないようなアクシデントが、暗く冷たい夜空を見据え、沈黙を保ちながら密かに彼らを待ち侘びているのである――そのことを知っているのは「ラアユライスの悪魔」とも呼ばれる超越的存在、なおかつ因果律的絶対神である天帝ラアユー、ただ一柱だけなのだった。
つまりピクルスたちは、一つミスをしていた。キャロット人民共和国の国防省を通る際、手土産を持参していなかった。人生経験の浅い二人は、そのような世渡り術を持ち合わせていない。
だから天帝ラアユーは、彼らを懲らしめてやろうと決めた。通常とは異なる隠しステージ「βカロチン」へと、ピクルスたちを乗せたブルーカルパッチョが飛ばされてしまうのだ。
そのような極めて過酷な場所へ、029時空間に生きる元気溌剌十七歳の少女がゲーム内では、レベル1ヒロイン「ピクルス姫」として悪と戦わなければならなくなったのである。
キャロット人民共和国の広大なキャロッツ畑の上空に飛ばされた戦闘機ブルーカルパッチョが、想定外のアクシデントに見舞われ、墜落してしまう。
落ちた場所は、新鮮な野菜に恵まれている、とても豊かで穏やかな畑なのである。そう、とても平和で静かな土地だった、少し前までは。
なにを隠そう鞘隠元、包み隠さず野菜餃子、とどのつまり「ボラからトド」という訳である。というのも、近頃キャロッツ・スターの各地で、悪行を働く魔惣菜が増えてきており、その対策として、恒星オヤサイを実質的に支配しているベジタブール王家が、騎士団を作ることにして、各国から厳選に厳選を重ねて選んだ屈強な戦士たちを召喚した。
彼ら彼女らは、日夜とても厳しい訓練に耐えている。もちろんその目的は、悪の魔惣菜軍団を退治することである。
Ω Ω Ω
ここはキャロット人民共和国の中で二番目くらいに衝撃的なほど清らかな水、と称えられるくらいに有名な「セカンド・インパクト・レイク」と呼ばれている湖の近くだ。
ちょうど、その湖に向かって、森の中の遊歩道を歩いている少女がいる。ベジタブール王家の第一皇女ピクルス姫である。分かれ道に差しかかるところだ。
「どちらへ行きましょうか? 右でしょうか左でしょうか。いいえ、ここはお約束ですわ。ジャンプしますとも!」
ほとんど迷わず意を決したピクルス姫は、勢いのある跳躍で大空に向かって飛び立った。
実は、ベジタブール王家の第一皇女というのは仮の姿であり、この元気大爆発少女は「ジェットフット飛翔」という魔法を使える下級乙女勇者なのである。風を切って大空を滑空しながら、監視任務を遂行するのだ。
少しして、ピクルス姫が前方からの飛行物体を認識した。
「キノコ侯爵家の三姉妹がやってきましたのね。恐らく、わたくしに意地悪をしにきたのでしょう」
そう思案するのも束の間、三人の女が猛スピードで急接近してきて、危うくピクルス姫と衝突しそうになった。
「ちょっとあなたたち、危ないですわよ!」
ピクルス姫は、キノコ侯爵家の三姉妹、マッタケェキス、エノキルン、シメジィナを叱責した。
だが、彼女たちの顔に反省の色はなく、三人揃って不貞腐れた顔をしている。
「ぼん!」
「たん!」
「なす!」
なんとキノコ三姉妹は、謝罪するどころか、ピクルス姫に対して口悪く罵詈雑言を浴びせかけた。これにはピクルス姫も黙ってはいられない。
「はあ? 誰に向かって、ほざいてらして?」
「知りませんわ」
「アンタって一体」
「ナニサマのおつもり?」
「わたくしは、キュウカンバ王家の第一皇女ピクルス姫ですわよ!」
ピクルス姫は、どや顔でいい放った。権力で捻じ伏せられると思ったのだ。
だが、それにもキノコ三姉妹は怯むことなく、さらに罵りの言葉を吐く。
「それが?」
「どうしましたの?」
「腰抜け皇女さん?」
度重なるあまりの無礼さ加減に激高したピクルス姫は、憤怒の女武神のような形相で一喝を放つ。
「キュルルリリィィーγΩ!」
両陣営を隔てる距離はわずか一メートルたらず。
その狭間に、キャロット色の火花がパチパチと飛び出しそうな、そんな発破寸前の状況と化してしまったのである。戦いの始まりだ!
