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第36話 狐のお面をかぶった幼女巫女

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 ちなつとメアリと別れてからの帰り道。
 日も暮れかけて、西の空にグラデーションがかかる時刻のことだった。

 駅から歩いて十数分。
 往来の喧騒も遠のいて、閑散とした道を進めば見慣れた我が家がたたずんでいる。

 その、玄関前に。
 たたずむ小さな人影があった。

楪灰ゆずりは想矢そうや様ですね」

 白装束に、緋袴を重ねた巫女服。
 狐のお面。
 幼い女の子だろうと思える質の声。

「『岩戸』の方ですか?」
「はい。碧羽あおば様がお呼びです。どうか『岩戸』までお越しください」

 碧羽さんがオレに用?
 紅映くれは関係のこと?
 いや、だったら『岩戸』の人間を遣いによこさないか。

「『呪い』ですか?」

 狐の面をかぶった少女はこくりとうなずいた。

「数年前から熊野くまの市にて、カモシカの頭蓋骨を被った人型の化け物が繰り返し発見されております」
「人型?」

 オレは思わず聞き返した。

 『呪い』は確かに存在する。
 だが一般的ではない。

 それがどうしてかと聞かれれば、何割かは『岩戸』や『凱旋門』のおかげと答えられる。
 だがその割合は全体の2~3割にすぎない。

 その多くは、『呪い』が「出会ったら最期」の存在だからだ。

 『呪い』と鉢合わせれば、ただ人にあらがう術はない。どれだけ強力なスキルを持っていたとしても、呪いの本質は不の感情であり、エネルギーは無限に供給され続け、朽ちることはない。
 抗えるものは、超常の柩パンドラを持つ者だけだ。

 結果として『呪い』が原因の事件の多くは、何者かによるスキルの悪用か、それでなければ不慮の事故として処理される。
 とりわけ、強力な呪いほど狡猾で、そもそも一般に感知されることなく闇に潜んでいる場合が多い。

 そして、人型の『呪い』は知恵が回る場合が多い。
 非常にめんどくさい相手なのだ。

「幸い、被害報告は出ておりませんが、相手は明らかな異形。早急な対処が望まれます」

 オレはうなずいた。

「わかりました。今すぐ合流してきます」
「ご助力、神藤しんどうに代わってお礼申し上げます」
「お嬢さんも『岩戸』まで戻りますか?」
「はい」
「だったら」
「……ふえ? な、なにをなさってるのですか!?」
「抱っこ」

 女の子を抱っこする。
 年不相応なしゃべり方をする子だなと思ったけれど、驚いた時に出る声はずいぶんとかわいらしいものだった。

「じ、自分の足で歩けますから!」
「まあまあ。こっちの方が早いから」
「話を聞いてください!」
「それは別料金かなぁ。じゃ、しっかりつかまっててくださいね」

 【アドミニストレータ】、発動。
 超常の柩パンドラ駆動。
 力を貸せよ、バースト。

「っし、行くか」

 停止した時間を駆け抜ける。
 モノクロの世界をオレだけが自由に動ける。

 伊勢神宮までそこそこ距離があるとはいえ、バーストを呼び出しておけば割とすぐにつく。
 『呪い』の反動は停止した時間の中で体を休め、【アドミニストレータ】を解除すれば現在時空での『岩戸』に到着である。

「ほい、到着」
「え? え? ど、どうして? 瞬間移動のスキル持ちですか!?」
「企業秘密」
「む、むぅ。御屋形様にご報告するのは……」
「好きにしたらいいけど、いろいろと制約があるし、そんな便利なものじゃないよ」

 ぶっちゃけ、海を渡る移動は厳しいかなって思ってる。オレの超常の柩パンドラの飛行役はフリカムイに一任してるから、大陸を渡るだけの時間、オレの体が呪いの反動に耐えられない。
 日本国内ならある程度自由に移動できると思うが、それにしてもオレの感覚だと交通機関縛りで移動するようなものだから実は普通にしんどい。
 金はあるからあとは時間さえあれば交通機関で楽をしたいのが本音。

「やあ、想矢くん。たいそうな登場の仕方だね」
「その声は!」

 声をかけられて、顔をあげる。
 たいそう大きな杉の木がそびえている。
 その幹の途中、水平方向に延びた枝にその人はいた。

「碧羽さん!」

 かつて大災害と形容すべき呪いを単独撃破した、大英雄がそこにいた。
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