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【第六幕】ピクルスの出稼ぎ留学@ヤポン神国
シュガーの守銭奴戦略&ヤポン神器
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ニクコの席を除く十四の座席に包みを配り終えた頭巾たちは、最後に残った四つの包みを教壇の端にある担任席の上に置き、そそくさと教室から出て行った。
それを見届けたニクコは、自己紹介を締め括ることにする。
「ほんの些細なご挨拶代わりですわ。足りない場合はいつでも仰ってね」
そういってニクコが席に着いた時だった。
「全く足りないサー。もっと欲しいサー。オイラ毎日でも欲しいサー」
中央列の最前席にちょこんと座って大人しくしていたハムスターのシュガーが、不満な表情を露にして、いい放ったのだ。
「おいおいお前、随分がめついネズミだな!」
廊下側の一番後ろの席からヨツバのヤジが飛んだ。
もちろん、シュガーの両の耳が、小さいながらも、その暴言を漏らさずキャッチした。これで、またしても緊迫した空気が教室内に充満する。恋愛学科は朝から活気の溢れる教室である。
「黙れサー! オイラはネズミじゃなくてハムスターなのサー!!」
「おっと、そうだった。さっき確か、そんなこといってたよなあお前」
シュガーは、自分が齧歯類キヌゲネズミ科ゴールデンハムスター属であることを先ほどの自己紹介で明言したのだった。それを上の空で聞いていたヨツバは、見た目で判断して、つい軽はずみに「ネズミ」といってしまったのだ。
しかめ面をしているニクコが、ここで間を割って口を開く。
「シュガーさんは、一体どれだけの大判が欲しいの?」
「そうサーなあ、毎日少なくとも一万枚は、欲しいサー」
「はあっ!?」
ニクコは、とてつもなく呆気に取られた。大福学院に支払っている月謝ですら毎月大判十万枚なのだ。月当たりなら、その三倍もの枚数を要求する者に今まで出会ったことはない。だから呆れるのも当然である。
「そこまで欲しがるとは、筋金入りの守銭奴ハムスターだぜ、お前」
「筋金はいらないサー。欲しいのは黄金の大判だけサー」
「あのなあ……」
ヨツバも呆れ返った。
ここで教室の中央の席にいるメロウリが意図的に油を注ぐ。
「シュガー、無茶な要求はいけませんよ。いくらヤポン神国一の大判持ちフタバラ子爵家の財力でも、やはり限界というのが、ありますでしょうから」
ニクコはカチンときた。だが、決して冷静さを失わない。
「あらあ、サラッド電器のお嬢さん、いってくれるわねえ?」
「いいえ、それほどでもなくってよ。ほほほ」
メロウリも負けてはいなかった。
対するニクコは、まるで冷凍されたようにカッチンコチンになった。
「二薔薇蒟蒻株式会社が生産する、世界一品質の高い半導体を買い叩き、部品にして作ったオンボロ機械を売り捌くサラッド電器さんのお家で飼い慣らされたアニマルは、それでもお金に困っていらっしゃるのね? いいわ、毎月一万枚の大判を恵んで上げます。ええ是非とも、そうして差し上げますわ」
メロウリとマロウリが互いにアイ・コンタクトを送り合った。
(引っかかったわよ、ふふふ)
(うん、うまく引っかかった)
シュガーとメロウリの言動は全て、ヤポン神国から黄金を吐き出させるという重要な戦略の一部なのだ。
「ニクコさん、どうもありがとうサー」
「いいえ、どう致しまして。おっほほほぉ♪」
と、この時だ。
――どぉんη!
なにかが窓にぶつかった。しかしながら、それでも割れなかった。
この教室の窓には「強化硝子」が使われている。野球部の強打者が「硬球」という文字通り硬い球を打ち当てても割れないくらい強い強度を持っているのだ。
ところが、この時だった。
――じゅじゅうμ!
