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【第三幕】ソシュアル国へ旅行に行くピクルス
チョリソールとザラメの精神は無事か?
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フランセ国の軍隊は空軍・陸軍・海軍の三つに分かれている。それら三軍を纏め合わせる長は総大将と呼ばれており、ヴェッポン国自衛軍でいうところの元帥に相当する。現在の総大将ランチャトス‐ハムボイラーは重く患っており、六十一歳の身体を病床に就けている。
この今こそを好機と考え、陸軍少将ナマライス‐ティポットが昨夜遅くにクーデターを起こした。
五十四歳のナマライスは、反ランチャトス派を率いるリーダーでもある。以前の彼は大将の階級にあったが、彼らの勢力を脅威に感じたランチャトスの策により、些細なミスが大袈裟に処罰され、二階級降格の憂き目に会わされたのだ。さぞ恨みを募らせてきたことであろう――というようなフランセ国軍の内部事情を、中央指令室のディラビスがお握りを食べつつピクルスに話しているところだ。
「次の総大将として、最有力視されている空軍の大将スッパイーゼ‐ウメイメシの留守中を狙い、ことを謀ったのでしょう」
「それで、その大将は、今どこにいるのか?」
「ソシュアル国の空軍本部です。フランセ国軍は、来月の頭にソシュアル国軍と空軍合同演習を計画しているのですが、その段取りについてスッパイーゼ大将が直々に話し合いの場へと出向いたのです」
「分かりましたわ」
ディラビスがもたらした情報によって、ピクルスの方針が定まった。
直後、扉が開く。王宮からフラッペが戻ったのだ。
「おはようございます、フラッペ少将♪」
「やあおはよう。やはりきておったか」
「シュアー♪ お一つ、いかが?」
ピクルスは買い物袋の中からお握りを一つ取り出した。
「おや、それは?」
「鮭マヨお握りですわ。鮭お握りの亜種なの。美味しいですわよ♪♪」
「うむ。では貰おうか」
「シュアー♪」
ヴェッポン国自衛軍に所属する人間は、概してお握りが好きなのである。
「ところで、キュウカンバ大佐」
「はい」
「今日から休暇だとすると、なにを?」
「もちろん旅行ですわ、ソシュアル国に♪」
「うむ、行くのだな」
「シュアー!」
ピクルスの思惑通りに動くことを悟ったフラッペは、まずソシュアル国の空軍本部に事前連絡を入れて、それから時間差でキュウカンバ伯爵家へ事後連絡することを決めた。
そして、この三十分後には、ディラビスの手によって記入されたピクルスの欠席届が王立第一アカデミーの事務局に提出されることになる。全てにおいて、なんら抜かりはないのだ。
Ω Ω Ω
ヴェッポン国自衛軍における日頃の並々ならぬ活躍に対する褒美として、ピクルスは国王から特別休暇を賜わることとなり、軍事会議を見学する名目をも兼ねてソシュアル国への旅行に出かけた――これは、フラッペが電話を通して、ピクルスの父親ピスタッチオに伝えた話の内容である。
それが単なる口実に過ぎず、今回もまたピクルスが危ない橋を渡ろうとしているのだとピスタッチオは気づいていた。
フラッペも大層辛かった。ことの真相をピスタッチオが見破っていて、少なからず心を痛めているであろうことについては、同じ歳の娘を持つフラッペにも良く分かっていて、胸が潰れる思いだった。
ピスタッチオが数滴の涙で濡らした受話器を置いた時、ピクルスは既にヴェッポン国の領空から抜け出て、ウムラジアン大陸で最大の国土を持つソシュアル国の上空にいた。
ピクルスが自慢の操縦で飛ばしているのは、世界第二位の速度を誇るブルーカルパッチョだ。これはヴェッポン国の最新大型戦闘機で、チョリソールとザラメも同乗している。
ブルーカルパッチョがソシュアル国の空軍本部へ向かうことは、既に連絡済みであるため、対外的にもなんら問題はない。
むしろ問題があるのはブルーカルパッチョの飛ばせ方だ。久し振りとなった戦闘機の操縦ということも手伝って、ピクルスは目をギランギランと輝かせており、ついついオーバードライビングしてしまうのである。
ブルーカルパッチョの飛行速度が秒速九百メートルに制限されているにもかかわらず、それを超えるマッハスリーまでは出せて、フランセ国の最新戦闘機コンコードにも負けないと信じて疑わないピクルスなので、決して速度を緩めはしない。
――ビィコン・ビィコン・ビィコン!
飛行中は終始アラームが鳴り響き、そして機体が激しく揺れる。
後部座席のチョリソールとザラメからも、それぞれアラームが鳴っている。
「ピクルス大佐、お願いします! 速度を抑えて、下さいませぇ~~」
「自分もまだまだ生きたいです。後生ですからぁ、ピクルス大佐ぁ~」
だが、ピクルスの手にかかってしまうと、制限速度を完全に上回る音速の三倍での飛行をキープしても不思議と平気なブルーカルパッチョなのである。
「おっほっほほほぉー、これこそ快感ですわぁぁーっ!!」
――ビィコン♪ビィコン*ビィコン!
「ひぃぃー、もう勘弁して下さいませ、ピクルスお嬢様!」
「バウバウゥゥーッ、ナンマンダァ~、ピクルスお嬢様!」
「ノンノンノン、チョリソール! ザラメ! 大佐とお呼び♪♪」
――ビィコン★ビィコン♪♪ビィコン!!