「お姉様、ここはアタシらの必殺技エルゴステロール・アタックですわ」
末っ子のシメジィナが長女マッタケェキスに、さりげなく提案した。
「そうね。エノキルンも、それでよろしくて?」
「もちもちモッチモチィー♪」
もち肌美人という異名を持つ次女も同意した。
三姉妹は、すぐさま「エルゴステロール・アタック」の陣形を組んだ。
だが、キノコの成長促進度がたりなかった。この時既にピクルス姫が自慢の名刀オチタスピを抜いて、彼女たちの菌床を斬り終えていたのだ。
「どうよ、まいったけ、なの?」
「きぃん!」
「モッチーリ♪」
「にょきあーん!」
キノコ三姉妹は、菌類にありがちな悲鳴を叫びながら、あっさりと裂け散る。
「わたくしったら、また実らないものを斬ってしまいましてよ。ふぅ~」
勝利を収めたものの、どうしようもない虚しさを感じつつ、オチタスピを鞘に納めるピクルス姫だ。
前菜キャラクター「キノコ三姉妹」を倒し、難なく隠しステージ「βカロテン」をクリアできたピクルスは、ムスクウリが待つブルーカルパッチョに戻った。墜落した戦闘機は、なぜか修理されて新品同様になっていた。天帝ラアユーからのボーナスだからだ。
こうしてピクルスたちは、ニクコロ星ウムラジアン大陸のネパ国に向けて飛ばされるのである。
それから、簡単ないくつかの口頭試問に応えることで、すぐにトランスファーの許可が下りた。ピクルスたちは安堵した。
「すんなりと行きましたわ」
「そうだね。無事ネパ国へ入れるよ。簡単だったろ?」
「シュアー!」
だが、普通の神では予期できないようなアクシデントが、暗く冷たい夜空を見据え、沈黙を保ちながら密かに彼らを待ち侘びているのである――そのことを知っているのは「ラアユライスの悪魔」とも呼ばれる超越的存在、なおかつ因果律的絶対神である天帝ラアユー、ただ一柱だけなのだった。
つまりピクルスたちは、一つミスをしていた。キャロット人民共和国の国防省を通る際、手土産を持参していなかった。人生経験の浅い二人は、そのような世渡り術を持ち合わせていない。
だから天帝ラアユーは、彼らを懲らしめてやろうと決めた。通常とは異なる隠しステージ「βカロチン」へと、ピクルスたちを乗せたブルーカルパッチョが飛ばされてしまうのだ。
そのような極めて過酷な場所へ、029時空間に生きる元気溌剌十七歳の少女がゲーム内では、レベル1ヒロイン「ピクルス姫」として悪と戦わなければならなくなったのである。
キャロット人民共和国の広大なキャロッツ畑の上空に飛ばされた戦闘機ブルーカルパッチョが、想定外のアクシデントに見舞われ、墜落してしまう。
落ちた場所は、新鮮な野菜に恵まれている、とても豊かで穏やかな畑なのである。そう、とても平和で静かな土地だった、少し前までは。
なにを隠そう鞘隠元、包み隠さず野菜餃子、とどのつまり「ボラからトド」という訳である。というのも、近頃キャロッツ・スターの各地で、悪行を働く魔惣菜が増えてきており、その対策として、恒星オヤサイを実質的に支配しているベジタブール王家が、騎士団を作ることにして、各国から厳選に厳選を重ねて選んだ屈強な戦士たちを召喚した。
彼ら彼女らは、日夜とても厳しい訓練に耐えている。もちろんその目的は、悪の魔惣菜軍団を退治することである。
Ω Ω Ω
ここはキャロット人民共和国の中で二番目くらいに衝撃的なほど清らかな水、と称えられるくらいに有名な「セカンド・インパクト・レイク」と呼ばれている湖の近くだ。
