異星のエクスプローラー

白沢戌亥

文字の大きさ
上 下
1 / 14
賢者の弟子編

1、人類再生

しおりを挟む

『外装を解除』

『凍結カプセルの解答手順を開始』

『組織改変作業を開始』

『対象の意識レベル上昇を確認』

『医療ユニットへ移送』

『“人類”の復活を開始します』

◇ ◇ ◇

 夢を見ていた。
 遙か昔、家族で海へ出掛けたころの夢だ。
 朝から日暮れまで、砂の上で駆け回り、海の中で笑った。
 だが、どうしてだろうか。
 家族の声も、姿も思い出すことができない。
 覚えているのは、自分には家族がいて、全員揃って海に行ったということだけ。
 海の中に何かがあるかもしれないと深く深く潜ろうと足をばたつかせ、しかしほんの数メートルだけ下降しただけで押し戻される。
 暗い海底から明るい空へと視線が回り、やがて水面から顔を出した。



『おはようございます。人類』

 聞こえてきた声に目を開ける。
 そこにあったのは、薄ぼんやりと発光する板で作られた天井。

「ここは……」

『ここは当船内研究区画にある医療施設です。
 ここに至るまでのことをどれほど記憶しているか、確認させてください」

 声は天井から聞こえてくるようだった。
 男とも女とも分からない、中性的な声だ。

『人類。あなたは自分が何者であるか、認識していますか?』

 問われ、自分がなにものであるか思い出そうとする。
 最初に思い出せたのは、自分が故郷の街で暮らしていたことだ。
 そして、ごく普通に電車に乗り、勤務先の最寄り駅で電車から降りた。

「……あれ? 俺そこからどうしたんだっけ」

『保存タグに残存していた記録と一致します。
 人類、あなたは通勤中に倒れ、医療施設へと運ばれました。
 しかしあなたの状態はその施設では対応できず、医師の判断により症状悪化を防ぐための凍結処理を施されたのです』

 声の説明を聞き、真っ先に湧き上がったのは安堵だ。
 自分がどれほど悪い病気を患ったのかはわからないが、こうして無事に目を覚ましたのだからそうした問題は解決されているのだろう。

「よかった。なら俺を家に帰してくれ」

 やらなければならないことは山のようにある。
 詳しいことは思い出せないが、やるべきことが山のようにあったことだけは覚えている。
 家に戻れば、忘れていることも思い出せるはずだ。

「やらなきゃならないことが嫌になるほど残ってるんだ」

『いえ、人類。あなたがすべきことは残っていません』

 声の答えに、疑問より怒りが湧いた。
 自分の価値を否定されたように思えたのだ。

「どういうことだよ。いいからさっさと帰る支度をさせてくれ!」

 医療用ベッドから身を起こし、周囲を見回しながら声を荒げる。
 声の主はどこかにいるはずだ。どこからか自分を見て、この有様を笑っているに違いない――そんな気持ちで声を張り上げた。

「さっきからお前はなんなんだ! いい加減に姿を見せろ!」

『私はすでにあなたの目の前にいます。人類』

 その答えの意味を問うより早く、声は続けた。

『私は地球国家連合により建造された恒星間航行移民船《アルゴノート》のサブパーソナリティアバター。そして今あなたがいるのは、その《アルゴノート》の内部です』

◇ ◇ ◇

『人類。あなたの個人情報はすでに残っていません。ですが、医療タグに残されていた記録と本船内部の残存記録を照合したところ、地球の医療機関で長期保存されたのち、当船へと積み込まれたことが判明しています。ただ、詳しい時系列はタイムスタンプが欠落しており、わかりません』

「なんだよそれは……」

 声は続ける

『そして積載後の本船の記録については、ほとんど残っていません。ただ確認できる記録と各観測情報から推測する限り、別天体への航行中に何らかの事情でこの惑星へと落下したものと考えられます』

 あまりに剣呑な言葉に、思わず声が出た。

「宇宙船の墜落だって?」

『あなたが生きていた時代では、すでに初期宇宙技術が確保されていたはずです』

「そんなこと信じられるか! いったい何の冗談だよ! この部屋だってセットなんだろ! こんな悪趣味な冗談、さっさと終わらせろ!」

『……では証拠を見せましょう』

 声がそう言った途端、体がふわりと浮き上がる。

「うわあっ!?」

慌てて手足をばたつかせると、その動きによって体が回転を始めた。
 ぐるぐると何回も、前後左右様々な方向へと回り、それによってワイヤーなどで吊り下げられているわけではないとわかった。

「わかった! わかったから降ろしてくれ!」

 たまらず叫ぶと、体はゆっくりベッドの上に降ろされた。
 しかし周辺の器具は僅かに遅れて乱雑に地面に落下する。

『重力制御を部屋全体。そして個別にそれぞれ作用させました。このような技術は、あなたの生きていた時代には存在しなかったと考えられます』

 衝撃で言葉も発せない相手に、声はさらに続ける。

『人類。私に答えられることは多くありません。当船は重大な損傷を被り、あなたを蘇生するために残余リソースの大半を用いました。ですがあなたが生存し、生命活動を続けていくためには私のバックアップが不可欠です』

 機械は焦らない。
 だが、声には焦りのような感情があるように思えた。それが錯覚なのか、事実なのか。それすら確かめる時間は残されていなかった。

『人類。あなたには装備を整えたのち、すぐに我々の文明が残した遺産を捜索して頂きたいのです。そうしなければ、我々はどちらも生き残ることができません。あなたが、現在生存している最後の人類なのです』
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

成長チートと全能神

ハーフ
ファンタジー
居眠り運転の車から20人の命を救った主人公,神代弘樹は実は全能神と魂が一緒だった。人々の命を救った彼は全能神の弟の全智神に成長チートをもらって伯爵の3男として転生する。成長チートと努力と知識と加護で最速で進化し無双する。 戦い、商業、政治、全てで彼は無双する!! ____________________________ 質問、誤字脱字など感想で教えてくださると嬉しいです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一
ファンタジー
タイトル変更しました→旧タイトル 「デッドエンドキングダム ~十五歳の魔剣使いは辺境から異世界統一を目指します~」 前世の記憶を持って生まれたオスカーは国王の落とし子だった。父の死によって十五歳で北の辺境王国の統治者になったオスカーは、炎を操る魔剣、現代日本の記憶、そしてなぜか生まれながらに持っていた【千里眼】の能力を駆使し、魔物の森や有翼人の国などを攻略していく。国内では水車を利用した温泉システム、再現可能な前世の料理、温室による農業、畜産業の発展、透視能力で地下鉱脈を探したりして文明改革を進めていく。 軍を使って周辺国を併合して、大臣たちと国内を豊かにし、夜はメイド達とムフフな毎日。 しかし、大陸中央では至る所で戦争が起こり、戦火は北までゆっくりと、確実に伸びてきていた。加えて感染するとグールになってしまう魔物も至る所で発生し……!? 雷を操るツンデレ娘魔人、氷を操るクール系女魔人、古代文明の殺戮機械人(女)など、可愛いけど危険な仲間と共に、戦乱の世を駆け抜ける! 登場人物が多いので結構サクサク進みます。気軽に読んで頂ければ幸いです。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...