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第三章

昔むかし今。2

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「……で、ここの成り立ちとか、わかんねぇか調べてみたんだけどさぁ」

 特大サイズの爆弾おにぎりを頬張りながら、和泉は神社の社務所で寛いでいた。
 ちゃぶ台の上では麦茶が入ったコップが汗をかいている。外は暑いのだが、雑木林で囲まれている神社は木陰の風が流れてくるので割と涼しい。
 酒寄は相変わらずののほほんとした表情で、生成りの着流しを涼しげに着こなしていて風流さを醸し出していた。

「どういうわけか、ここ、昔からなにもない扱いになってんだよな。雑木林。で、誰に訊いても同じでさ。もしかして、普通の人間には見えないのか?て思って、航空写真とか、衛星マップとかいろいろ調べたんだけど、やっぱり雑木林でしかなくてさぁ」

 手についた米粒をぺろぺろと舐め取って、麦茶を飲み干す。酒寄はこまめに冷蔵庫へとお茶をつぎ足しにいく。入れ物ごと置いておけばいいよと断ってもマメに取りに行くのは、普段が暇すぎるので用事が出来るのが楽しいかららしい。

「それはですねぇ。きっとご一新の頃にあたしがここらに住み着いちゃったからじゃないですかねぇ」
「酒寄、なんかしたのか? あの、結界張ったとか、そういう」
「わざわざそういうことはしてないんですけどねぇ。自然とこの地がそうなっちゃったのかも知れませんねぇ」
「……なんてぇか……なにげに酒寄、万能チートキャラなんじゃあ……」
「ばんのぉちぃと?」
「あ、さすがにそこまで偏った言葉までは知らないか。んんと、都合良くなんでも出来ちまう能力でもあるんじゃあ?って」

 万能……と呟いた酒寄は、軽く肩を竦めて笑った。

「たしかに、人間にされてしまって、ずっとずっと生きていて、それでも人間らしい営みも不要のままで、ちょっとわけがわからないモノですよねぇ……」

 少し、笑みが寂しげに見えて、和泉は気が引けた。

「とりあえずっ。おそらくはオレが、今のところはオレだけが、酒寄を解放してやれるってコトなんだろ? もしもオレが出来ないにしても、その場合はオレの子どもがって話なんだろ?」
「間違ってはいないですけど、和泉くんの子孫になる人たちに、和泉くんほどの能力があるかどうかはわかりませんからねぇ。あたしに巡り会えたことも含めて、最初で最後のチャンスのような気がするんですよぅ」
「んんんん~っ、でもそれって、式神に戻すって、酒寄、いなくなっちまうってことでもあるんだよな?」
「ですねぇ~」

 和泉は頭をわしわしと掻いて、唸った。

「なんかそれじゃあ、オレが酒寄の存在をなくすってことじゃん。それはそれでイヤなんだけど……」
「また呼び出してみればいいじゃないですかぁ」
「えぇ~~? なんかそれ違う気が……」
「あたしゃ人間でいる方がおかしいんですから~」

 和泉は小さくため息を漏らした。自分にはわからない気持ちを理解しようとしても、あまりにも違う存在すぎて無理なんだろうか。
 その様子に、とりあえず、出来ることをしましょうねぇ、と酒寄は麦茶のおかわりを注ぎに立ち上がった。

 ぶぶぶぶぶっ。
 胸ポケットに突っ込んであったスマートフォンの振動が響く。
 通知を見ると、木山からのメッセージだ。なにやら地図が書かれたチラシ画像が添付されている。

 ───鬼さまの公開ゲリラライブがあるらしいが、行ってみるか?───

 瞬時に顔つきが変わった。険しい目つきで画面を睨む和泉に、どうしましたぁ?とのんびり声をかけてお茶のコップを置く。

「山で会った、殺されるかと思ったってヤツ。あいつが、ゲリラライブとやらをやるって……行ってみた方がいいような気もするし、ヤバいような気もするし……」
「そうですねぇ~、どこでですかぁ?」
「ここからオレんちを通り越して行った方……隣町にある公園らしい」

 画像の地図を見せられて、へぇ、ほぉ?と見ていた酒寄は、ぽむっと手を打った。

「あたしも一緒に行きましょう~、それなら和泉くんも怖くないでしょうしぃ、もしかしたらいろいろ捗るかも知れませんよぅ~?」

 怖くないと言われたら、さすがにぴくりと眉が動いた和泉だったが、否定もしきれず曖昧に頷く。

「それまでに少しは身の処し方くらい覚えましょうねぇ~」

 なぜか酒寄のテンションが高かったのは、退屈がすぎたからだったのか、なにか気になることがあるからなのか。もちろん、後者なのだろう。和泉としては、そのハイテンションが不安でもあった。

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