ちょうど、その湖に向かって、森の中の遊歩道を歩いている少女がいる。ベジタブール王家の第一皇女ピクルス姫である。分かれ道に差しかかるところだ。
「どちらへ行きましょうか? 右でしょうか左でしょうか。いいえ、ここはお約束ですわ。ジャンプしますとも!」
ほとんど迷わず意を決したピクルス姫は、勢いのある跳躍で大空に向かって飛び立った。
実は、ベジタブール王家の第一皇女というのは仮の姿であり、この元気大爆発少女は「ジェットフット飛翔」という魔法を使える下級乙女勇者なのである。風を切って大空を滑空しながら、監視任務を遂行するのだ。
少しして、ピクルス姫が前方からの飛行物体を認識した。
「キノコ侯爵家の三姉妹がやってきましたのね。恐らく、わたくしに意地悪をしにきたのでしょう」
そう思案するのも束の間、三人の女が猛スピードで急接近してきて、危うくピクルス姫と衝突しそうになった。
「ちょっとあなたたち、危ないですわよ!」
ピクルス姫は、キノコ侯爵家の三姉妹、マッタケェキス、エノキルン、シメジィナを叱責した。
だが、彼女たちの顔に反省の色はなく、三人揃って不貞腐れた顔をしている。
「ぼん!」
「たん!」
「なす!」
なんとキノコ三姉妹は、謝罪するどころか、ピクルス姫に対して口悪く罵詈雑言を浴びせかけた。これにはピクルス姫も黙ってはいられない。
「はあ? 誰に向かって、ほざいてらして?」
「知りませんわ」
「アンタって一体」
「ナニサマのおつもり?」
「わたくしは、キュウカンバ王家の第一皇女ピクルス姫ですわよ!」
ピクルス姫は、どや顔でいい放った。権力で捻じ伏せられると思ったのだ。
だが、それにもキノコ三姉妹は怯むことなく、さらに罵りの言葉を吐く。
「それが?」
「どうしましたの?」
「腰抜け皇女さん?」
度重なるあまりの無礼さ加減に激高したピクルス姫は、憤怒の女武神のような形相で一喝を放つ。
「キュルルリリィィーγΩ!」
両陣営を隔てる距離はわずか一メートルたらず。
その狭間に、キャロット色の火花がパチパチと飛び出しそうな、そんな発破寸前の状況と化してしまったのである。戦いの始まりだ!
「お姉様、ここはアタシらの必殺技エルゴステロール・アタックですわ」
末っ子のシメジィナが長女マッタケェキスに、さりげなく提案した。
「そうね。エノキルンも、それでよろしくて?」
「もちもちモッチモチィー♪」
もち肌美人という異名を持つ次女も同意した。
三姉妹は、すぐさま「エルゴステロール・アタック」の陣形を組んだ。
だが、キノコの成長促進度がたりなかった。この時既にピクルス姫が自慢の名刀オチタスピを抜いて、彼女たちの菌床を斬り終えていたのだ。
「どうよ、まいったけ、なの?」
「きぃん!」
「モッチーリ♪」
「にょきあーん!」
キノコ三姉妹は、菌類にありがちな悲鳴を叫びながら、あっさりと裂け散る。
「わたくしったら、また実らないものを斬ってしまいましてよ。ふぅ~」
勝利を収めたものの、どうしようもない虚しさを感じつつ、オチタスピを鞘に納めるピクルス姫だ。
前菜キャラクター「キノコ三姉妹」を倒し、難なく隠しステージ「βカロテン」をクリアできたピクルスは、ムスクウリが待つブルーカルパッチョに戻った。墜落した戦闘機は、なぜか修理されて新品同様になっていた。天帝ラアユーからのボーナスだからだ。
こうしてピクルスたちは、ニクコロ星ウムラジアン大陸のネパ国に向けて飛ばされるのである。
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