echoの恋

echoの恋

ギリシャ神話のナルシスとエコーの物語をご存知だろうか？

美しいナルシスに一目惚れしたエコー

彼女の恋は成就することはなく、最後は声だけの存在になってしまった可愛そうな妖精‥

これは、身の程知らずにも、美しいナルシスに恋をしてしまった1人の少女の物語である‥

神崎葵は、聖アイリス学園の高校1年生。彼女の通うこの学園は、体育祭や文化祭が大変大掛かりであった。

1年2年3年の合計３クラスで１つの団を組み、毎年団の名前をみんなで決めて、団旗、団長の着る羽織等を刺繍するという気合の入れようだ。葵の属する団は颯（ハヤテ）という名前だった。

葵が恋したのは、同じ団員の２年生、坂本圭吾。ちょっとだけナルシスト。もちろん美形。銀狼というバンドを組んでいて、学園じゃちょっとした有名人。いつも綺麗な先輩達に取囲まれているような存在だった。

それにひきかえ‥葵は取り立てて特筆するほどのことのない平凡な少女。逆立ちしたって坂本先輩と付き合えるわけがない‥

彼がバンドのライブをやる度に後ろの方でこっそり応援しているだけだった‥

そんな彼女が圭吾にラブレターを書いた。

拝啓　颯のナルシス様

先日の銀狼のライブ見ました！
とってもカッコ良かったです。
次の文化祭ももちろん、
出演されますよね？
楽しみにしています。

これじゃ、ラブレターというよりは、ただのファンレターだ(・_・;)

もちろん、住所も名前も書く勇気はない‥

葵は少し考えて、From　echoと書いた。

私はエコー、貴方に恋い焦がれて声だけの存在になってしまったエコー‥

貴方の前で好きですなんて言う勇気を持たない臆病なエコー‥

名前のないラブレターに当然返事なんて来るわけはない‥

ところが、ある日の昼休みのこと

いつも通り放送部が放送室から音楽を流していた。

一曲流れたあとに、放送部の部員が何かを読み出した。

「応援ありがとう。次のライブも頑張るから、応援宜しくね！エコーちゃんへ　颯のナルシスより」


葵のまわりの少女達がざわめく。

「颯のナルシスって誰？」

「エコーって誰のこと！？」

葵は表面上、自分とは関係ない風を装いながら、教室の外に出た。

（坂本先輩‥返事くれた‥！）


これは、好きな人に好きと言えなかった小さなechoの物語‥

　　　　　　　　　　　　fin.