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第37話 熊野市
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特急を使って、碧羽さんと熊野に着いた時には、すっかり夜も深くなってしまっていた。
熊野には昔、花火大会を見に来たことが一度だけある。あの日は三重県で一番栄えている四日市ですら過疎地域と思えるほど人でごった返していたけど、夜も深いからか、人の賑わいはうかがえない。
碧羽さんの案内に従って道を進む。
熊野駅を出て左にしばらく行くと、高校が見えてくる。
「想矢くん、こっちだよ」
「え、ここって高校じゃ……。無断侵入はまずいですよ」
「大丈夫。たぶんギリギリ敷地外の路地だから」
碧羽さんはそう言うと、道幅1メートルほどの道をずんずん進んでいく。
左手には植物のカーテンを挟んでグラウンドがあり、前方には山が夜色に染まってそびえている。
「さ、ここが件の呪いが目撃された中で、一番熊野古道に近い入口だよ」
「え? ここが?」
そこにあったのは、山奥へと伸びている小さな石段と、杭を刺しただけのような看板が一つだけだった。
そのみすぼらしい看板には、たしかに『熊野古道』の四文字が書かれている。
人はいない。
入口らしき門もない。
神聖さを感じることもなければ邪悪を感じることもない。
内と外の境界すら曖昧。
「熊野古道って世界遺産ですよね?」
「そうだよ?」
「こんなずさんな管理でいいんですか……」
世界遺産って、もっとこう、大事にされてるものかと思った。
入場するだけで金をとられるのかなって。
これじゃあ好きなように立ち入れるじゃないか。
荒らす人とかいないんだろうか。
「大丈夫。ここに観光に来る人なんて外国の人くらいだし、その手の人にはちゃんとガイドがつくから」
「地元の人は立ち入らないんですか?」
「ユニバの近くに住んでる人がわざわざユニバに行かないのと同じ理屈だね」
なんとなくわかる気がする。
オレも伊勢神宮なんて、結局年始くらいしか行かないしな。それも人が減ってきたあたりに。
「まあだから過疎化が進んでるんだけど」
「だめじゃないですか」
「でも熊野市は高齢社会ではないんだよ?」
「そうなんですか?」
「うん。高齢者の割合が21パーセント以上は超高齢社会だから」
「だめじゃないですか」
「ちなみに熊野の高齢者の割合は2015年時点で41.8パーセント」
「ほぼダブルスコア」
もうすでに42パーセント超えてるのでは?
というか下手すれば50パーセント超えてそう。
「というか、碧羽さん詳しいんですね」
「ん……まあね。僕の同期に、熊野出身の奴がいてね。いつか地元に賑わいをもたらすんだって、よく聞かされたよ」
「……今は」
「死んだよ。『呪い』と戦うってのは、そういうことだ」
碧羽さんは、淡々と言い切った。
その表情をうかがう気にはなれなかった。
でも、続く言葉がすべてを物語っていた。
「でもね、あいつの思いは、僕が受け継いでいる。あいつの意思は、僕が死なない限り途絶えはしない。そうやって誰かにバトンはつながれていって、いつか時代を担う人が、思いを遂げる。そうすれば、あいつの悲願は必ず成就する。そうだろう?」
碧羽さんは、曇りなき眼でオレに問いかけた。
ああ、碧羽さんは、もう答えを見つけたんだ。
思いを一生抱きかかえるって、決めたんだ。
強いなぁ。
「じゃあ、必ず生きて帰らないとですね」
「うん。そういうこと。頼りにしてるよ、想矢くん」
この人はまた、難しい要求をあっさりと。
英雄に頼りにされるって、どういうことだよ。
エロゲのモブには、ちぃとばかし荷が重くないですかね。
まあ、オレの答えも決まっているんだけど。
「はい。もう、誰かの笑顔が傷つくところなんて、見たくありませんから」
