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第四章

らいぶ・らいふ。10(第四章・終)

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 若者達の間では人気の鬼さまがライブをしていた、普段からオカルトっぽいネタで構成されていた生配信だと知っている警官も少なくなかった、そして式神たちを使っての擁護工作、若い女の子たちにはありがちな集団催眠のようなものだったのではないかとの誘導、どれもがうまく作用したようで、ぽちぽちとパトカーは去って行った。一応は簡単な事情聴取と、さっきの軽自動車は?というので、ひと組だけ警官が残った。
 完全ではないにしろ、とりあえずはどうにか警察の目を逸らすことには成功した鬼里は、ステージの方へと戻って来た。

 ステージの上では、放心している和泉と、いつもの姿に戻りはしたが目つきがまだ定まらぬ酒寄がいる。そのふたりの前に女性がひとり。母親の架純だとはすでに調査済みで知っている。
 呆けたままの酒寄なら呪いは解けずとも封印できるかもしれないと、鬼里は早足でそこへと向かっていた……が。

 ぱぁんっ。

 ひと際大きく響いた音は、架純が平手で思いきり酒寄の頬を張った音だった。

「今さらもう、あの人を返してって言っても無意味なのはわかってる、でも、和泉まで取り上げないでっ。なんなのかは知らないけれど、もうやめてっ」

 まだぼんやりしている酒寄に、続いて数発、思いきりビンタする架純。最初の一発で我に返っていた和泉が、ぜったい母親に逆らったり怒らせたりするのはやめよう、と思わせる強さと勢いだった。
 息を切らせるほどに酒寄を張っていた架純が、ようやく手を下ろした時、酒寄の目に生気がというのも変ではあるが、焦点が定まってくるのが見て取れた。
 ゆらり、頭を揺らして周囲を見回す。
 ちゃっかり車に乗り込んでいつでも脱出できる状態で見守っていた島井と木山も、ステージの上にはまだ注目している。
 ゆらり。ふらり。
 しばらくして、あ?と酒寄が声を発した。

「……あれ? どうしてあたしが、ここにいるんです~?」

 それは、いつもの、和泉が知る酒寄だった。
 へたり、腰が抜けたように座り込む和泉と、それでもまだ許せないと更に張り手をかまそうと踏み出す架純、ようやくステージ下まで来た鬼里。

「許さない、ぜったい許さないんだからぁああああっっ」

 再び酒寄を叩き始めた架純を、ジャンプしてステージに飛び上がった鬼里が腕を掴んで止めた。架純が鬼里を睨む。

「へぇえ、調べた時には半信半疑だったが、すげぇな。霊とか妖怪とかあやかしみてぇなもんと、正反対のもん出してる感じだなぁ。磁石みてぇに反発してんのが、びんびん来やがる」
「……き、さと……? どゆこと?」
「この女……母親だろ? こいつがいたから、お前が見つからなかったのか。一応は探したんだぜ、他に、俺以外に式がターゲットにする子孫ってのをよぅ。そいつに式を差し向けてる間に様子を見て手を打とうってな。だけど見つからねぇ。そらそうだ、こんな強ぇ女に守られてやがった」

 ため息混じりに肩を竦めた鬼里の手が緩んだところを、架純は腕を引いて離れ、誰これ、と和泉にこそこそ尋ねた。

「……よくわかんねぇけど……おんなじ立場なのだけは、把握」
「あのですねぇ……どうして和泉くん、鬼さまと仲良くなってるんです?」
「和泉、この白っぽかったの、結局なんなの。おとうさんの仇なのに、なんで仲良くしてるの、なんなのもう」
「で、お前、こんなんなってもまだ、この式神とつるむのか? おとなしい間に策を練らねぇか?」
「えっと、順番に……てか、も、オレも許容範囲、越えてる……」

 パニック状態の和泉たちを余所に、ステージ前の軽自動車の島井は、警官から「免許証は? 取り立てでもここ入っちゃダメなのはわかるよね?」と事情聴取を受けていた。
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