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第一章

出会い。或いは「出遭い」4

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「でさ。実際のところ、酒寄ってなんなんだ?」

 酒寄が独り用サイズの冷蔵庫から取り出した麦茶を前に、唸るように和泉が訊いた。
 人間ではないナニかにしても、もう恐怖心はなくなっていた。
 前時代的な丸いちゃぶ台の上には、コップがみっつ。ひとつには、境内にも生えていた小さな花が一輪挿してある。
 座っている畳は、掃除されてはいるがずいぶん古いのだろう、毛羽だっていたりへたれていたり擦り切れていたり、ところどころ黒ずんでいたりしていた。

「それがですねぇ~、あたしもわからないんですよぅ。記憶喪失っていうんですよねぇ、いろいろ思い出さないといけないような気はするんですけど、そういうのに限って思い出せなくて。どうでもいい、さっきの術みたいなのは、ふぅっと思い出して使えたりするんですよぅ」

 麦茶をずずず~っと啜り、ため息を漏らす。

「本当に、なんなんでしょうねぇ……」

 ぽつり、呟く声は寂しそうだった。
 和泉は不思議そうに見つめ、小さく肩を竦める。

「でもよ、オレは酒寄に会ってから、今までとは比較になんねぇくらいいろんなモノが見えちまうようになったし、酒寄も、なんか変、なんだろ?」
「ですねぇ、思い出せないことがこんなにもどかしく思われたのは、はじめてかも知れないですぅ」

 はぁ。
 またもため息を漏らす酒寄だったが、だったらさ、と続ける和泉に目を向けた。

「オレたち、もしかして、出会うべくして出会ったんじゃねぇか?」

 和泉の目に力がこもる。

「お互いにさ、助け合ううちに、なんか思い出せたり、オレの体質が改善されたりするかも知れないじゃん? 今はオレ、悪い方へと向かってる気がしてるけどさ、なにか、前兆みてぇなものかも、だし」

 にっ、と口角を上げて親指をぐっと立てる和泉に、酒寄はにっこり笑みを浮かべた。

「そうですねぇ、だといいですねぇ」
「まずはさ、一時しのぎだろうけど、お札、もうちょい余分に欲しくてさ、書いてもらえるかな」
「それくらいはお安いご用ですぅ~」

 にこにこと言いながら手の届くところに置かれていた道具箱を引き寄せる。どう見ても工具用だが、持ち運びにも便利だし頑丈っぽいから使い勝手はいいのかも知れない。
 開けると中には、短冊タイプの紙と、人の形に切り取られた紙とが、きれいに仕切りの中に分けて収められていた。白紙のままのものとすでに書き込まれたものとも分けてあり、筆記具は筆ペンが何本か。
 覗き込んだ和泉は、筆ペンかよ、とおかしげに笑った。

 その時。

 どこからか、小さな女の子の悲鳴らしき声が聞こえた。

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