碧羽さんのことも、紅映の笑顔も、東雲家の未来も。
全部まとめて、守り抜いて見せる。
熊野には昔、花火大会を見に来たことが一度だけある。あの日は三重県で一番栄えている四日市ですら過疎地域と思えるほど人でごった返していたけど、夜も深いからか、人の賑わいはうかがえない。
碧羽さんの案内に従って道を進む。
熊野駅を出て左にしばらく行くと、高校が見えてくる。
「想矢くん、こっちだよ」
「え、ここって高校じゃ……。無断侵入はまずいですよ」
「大丈夫。たぶんギリギリ敷地外の路地だから」
碧羽さんはそう言うと、道幅1メートルほどの道をずんずん進んでいく。
左手には植物のカーテンを挟んでグラウンドがあり、前方には山が夜色に染まってそびえている。
「さ、ここが件の呪いが目撃された中で、一番熊野古道に近い入口だよ」
「え? ここが?」
そこにあったのは、山奥へと伸びている小さな石段と、杭を刺しただけのような看板が一つだけだった。
そのみすぼらしい看板には、たしかに『熊野古道』の四文字が書かれている。
人はいない。
入口らしき門もない。
神聖さを感じることもなければ邪悪を感じることもない。
内と外の境界すら曖昧。
「熊野古道って世界遺産ですよね?」
「そうだよ?」
「こんなずさんな管理でいいんですか……」
世界遺産って、もっとこう、大事にされてるものかと思った。
入場するだけで金をとられるのかなって。
これじゃあ好きなように立ち入れるじゃないか。
荒らす人とかいないんだろうか。
「大丈夫。ここに観光に来る人なんて外国の人くらいだし、その手の人にはちゃんとガイドがつくから」
「地元の人は立ち入らないんですか?」
「ユニバの近くに住んでる人がわざわざユニバに行かないのと同じ理屈だね」
なんとなくわかる気がする。
オレも伊勢神宮なんて、結局年始くらいしか行かないしな。それも人が減ってきたあたりに。
「まあだから過疎化が進んでるんだけど」
「だめじゃないですか」
「でも熊野市は高齢社会ではないんだよ?」
「そうなんですか?」
「うん。高齢者の割合が21パーセント以上は超高齢社会だから」
「だめじゃないですか」
「ちなみに熊野の高齢者の割合は2015年時点で41.8パーセント」
「ほぼダブルスコア」
もうすでに42パーセント超えてるのでは?
というか下手すれば50パーセント超えてそう。
「というか、碧羽さん詳しいんですね」
「ん……まあね。僕の同期に、熊野出身の奴がいてね。いつか地元に賑わいをもたらすんだって、よく聞かされたよ」
「……今は」
「死んだよ。『呪い』と戦うってのは、そういうことだ」
碧羽さんは、淡々と言い切った。
その表情をうかがう気にはなれなかった。
でも、続く言葉がすべてを物語っていた。
「でもね、あいつの思いは、僕が受け継いでいる。あいつの意思は、僕が死なない限り途絶えはしない。そうやって誰かにバトンはつながれていって、いつか時代を担う人が、思いを遂げる。そうすれば、あいつの悲願は必ず成就する。そうだろう?」
碧羽さんは、曇りなき眼でオレに問いかけた。
ああ、碧羽さんは、もう答えを見つけたんだ。
思いを一生抱きかかえるって、決めたんだ。
強いなぁ。
「じゃあ、必ず生きて帰らないとですね」
「うん。そういうこと。頼りにしてるよ、想矢くん」
この人はまた、難しい要求をあっさりと。
英雄に頼りにされるって、どういうことだよ。
エロゲのモブには、ちぃとばかし荷が重くないですかね。
まあ、オレの答えも決まっているんだけど。
「はい。もう、誰かの笑顔が傷つくところなんて、見たくありませんから」
碧羽さんのことも、紅映の笑顔も、東雲家の未来も。
全部まとめて、守り抜いて見せる。
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