ブルーカルパッチョの機体が無事でも、チョリソールとザラメの精神は、このまま目的地まで耐え切れるかどうか――それには神も悪魔も一切関知しない。
この今こそを好機と考え、陸軍少将ナマライス‐ティポットが昨夜遅くにクーデターを起こした。
五十四歳のナマライスは、反ランチャトス派を率いるリーダーでもある。以前の彼は大将の階級にあったが、彼らの勢力を脅威に感じたランチャトスの策により、些細なミスが大袈裟に処罰され、二階級降格の憂き目に会わされたのだ。さぞ恨みを募らせてきたことであろう――というようなフランセ国軍の内部事情を、中央指令室のディラビスがお握りを食べつつピクルスに話しているところだ。
「次の総大将として、最有力視されている空軍の大将スッパイーゼ‐ウメイメシの留守中を狙い、ことを謀ったのでしょう」
「それで、その大将は、今どこにいるのか?」
「ソシュアル国の空軍本部です。フランセ国軍は、来月の頭にソシュアル国軍と空軍合同演習を計画しているのですが、その段取りについてスッパイーゼ大将が直々に話し合いの場へと出向いたのです」
「分かりましたわ」
ディラビスがもたらした情報によって、ピクルスの方針が定まった。
直後、扉が開く。王宮からフラッペが戻ったのだ。
「おはようございます、フラッペ少将♪」
「やあおはよう。やはりきておったか」
「シュアー♪ お一つ、いかが?」
ピクルスは買い物袋の中からお握りを一つ取り出した。
「おや、それは?」
「鮭マヨお握りですわ。鮭お握りの亜種なの。美味しいですわよ♪♪」
「うむ。では貰おうか」
「シュアー♪」
ヴェッポン国自衛軍に所属する人間は、概してお握りが好きなのである。
「ところで、キュウカンバ大佐」
「はい」
「今日から休暇だとすると、なにを?」
「もちろん旅行ですわ、ソシュアル国に♪」
「うむ、行くのだな」
「シュアー!」
ピクルスの思惑通りに動くことを悟ったフラッペは、まずソシュアル国の空軍本部に事前連絡を入れて、それから時間差でキュウカンバ伯爵家へ事後連絡することを決めた。
そして、この三十分後には、ディラビスの手によって記入されたピクルスの欠席届が王立第一アカデミーの事務局に提出されることになる。全てにおいて、なんら抜かりはないのだ。
Ω Ω Ω
ヴェッポン国自衛軍における日頃の並々ならぬ活躍に対する褒美として、ピクルスは国王から特別休暇を賜わることとなり、軍事会議を見学する名目をも兼ねてソシュアル国への旅行に出かけた――これは、フラッペが電話を通して、ピクルスの父親ピスタッチオに伝えた話の内容である。
それが単なる口実に過ぎず、今回もまたピクルスが危ない橋を渡ろうとしているのだとピスタッチオは気づいていた。
フラッペも大層辛かった。ことの真相をピスタッチオが見破っていて、少なからず心を痛めているであろうことについては、同じ歳の娘を持つフラッペにも良く分かっていて、胸が潰れる思いだった。
ピスタッチオが数滴の涙で濡らした受話器を置いた時、ピクルスは既にヴェッポン国の領空から抜け出て、ウムラジアン大陸で最大の国土を持つソシュアル国の上空にいた。
ピクルスが自慢の操縦で飛ばしているのは、世界第二位の速度を誇るブルーカルパッチョだ。これはヴェッポン国の最新大型戦闘機で、チョリソールとザラメも同乗している。
ブルーカルパッチョがソシュアル国の空軍本部へ向かうことは、既に連絡済みであるため、対外的にもなんら問題はない。
むしろ問題があるのはブルーカルパッチョの飛ばせ方だ。久し振りとなった戦闘機の操縦ということも手伝って、ピクルスは目をギランギランと輝かせており、ついついオーバードライビングしてしまうのである。
ブルーカルパッチョの飛行速度が秒速九百メートルに制限されているにもかかわらず、それを超えるマッハスリーまでは出せて、フランセ国の最新戦闘機コンコードにも負けないと信じて疑わないピクルスなので、決して速度を緩めはしない。
――ビィコン・ビィコン・ビィコン!
飛行中は終始アラームが鳴り響き、そして機体が激しく揺れる。
後部座席のチョリソールとザラメからも、それぞれアラームが鳴っている。
「ピクルス大佐、お願いします! 速度を抑えて、下さいませぇ~~」
「自分もまだまだ生きたいです。後生ですからぁ、ピクルス大佐ぁ~」
だが、ピクルスの手にかかってしまうと、制限速度を完全に上回る音速の三倍での飛行をキープしても不思議と平気なブルーカルパッチョなのである。
「おっほっほほほぉー、これこそ快感ですわぁぁーっ!!」
――ビィコン♪ビィコン*ビィコン!
「ひぃぃー、もう勘弁して下さいませ、ピクルスお嬢様!」
「バウバウゥゥーッ、ナンマンダァ~、ピクルスお嬢様!」
「ノンノンノン、チョリソール! ザラメ! 大佐とお呼び♪♪」
――ビィコン★ビィコン♪♪ビィコン!!
ブルーカルパッチョの機体が無事でも、チョリソールとザラメの精神は、このまま目的地まで耐え切れるかどうか――それには神も悪魔も一切関知しない。
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