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激動の一日。

6.めざすは電波塔

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 待つとは言ったが、何時までとか具体的には言っていない。
 というコトは、あれから五分も待たずに疑いを持ってこちらに向かう可能性も少なくない。車だったらあっという間にここまで辿り着く。

「ちょっと揺れるから、舌噛むなよっ」

 バッグの中のシルバーに叫んで、ひたすら走った。こりゃもうたぶん、明日には身体が言うコトをきかないだろう。息も絶え絶えになりつつも、とにかく走った。
 オレの実家までは走れば五分かかるかどうか。電波塔はそれより先の区画にある。とにかく急がないと。そう思う気ばかりが急いて、周りへの注意が欠けていたようだ。

 クラクションに気付いて振り返ると、トラック。

 待て、トラックに轢かれて転生とかならもっと最初……と思ったのは一瞬だった。

 驚いて足を止めてしまったオレの後ろで、こちらに向かうトラックの横っ腹に、更に大きなトラックが轟音と共にぶち当たったのだ。
 トラックは二台してもつれるように、と言うのも変だが、そんな感じでドラッグストアの広い駐車場へと転がっていく。幸いにして数台の駐車している客の車を巻き添えにしただけで、怪我人などはいないように見える。
 ……まるで横から助けに入ったみたいな……。
 ぽかんとしてそんなコトを思ってしまったが、このままいたら目撃者として足止めされてしまう。頭をふるふると振って、再び走り出した。

 もしかして、シルバーがなにかしているのかも知れない。そう思っておこう。

 その後はただひたすらに萎えそうになる脚に鞭打って、実家を越え、やっと電波塔の区画まで辿り着いた。
 ぜぇはぁ息を切らしながら、立ち止まって周囲を確認するとバッグを開く。中から「ぶはぁっ」と大きくひと息つく声。そして軽く咳き込んでいる。

「だいじょうぶか? 思いっきり走って揺らしちゃったけど」
「……っほっ……くぁあああ、きっつぅ~」
「ごめんて。それより、このアンテナでいい? どの方角から見てたとか、高さとか」

 少しバッグを傾けると、シルバーは視線を巡らせた。真ん前に、電波塔。周囲は建て売りの住宅街。高いマンションなどは近くになかった。

「んんと……あの青い文字が入ってる丸いやつ、あれが正面に見えてた。高さも真っ正面の高さだったな」
「わっかりやすいなっ。じゃ、また入っててくれ」
「って、うわぁ、偉そう……」

 どうやら態度でかいのが逆転している。
 それはさておき、再び小走りに路地を抜けた。正面にあるのは、四階建ての賃貸マンションだ。ずいぶん古くからあるようで、外壁にはヒビが入っているのだが、放置されている。半分くらいしか入居者がいないっぽいのは、ここらに住んでいた頃から変わっていないだろう。カーテンがある部屋は半分もない。
 古いだけにセキュリティはゆるゆるのままだ。普通にエントランスを潜って階段を上がっていく、と、シルバーが小さく「待て」と呟いた。三階から四階への途中の踊り場だ。

「……近い……ゆっくり進め」
「態度でか……」
「静かにしてろ」
「………………」

 言われたままに静かにそっと四階の廊下を歩く様は、まるで泥棒のようだと思った。
 バッグのファスナーを開けて、シルバーに少しは見えるように傾けて進んで行くと、しっ、と小さな呼気を発した。ぴたりと足を止め、息を殺す。

「その、次の扉……」

 階段から三軒目にあたるその部屋の前には、がちゃがちゃと不燃ゴミにしか見えないガラクタが積んであった。これ絶対このフロアの人から苦情言われるヤツだ。

「開け、ゴミっ」

 至極単純的確、かつ、そこはゴマじゃないのかよ、というツッコミどころを満載したセリフ、いやこいつの場合は詠唱魔法か、なんにしろでかい声でそう叫んだ。
 静かにとか言っていたくせに響く声を出すものだから、オレも反射的にバッグを隠すように抱きしめる。腕の中でもごもごしているシルバーに焦る間もなく、ロックが外れ、ガチャガチャっと掛かっていたらしいチェーンも外れ、ドアが景気よく開いた。

「ちょ、ああああのっ?」

 ドアが開く時には、普通はそのすぐ向こうに開けた中の人がいるものだ。ドアノブや取っ手を持って、どなた?とかいらっしゃいとか……。
 その図を想像したオレの目の前には、誰もいなかった。

「さっさと入れ、この愚図がっ」

 シルバーの声にツッコミを入れる余裕もなく、慌てて入り込むと、続いて「閉じよ」とかなんとか言う声がした。
 おろおろしつつも足元や周りをちらちら見る。靴はいろいろな種類の靴が散乱している。割と履き潰した靴から、新品に近いもの、或いはパンプスっていうんだっけか、女の人が履いてるようなヒールのついたヤツ。下駄箱の上には手袋やら帽子やらマフラーといった、出かける時に身につけるもの。それらが雑然と散らかり、重なっていた。
 そう、汚部屋とかゴミ溜めとかに近い雰囲気なのだ。
 奥へと続く廊下や、開け放ったままのクロゼットの中、全てに何かが入れられて、置かれていた。全体に膝上くらいの高さで揃っているのは、実際にはゴミではないからだろうか。
 写真や動画で見た時にそういう部屋からイメージされるような悪臭などもなく、機械油や線香や、そういう不思議なニオイがする。ただ、散らかっているだけ……にしてもすごいが。
 ここ?とバッグを開いてシルバーに見せると、おう、と応えた。

「しらがみぃ~、いるか~?」

 シルバーが緊張感をぶっちぎる、呑気な声を上げた。
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