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ポータルビレッジ。

1.ここはどこ?

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「起きろよ。起きろってぇの」

 近くで誰かが怒鳴ってる……あれ? おかしいな、親父はまだ海外のはず……誰……?
 オレは薄ぼんやりとした頭で考えながら目を開いた。
 視界に飛び込んできたのは、オレが知る部屋ではなかった。部屋どころか、外だ。
 眩しいほどではないが薄曇りほど曇っているのでもない、いい天気だ。
 視界の先は緑が青々と茂っている。野原のようだ。
 横たわっているので、直接青臭い草の香りが鼻腔をくすぐるが、嗅いだコトのないニオイだ。
 風は爽やかで、少し肌寒いかも知れない。
 少し頭をもたげると、遠くの稜線が見える。
 反対に向けると……赤茶けた石造りの壁のようなモノが近くに見えた。
 まったく身に覚えのない環境に、再び頭をこてんと落とす。

「……ここどこ……オレなにしてるの……」

 ぼんやりと独り言のように呟く。するとすぐ近くでまた、起きろ、と呼びかける声がした。
 視線を巡らせた先にあるのは、転がったバッグ……これには見覚えがある。これはシルバーを入れていたバッグ……。

 ……シルバー?

 やっとここで完全にオレの目が覚めた。
 がばっと身を起こすと背中にぐきりとした痛みが走る。ディパックを背負ったまま仰向け気味に倒れていたのか。あ、しまった、この中にはノートパソコンが……っ。一瞬血の気が引いたが、足元近くに誰か人が立っているのに気がついた。
 背格好はだいたいオレと変わらないくらいに見えるから、百七十ちょいだろう。

「だいじょうぶですか? えっと、言葉、わかります?」

 鈴を転がすような声とはこういう声を言うのか、と瞬間で感じてしまうような声だ。
 やや逆光気味で見えにくいその相手を見上げ、はい、と頷くが、それだけで身体の節々が痛んだ。どこかヤバいコトになってないか?と不安になる。それでもこのまま外に寝転んでいるわけにもいかない。
 しかし意識がはっきりしてくるに従って、かなり身体が痛んで動けないのだとわかってきた。
 これダメだ、立ち上がれない……。
 どうしよう……シルバー……だいじょうぶかな……。
 みしみし痛む身体をなんとか引き起こし、ぺたりと座り込む。少し先に落ちているバッグに手を伸ばす。その様子に気付いたのか、声の主が動いた。

「これもあなたの? 持ってもいい?」
「……あ、お願い、します……中味、見ないで……」
「よかった、言葉は通じてるようね」

 掠れているが、声は出た。
 取ってもらったバッグを持つと、異様に軽かった。中味がない。
 ……シルバー……?
 背中を冷たいモノが撫でていく。はぐれた?
 頭が真っ白になっていく。

「だいじょうぶですか? ちょ……」

 慌てて叫ぶ声も途中で消えていった。





 次にオレが目を覚ましたのは、ふかふかではないが、清潔感のある白いシーツに覆われたベッドの中だった。
 なにか変わった香りがする。嗅ぎ慣れないけど悪くない。
 ともあれ、半身を起こして辺りを見回す。背負っていたディパックは枕元の横にある台に置いてあった。そしてシルバー不在のバッグも。
 シルバーはどうなったんだ。どことも知れないところに独りで放り出されて、どうすりゃいいんだ。あんまり情けないコトばかり考えたくないけども、心細さと不安感でいっぱいいっぱいになっていた。

 ええっと、結局、どうなったんだっけ。
 目黒がキレて爆発物か何かで強行突破してきて、まだ研究中の魔方陣使って、シルバーの詠唱で飛ばされた……んだよな。
 なんかわちゃわちゃ言ってたけど、パニクってたから思い出せないや……。

 さっき一度目が覚めた時にあちこち痛んだ身体を、ゆっくり動かしてみる。指、手首、腕肩、首、と、少しずつ、確認するように動かす。背中も痛いなりに動くのに支障はなさそうだ。
 動く動く、と安心したが、あれ?と浮かんだ次の不安。
 あれからもしかして、すげぇ時間が経ってる?
 そう思ったらいても立ってもいられず、ベッドの上を這うようにして枕元の台へ手を伸ばした。
 ディパックを引き寄せて足の上に置き、中を確かめる。スマホは無事そうだ。ノートパソコンを開いて、モニタ部分が割れていないのだけ確かめた。物理的に生きていればいいや、と思いながら、改めてスマホの電源を入れる。
 普通に電源が入り、充電もそれほど極端に減ってはいない。表示されている時間からすると、丸一日経ったくらいのようだ。もっともここの時間がどうなっているのかはわからない。もしかしたら、二十四時間単位じゃなくて一日三十時間とかかも知れないし。
 なんにしても、スマホ画面があまりにいつもの日常まんまで、ちょっと目がうるうるしかけたその時。
 ノックもなくいきなり勢いよくドアが開いた。

「あ、起きてやがったのか。思いきりオレ様放り出しやがって、死ぬかと思っただろうがっ……て、おい、泣いてたのかよ?」

 そこには、相変わらずのでかい態度のヤツがいた。
 全裸で、じゃなくて、全身で。
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