1 / 34
バー「Dark Wing」
しおりを挟む
公共交通機関が未発達で、自動車がないと移動が不便。
その程度には田舎だが、駅前には飲み屋が乱立して繁華街が成立する程度には人口がある、どこにでもありがちな街。
ここはそんな、都会のベッドタウン的立ち位置の街である。
帰宅ラッシュを過ぎた頃合いの繁華街、と言えば聞こえもいいが、現実は駅周辺の飲み屋街なんてものは遅くまで酔っ払いの喧噪が絶えない。
ましてや今は夏を前にした季節。
気の早いビアガーデンには、ビール好きからビールにかこつけたナンパ目的野郎まで種々雑多な人々が集まっていた。
乾杯に始まって、ねーちゃん酒遅いぞーと投げられる文句や注文、たまに起こる怒号とそれを諫める声。
賑やかな彩りは、その周囲の闇を一層暗くする。
明かりが届かないほんの先は、闇に慣れていない目には、何もないのと同じかも知れなかった。
そんな繁華街の裏通りに、その店はあった。
いわゆる「場末の飲み屋」というひと言で説明ができてしまいそうな店だった。
気付く人はすぐに気付くが、気付かない人はおそらく説明されても
「その道なら毎日通勤で通ってるけど、そんな店、あったっけ?」
で終わってしまう。
そうなるように意図して作られた訳ではないだろうが、結果としてそうなってしまったのは、周辺に溶け込む五階建てという高さのビルの半地下で、その上看板も手入れがされないままに煤けてしまっているせいかも知れない。
─── バー「Dark Wing」
少し避け合うようにしてすれ違える程度の狭い間口の出入り口。白かったであろう壁沿いに数段下りた突き当たりにある、木目模様のドアの向こうが、俺の店であった。
店内に入ると、右側にカウンター席が八席、左側に四人掛けと六人掛けのテーブル席がそれぞれひとつずつという狭さだが、客数でいえば実際にはこの半分でも問題はなかった。
店の売り上げで生活をしようと思えば、これくらいは入って貰わないとつらいのだろうが、俺の場合、生活の糧を全てここの売り上げで賄わなくても済むのが幸いだった。
金持ちの道楽にも似た状態だ。
のんびりグラスを拭いたり、タブレットでパズルゲームしたり、暇潰しに勤しんでいるというのが常だった。
カウンターの背後には、戸棚で見辛い位置に1階に続く短い階段があり、その先の部屋に住んでいるせいもある。働いている感覚は特にないのだ。
その日常にも、たまにイレギュラーが発生する。
収入のメインは、そのイレギュラーから得ているようなものだ。
そして今、ドアの上部に付けられたベルが、派手な音を立てた。
その程度には田舎だが、駅前には飲み屋が乱立して繁華街が成立する程度には人口がある、どこにでもありがちな街。
ここはそんな、都会のベッドタウン的立ち位置の街である。
帰宅ラッシュを過ぎた頃合いの繁華街、と言えば聞こえもいいが、現実は駅周辺の飲み屋街なんてものは遅くまで酔っ払いの喧噪が絶えない。
ましてや今は夏を前にした季節。
気の早いビアガーデンには、ビール好きからビールにかこつけたナンパ目的野郎まで種々雑多な人々が集まっていた。
乾杯に始まって、ねーちゃん酒遅いぞーと投げられる文句や注文、たまに起こる怒号とそれを諫める声。
賑やかな彩りは、その周囲の闇を一層暗くする。
明かりが届かないほんの先は、闇に慣れていない目には、何もないのと同じかも知れなかった。
そんな繁華街の裏通りに、その店はあった。
いわゆる「場末の飲み屋」というひと言で説明ができてしまいそうな店だった。
気付く人はすぐに気付くが、気付かない人はおそらく説明されても
「その道なら毎日通勤で通ってるけど、そんな店、あったっけ?」
で終わってしまう。
そうなるように意図して作られた訳ではないだろうが、結果としてそうなってしまったのは、周辺に溶け込む五階建てという高さのビルの半地下で、その上看板も手入れがされないままに煤けてしまっているせいかも知れない。
─── バー「Dark Wing」
少し避け合うようにしてすれ違える程度の狭い間口の出入り口。白かったであろう壁沿いに数段下りた突き当たりにある、木目模様のドアの向こうが、俺の店であった。
店内に入ると、右側にカウンター席が八席、左側に四人掛けと六人掛けのテーブル席がそれぞれひとつずつという狭さだが、客数でいえば実際にはこの半分でも問題はなかった。
店の売り上げで生活をしようと思えば、これくらいは入って貰わないとつらいのだろうが、俺の場合、生活の糧を全てここの売り上げで賄わなくても済むのが幸いだった。
金持ちの道楽にも似た状態だ。
のんびりグラスを拭いたり、タブレットでパズルゲームしたり、暇潰しに勤しんでいるというのが常だった。
カウンターの背後には、戸棚で見辛い位置に1階に続く短い階段があり、その先の部屋に住んでいるせいもある。働いている感覚は特にないのだ。
その日常にも、たまにイレギュラーが発生する。
収入のメインは、そのイレギュラーから得ているようなものだ。
そして今、ドアの上部に付けられたベルが、派手な音を立てた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
YESか農家
ノイア異音
キャラ文芸
中学1年生の東 伊奈子(あずま いなこ)は、お年玉を全て農機具に投資する変わり者だった。
彼女は多くは語らないが、農作業をするときは饒舌にそして熱く自分の思想を語る。そんな彼女に巻き込まれた僕らの物語。
探偵尾賀叉反『騒乱の街』
安田 景壹
キャラ文芸
いつの頃からか、彼らはこの世に誕生した。体に動植物の一部が発現した人間《フュージョナー》
その特異な外見から、普通の人間に忌み嫌われ、両者は長きに渡って争いを繰り返した。
そうして、お互いが平和に生きられる道を探り当て、同じ文明社会で生きるようになってから、半世紀が過ぎた。
エクストリームシティ構想によって生まれた関東最大の都市<ナユタ市>の旧市街で、探偵業を営む蠍の尾を持つフュージョナー、尾賀叉反は犯罪計画の計画書を持ってヤクザから逃亡したトカゲの尾を持つ男、深田の足取りを追っていた。
一度は深田を確保したものの、謎の計画書を巡り叉反は事件に巻き込まれていく……。
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
特撮特化エキストラ探偵
梶研吾
キャラ文芸
俺は特撮ドラマ専門のエキストラだ。
特撮ドラマだけに特化した俳優を目指して、日夜奮闘努力中だ。
しかし、現実という奴は厳しい。
俺にくる依頼は、出演依頼じゃなくて、撮影現場の裏のトラブル処理ばかり。
不満は募るが、そっちのほうの報酬で食っている身としては文句は言えない。
そして、今日もまた…。
(表紙イラスト・中村亮)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる