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第二章

鈍いのろい呪い。3

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「じゃっじゃじゃぁああんっ」

 大袈裟なファンファーレっぽい声とともに島井が取り出したのは、キャンプの案内パンフレットだった。
 夏休み直前の放課後。塾だのなんだので残っている生徒も少なくなった教室で、担任に進路について呼び出された和泉を待っていたのだ。
 今までなら夏休みは部活で忙しかったのだが、三年の夏は受験で忙しい。
 だからといって、ずっと勉強ばかりしてられっか、と言うのが島井の言い分であり、それには和泉も賛成だ。

「ど? 全部、現地にあるから、手ぶらでおっけ~ってヤツ。ちょっとくらいハメはずそうぜっ」
「ふぅん。こんな近くに、そんな施設出来てたんだ?」
「最近の流行りにのってオープンしたらしいよ。ま、オレも誘われたクチなんだけどさ」
「う~ん……」

 パンフレットと言っても四ページのチラシ程度のものだ。手にして裏表ちらちらと見遣る和泉は、なにか引っかかった。
 交通アクセスの地図をじっと見る。

「ここさぁ、オレら、小学生のころに遠足かなにかで行かなかったっけか?」
「あ。いずみんが崖から落っこちかけて大騒ぎしたとこって、ここだったか?」
「そういう記憶は消せって言ってんだろがっ」
「きゃ~っ、いずみんこわ~いっ」

 ふざけて声が大きくなったところへ、がらっと扉が開いた。

「おまえら、なにはしゃいどるの」

 入って来たのはクラスメイトの木山敏也きやまとしやだった。
 小柄で眼鏡を掛けたインテリ風を気取っているが、実際にはいわゆるオタク系である。

「あ、いずみん。木山がコレ、持ってきたんだよ」
「意外だなぁ。お前、キャンプとかいちばん縁がなさそうなのに」
「なんか、アニメとかの影響だとか言っ……」

 すたすたすたっと近寄った木山に頭を小突かれて、島井は最後まで言い切れなかった。それでもほとんど意味は通じる。和泉は納得の体で大仰に頷いた。
 ぅおっほんっ、と大きくわざとらしい咳払いをした木山は改めて、どうだね?と尋ねた。

「んんんんん~……ちょっと気乗りしねぇんだなぁ、そこ」
「そんな気もしたけどさ。いずみん、ここダメかもなあって」

 島井が和泉の霊感体質を知るきっかけになった遠足がこの近くだった。
 急に変なモノが見えるようになった、なんて言えば、頭でも打っておかしくなったのかと思われそうで、悩む和泉がなんとか相談できたのが仲の良かった島井であり、唯一、事情を知る人物でもあった。島井としても、からかいはするがずっと心配していた。この前のもっと見えるようになったと言われた時も、こいつこのままだと生きていけないんじゃあ、と不安にもなっていた。
 それが、どうにかできるようになったと聞いて安心していたところに、ちょうど木山がパンフレットを持ってきたのだった。

「試してみないか? もしかしたら、理由もわかるかも知れないじゃん」

 和泉は、胸元を押さえた。
 そこに札とお守りを入れてある。

 見えてるだけで、なにもできない。
 でも、親父も見えていたんなら、なにか、意味があるのかも知れない。

 和泉は、力強く顔を上げた。

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