55 / 78
第55話 天月悠斗って誰?
しおりを挟む
渡鹿野島は三重県の東にある人口300人にも満たない小さな島だ。
外形はハートマークを崩したような形をしていて、大部分は自然が占めているが南東に小さな町がある。
ここが、天月悠斗が生まれ育った町、か。
足を踏み入れて抱いたのは、まあ三重県ってこんなものだよなっていうありふれた感想。
よく都会から来た人が四日市の人だかりを見て三重県って廃れてるねって言うけれど、四日市は栄えてる方なんだ。それ以外の町を知らないからそんなことが言えるんだ。
一般的な三重県を知っている俺から言わせてもらえば、その島はやっぱりよく見知った三重県でしかなかった。
「さて、そろそろ聞いてもいいかな」
「なんです?」
「この島に来た理由だよ」
「だからそれは計算から導き出して……」
「まさか、あの一瞬で紐解いたわけじゃないだろう?」
横目に、碧羽さんと目が合った。
怒っているわけではなさそうだ。
ただ純粋に気になっているといったところだろうか。
平方根の階差数列がパッと浮かぶようならそいつはただの変人だ。
いったいどれだけ数字漬けの生活を送ればその境地にたどり着けるのやら、オレには想像もできない。
「ずっと昔に遊んだゲームに、同じ手口が使われていたんですよ。当時は階差数列が何かよくわかってませんでしたけど」
「へぇ、興味深い話だね。ちなみに、なんていうタイトルだい?」
「ぱん……、黙秘します」
あぶねぇ。
タイトルを口走ってそのゲームが存在しなければ確実に怪しむだろうし、もし仮に実在していたらアダルトゲームをずっと昔に遊んでいたことがばれてしまう。
とりあえず成人するまでは黙っておこう。
「えぇ……教えてくれてもいいじゃないか」
「ダメです! 世の中には知らない方がいいことがあるんです!!」
「そうやって言われると、余計に気になるなぁ」
「絶対に言いませんから! それよりほら! 先を急ぎますよ!!」
碧羽さんから逃げるように、その場を走り出した。
だけど、数歩進んだところで足を止めた。
それは碧羽さんも同じらしい。
「……碧羽さん、今、変な感じしませんでした」
「したね。異世界に足を踏み入れた時とよく似た感覚だ」
オレはうなずいた。
ちなみに言っておくけれど、異世界っていうのはナーロッパとかの話じゃなくて例えば黄泉比良坂とか、きさらぎ駅とかそういうタイプの異世界ね?
「ビンゴみたいだね。アスモデウスがここにいるのは間違いないだろう」
アスモデウスの犯行時間は日没から夜明けまで。
つまり夜の間だけ。
「手分けして探しますか?」
「そうだね。アスモデウスが活動を始める日没までは別行動にしよう。日没には当初の目標地点に集合。いいかい?」
スマホに表示された時間を確認する。
15:00を示す文字盤。
あと3時間くらいは猶予がある。
「分かりました」
そういって、碧羽さんとは分かれる。
さて、どうしたものか。
人を殺しに来る以上、夜には町にいるはずだけど、果たして今も人里で身を潜めているのか、それとも山奥で息をひそめているのか。
ゲームだと日が暮れてからが始まりだから、その辺までは言及されていない。
(せっかくだから、天月悠斗を探してみるか)
ゲーム通りに進むとしたら、アスモデウスは彼のもとにやってくる。アスモデウスを探すのも天月悠斗を探すのも同じことなら、人里に住んでいるはずの天月悠斗を探す方が手っ取り早い。
*
これまで、ゲームの登場人物とは割とあっさり出会えて来た。
だから今回も、割とあっさり見つかってしまうんじゃないかって、根拠もなく、なんとなくそんな風に思っていた。
「……いない?」
たまたま歩いていた老人に「天月さんのおうちはどちらでしょう」と聞いた結果、返ってきたのはそんな言葉だった。
いわく、長く町内会に携わってきたけれど、渡鹿野島に天月姓の人は住んでいないというのだ。
「そんなはずは」
しばらくその老人に食い下がると、老人はついて来いとその人の家まで案内してくれて、戸棚から島民の苗字が記載された渡鹿野島の地図を見せてくれた。
隅から隅まで探したが、たしかに天月という文字はどこにもない。
(……どこまでがゲームで、どこからが現実なんだ)
結局、その老人には謝罪と感謝の言葉を残し、再び町に出た。港に出れば、真っ赤に燃える空が海を赤く染めている。
「天月悠斗って、何者なんだ」
どうしてオレは、彼が存在する前提でいたんだろう。分かっている。『ぱんどら☆ばーすと』の主人公だからだ。
他のヒロインがいるんだから、主人公もいるもんだって、オレはそう、そう、思って。
(そういえば、男キャラに目が描かれていると萎える人って結構多いんだっけか)
気持ちはわかる。
そしてその理論で行くと。
(天月悠斗は、プレイヤーの分身で、実在しない、そういうことなのか)
天月悠斗がいないなら、だれがアスモデウスを封伐するんだろう。
いや、例えば碧羽さんが封伐するのかもしれないけれど、それはこの周回でたまたま彼が生存していたからで、じゃあ碧羽さんも神藤さんも生き残っていない世界だったらどうなってたのって話。
原作だとちなつが戦っていたけど、一人では倒せずにいた。
もしかして、何もせずにいたらアスモデウスがやってきた時点でゲームオーバー?