窓の硝子が盛大に溶けた。これは想定外である。
さらに想定外が続く。なんと、スズメよりも大きな図体をしたスズメバチが一匹、硝子に開いた穴を潜って飛び入ってきたのだ。
これには教室内の総員が息を飲む。
――きゅきゅううぅσ!
宙に漂う、昆虫とはいえないほどに大きな昆虫が不気味な鳴き声で吠えた。
「きゃあぁぁーっ!」
堪え切れなくなったササミの悲鳴――これが合図だったかのように、黒と黄の縞模様がポンズヒコの席まで一直線に走り、彼の肩に脚を置いた。
鋭い牙と針はヤポン神の首を狙っているのか――ピクルスは迷わず走る。
二秒後、オチタスピの刃がポンズヒコの頭の上から斜めに振り下ろされた。
――シューンδδ!
今度も鮮やかな一閃だった。
だが、銀色の筋が虚しく空を切っただけである。ポンズヒコが身体をわずかに横へずらしたからだ。
スズメバチは肩に乗ったまま静止を続けている。オチタスピの刃を恐れている様子は全く見られない。実に図太い蜂だ。
「ピクルス」
沈痛な面持ちをしているポンズヒコが穏やかに発した。
「はい」
「二度までも虫を殺めようとは、フッそまじき悪行。最早、勘弁ならぬわ」
静かな口調で話すヤポン神なのだが、こめかみに青筋が浮き上がっている。そして、ゆっくりと上げられた右の手の平の上に緋色の小槌が現れた。
「はっ、手品!?」
どんな種が仕込まれていたのかと驚くピクルス。
「無礼者! 手品ではないのじゃ。これは変化の小槌といい、ヤポン神に受け継がれている神器じゃ」
「変化の小槌?」
首を傾げるピクルスの頭に、ヤポン神は小槌を打ちつける。
――こつんδ
すると、ピクルスの身体が、左手に握るオチタスピもろとも縮み始めた。
「ピクルスぅ!!」
「ピクルスお嬢様っ!」
「ピクルス大佐!」
「ピクルスさぁーん!!」
叫び声を上げるメロウリとジッゲンバーグとザラメとマロウリ。だが、この四名のみならず他の誰一人・誰一匹として、どうしたことなのか、金縛りに遭ったかのように、全く動けないのだ。
それを見届けたニクコは、自己紹介を締め括ることにする。
「ほんの些細なご挨拶代わりですわ。足りない場合はいつでも仰ってね」
そういってニクコが席に着いた時だった。
「全く足りないサー。もっと欲しいサー。オイラ毎日でも欲しいサー」
中央列の最前席にちょこんと座って大人しくしていたハムスターのシュガーが、不満な表情を露にして、いい放ったのだ。
「おいおいお前、随分がめついネズミだな!」
廊下側の一番後ろの席からヨツバのヤジが飛んだ。
もちろん、シュガーの両の耳が、小さいながらも、その暴言を漏らさずキャッチした。これで、またしても緊迫した空気が教室内に充満する。恋愛学科は朝から活気の溢れる教室である。
「黙れサー! オイラはネズミじゃなくてハムスターなのサー!!」
「おっと、そうだった。さっき確か、そんなこといってたよなあお前」
シュガーは、自分が齧歯類キヌゲネズミ科ゴールデンハムスター属であることを先ほどの自己紹介で明言したのだった。それを上の空で聞いていたヨツバは、見た目で判断して、つい軽はずみに「ネズミ」といってしまったのだ。
しかめ面をしているニクコが、ここで間を割って口を開く。
「シュガーさんは、一体どれだけの大判が欲しいの?」
「そうサーなあ、毎日少なくとも一万枚は、欲しいサー」
「はあっ!?」
ニクコは、とてつもなく呆気に取られた。大福学院に支払っている月謝ですら毎月大判十万枚なのだ。月当たりなら、その三倍もの枚数を要求する者に今まで出会ったことはない。だから呆れるのも当然である。
「そこまで欲しがるとは、筋金入りの守銭奴ハムスターだぜ、お前」
「筋金はいらないサー。欲しいのは黄金の大判だけサー」
「あのなあ……」
ヨツバも呆れ返った。
ここで教室の中央の席にいるメロウリが意図的に油を注ぐ。
「シュガー、無茶な要求はいけませんよ。いくらヤポン神国一の大判持ちフタバラ子爵家の財力でも、やはり限界というのが、ありますでしょうから」
ニクコはカチンときた。だが、決して冷静さを失わない。
「あらあ、サラッド電器のお嬢さん、いってくれるわねえ?」
「いいえ、それほどでもなくってよ。ほほほ」
メロウリも負けてはいなかった。
対するニクコは、まるで冷凍されたようにカッチンコチンになった。
「二薔薇蒟蒻株式会社が生産する、世界一品質の高い半導体を買い叩き、部品にして作ったオンボロ機械を売り捌くサラッド電器さんのお家で飼い慣らされたアニマルは、それでもお金に困っていらっしゃるのね? いいわ、毎月一万枚の大判を恵んで上げます。ええ是非とも、そうして差し上げますわ」
メロウリとマロウリが互いにアイ・コンタクトを送り合った。
(引っかかったわよ、ふふふ)
(うん、うまく引っかかった)
シュガーとメロウリの言動は全て、ヤポン神国から黄金を吐き出させるという重要な戦略の一部なのだ。
「ニクコさん、どうもありがとうサー」
「いいえ、どう致しまして。おっほほほぉ♪」
と、この時だ。
――どぉんη!
なにかが窓にぶつかった。しかしながら、それでも割れなかった。
この教室の窓には「強化硝子」が使われている。野球部の強打者が「硬球」という文字通り硬い球を打ち当てても割れないくらい強い強度を持っているのだ。
ところが、この時だった。
――じゅじゅうμ!
窓の硝子が盛大に溶けた。これは想定外である。
さらに想定外が続く。なんと、スズメよりも大きな図体をしたスズメバチが一匹、硝子に開いた穴を潜って飛び入ってきたのだ。
これには教室内の総員が息を飲む。
――きゅきゅううぅσ!
宙に漂う、昆虫とはいえないほどに大きな昆虫が不気味な鳴き声で吠えた。
「きゃあぁぁーっ!」
堪え切れなくなったササミの悲鳴――これが合図だったかのように、黒と黄の縞模様がポンズヒコの席まで一直線に走り、彼の肩に脚を置いた。
鋭い牙と針はヤポン神の首を狙っているのか――ピクルスは迷わず走る。
二秒後、オチタスピの刃がポンズヒコの頭の上から斜めに振り下ろされた。
――シューンδδ!
今度も鮮やかな一閃だった。
だが、銀色の筋が虚しく空を切っただけである。ポンズヒコが身体をわずかに横へずらしたからだ。
スズメバチは肩に乗ったまま静止を続けている。オチタスピの刃を恐れている様子は全く見られない。実に図太い蜂だ。
「ピクルス」
沈痛な面持ちをしているポンズヒコが穏やかに発した。
「はい」
「二度までも虫を殺めようとは、フッそまじき悪行。最早、勘弁ならぬわ」
静かな口調で話すヤポン神なのだが、こめかみに青筋が浮き上がっている。そして、ゆっくりと上げられた右の手の平の上に緋色の小槌が現れた。
「はっ、手品!?」
どんな種が仕込まれていたのかと驚くピクルス。
「無礼者! 手品ではないのじゃ。これは変化の小槌といい、ヤポン神に受け継がれている神器じゃ」
「変化の小槌?」
首を傾げるピクルスの頭に、ヤポン神は小槌を打ちつける。
――こつんδ
すると、ピクルスの身体が、左手に握るオチタスピもろとも縮み始めた。
「ピクルスぅ!!」
「ピクルスお嬢様っ!」
「ピクルス大佐!」
「ピクルスさぁーん!!」
叫び声を上げるメロウリとジッゲンバーグとザラメとマロウリ。だが、この四名のみならず他の誰一人・誰一匹として、どうしたことなのか、金縛りに遭ったかのように、全く動けないのだ。
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