外形はハートマークを崩したような形をしていて、大部分は自然が占めているが南東に小さな町がある。
ここが、天月悠斗が生まれ育った町、か。
足を踏み入れて抱いたのは、まあ三重県ってこんなものだよなっていうありふれた感想。
よく都会から来た人が四日市の人だかりを見て三重県って廃れてるねって言うけれど、四日市は栄えてる方なんだ。それ以外の町を知らないからそんなことが言えるんだ。
一般的な三重県を知っている俺から言わせてもらえば、その島はやっぱりよく見知った三重県でしかなかった。
「さて、そろそろ聞いてもいいかな」
「なんです?」
「この島に来た理由だよ」
「だからそれは計算から導き出して……」
「まさか、あの一瞬で紐解いたわけじゃないだろう?」
横目に、碧羽さんと目が合った。
怒っているわけではなさそうだ。
ただ純粋に気になっているといったところだろうか。
平方根の階差数列がパッと浮かぶようならそいつはただの変人だ。
いったいどれだけ数字漬けの生活を送ればその境地にたどり着けるのやら、オレには想像もできない。
「ずっと昔に遊んだゲームに、同じ手口が使われていたんですよ。当時は階差数列が何かよくわかってませんでしたけど」
「へぇ、興味深い話だね。ちなみに、なんていうタイトルだい?」
「ぱん……、黙秘します」
あぶねぇ。
タイトルを口走ってそのゲームが存在しなければ確実に怪しむだろうし、もし仮に実在していたらアダルトゲームをずっと昔に遊んでいたことがばれてしまう。
とりあえず成人するまでは黙っておこう。
「えぇ……教えてくれてもいいじゃないか」
「ダメです! 世の中には知らない方がいいことがあるんです!!」
「そうやって言われると、余計に気になるなぁ」
「絶対に言いませんから! それよりほら! 先を急ぎますよ!!」
碧羽さんから逃げるように、その場を走り出した。
だけど、数歩進んだところで足を止めた。
それは碧羽さんも同じらしい。
「……碧羽さん、今、変な感じしませんでした」
「したね。異世界に足を踏み入れた時とよく似た感覚だ」
オレはうなずいた。
ちなみに言っておくけれど、異世界っていうのはナーロッパとかの話じゃなくて例えば黄泉比良坂とか、きさらぎ駅とかそういうタイプの異世界ね?
「ビンゴみたいだね。アスモデウスがここにいるのは間違いないだろう」
アスモデウスの犯行時間は日没から夜明けまで。
つまり夜の間だけ。
「手分けして探しますか?」
「そうだね。アスモデウスが活動を始める日没までは別行動にしよう。日没には当初の目標地点に集合。いいかい?」
スマホに表示された時間を確認する。
15:00を示す文字盤。
あと3時間くらいは猶予がある。
「分かりました」
そういって、碧羽さんとは分かれる。
さて、どうしたものか。
人を殺しに来る以上、夜には町にいるはずだけど、果たして今も人里で身を潜めているのか、それとも山奥で息をひそめているのか。
ゲームだと日が暮れてからが始まりだから、その辺までは言及されていない。
(せっかくだから、天月悠斗を探してみるか)
ゲーム通りに進むとしたら、アスモデウスは彼のもとにやってくる。アスモデウスを探すのも天月悠斗を探すのも同じことなら、人里に住んでいるはずの天月悠斗を探す方が手っ取り早い。
*
これまで、ゲームの登場人物とは割とあっさり出会えて来た。
だから今回も、割とあっさり見つかってしまうんじゃないかって、根拠もなく、なんとなくそんな風に思っていた。
「……いない?」
たまたま歩いていた老人に「天月さんのおうちはどちらでしょう」と聞いた結果、返ってきたのはそんな言葉だった。
いわく、長く町内会に携わってきたけれど、渡鹿野島に天月姓の人は住んでいないというのだ。
「そんなはずは」
しばらくその老人に食い下がると、老人はついて来いとその人の家まで案内してくれて、戸棚から島民の苗字が記載された渡鹿野島の地図を見せてくれた。
隅から隅まで探したが、たしかに天月という文字はどこにもない。
(……どこまでがゲームで、どこからが現実なんだ)
結局、その老人には謝罪と感謝の言葉を残し、再び町に出た。港に出れば、真っ赤に燃える空が海を赤く染めている。
「天月悠斗って、何者なんだ」
どうしてオレは、彼が存在する前提でいたんだろう。分かっている。『ぱんどら☆ばーすと』の主人公だからだ。
他のヒロインがいるんだから、主人公もいるもんだって、オレはそう、そう、思って。
(そういえば、男キャラに目が描かれていると萎える人って結構多いんだっけか)
気持ちはわかる。
そしてその理論で行くと。
(天月悠斗は、プレイヤーの分身で、実在しない、そういうことなのか)
天月悠斗がいないなら、だれがアスモデウスを封伐するんだろう。
いや、例えば碧羽さんが封伐するのかもしれないけれど、それはこの周回でたまたま彼が生存していたからで、じゃあ碧羽さんも神藤さんも生き残っていない世界だったらどうなってたのって話。
原作だとちなつが戦っていたけど、一人では倒せずにいた。
もしかして、何もせずにいたらアスモデウスがやってきた時点でゲームオーバー?
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】
・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー!
十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。
そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。
その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。
さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。
柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。
しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。
人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。
そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる