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第23話 気づいてしまった思い【SIDE紅映】

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「なにこれ、壊れてんじゃないの?」

 初めてのクレーンゲーム。
 かわいいウサちゃんがそこにいて、手は届いているのにつかめない。もどかしい。じれったい。
 ああっ、また!!

 ああムカつく。
 今日はムカつくことばっかりだ。
 それもこれも、全部あいつのせいだ。

「……そうだ。あんた、賭けをしない?」
「賭け?」

 ふと、この鬱屈を晴らす方法を思いついた。

「そう。残りチャレンジ回数は1回。この1回であんたがウサちゃんを取れたら待遇をちょーっとくらい改善してあげるわ。その代わり、とれなかったら今日のお金は全部あんたが出しなさい!」

 ま、とれるわけないけどね。
 私がこんなに挑戦して無理だったんだ。
 こんな何のとりえもなさそうなやつに、一回の挑戦で取れるはずがない。

 さあ、賭けに乗ってくる勇気はあるの?
 無いでしょうね。

「いいけど」

 そう言うと彼は、クレーンゲームをぐるりと見まわした。
 だ、大丈夫よ。
 まだ焦るような時間じゃない。
 取れるわけがない。落ち着け私……。

「……え⁉」

 先ほどまでピクリとも動かなかったこれまでが嘘のように、あっさりと引き上げられるウサちゃん。
 こ、この。裏切者ー!!

「な、ななな、なんで⁉ おかしいじゃない!! 私の時はぴくりとも動かなかったのよ⁉」
「あはは、運がよかったよ」

 運?
 それは遠回しに、私が不運だと馬鹿にしているの?
 ムカつく。やっぱりコイツ、嫌なやつ――

「はいどうぞ」

 ――彼が、私にぬいぐるみを差し出した。
 え? どうして?
 だって、あんたが取ったのに。

 私が受け取らずにいると、彼は目に見えてわたわたした。視線が落ち着かず、顔をあちこちに回している。

「……いいの? 私、あんたにひどいこと言ったし、あんたがとったぬいぐるみなのに……」
「それをいうなら、お金を出したのは紅映さんじゃんか。それに、オレのとこにいるより、紅映さんのもとにいた方が、この子もきっと幸せだと思うから」

 ……こいつ、思ったより、嫌なやつじゃないかもしれない。

「あ……ありが、とう」

 優しいのに、不器用で、ちょっと抜けているところがあって。

(……あ、この人、お兄ちゃんと似ているんだ)

 そう、気づいてしまった。

「次、次のゲーム、行くわよ」

 私は、照れを隠すように彼を引っ張った。



「色んな飲食店があるのね。ねえ、想矢はどれがいいと思う?」

 しばらくゲームセンターで遊んだ私たちは、昼食をとることにした。彼の好きな食べ物は何だろう。そう思って、訪ねてみた。

「ここのパンケーキ屋さんはどう? フランス帰りの洋菓子職人さんが作ってるって話題になってたよ」

 彼が示したのは、くしくも私が気になっていたパンケーキ屋さんだった。
 同じものに興味を持っている。
 そう思うと、胸がほんわりと暖かくなった。

「……くわしいのね。想矢もパンケーキが好きなの?」
「オレっていうか、オレの知り合いにパンケーキ好きな子がいて、その子から教えてもらった感じ?」
「ふぅん。いいじゃん! 私もここ行ってみたかったんだよね!」

 そうして、向かったパンケーキ屋さん。
 想像の10倍ふわふわで、舌の上で溶けるようで、これだけでも今日ここに来てよかったと思えた。

 最初は、彼と一緒ってだけで嫌な気持ちだったのに。
 胸の中に、嫌なつっかえがあった。
 それを吐き出すように、言葉を選んだ。

「……最初はさ、お兄ちゃんが一緒に遊べないってなって、なんか、楽しみにしてたぶん、つらかったっていうかさ」
「うん。わかる気がする」
「それで、そのさ、想矢に、当たって、その、ごめん……ね?」

 私のわがままで、彼を傷つけた。
 ごめん、ごめんなさい。

「オレは、紅映さんに楽しいって思ってもらいたい。だから、そんな悲しそうな顔をしないでほしい」

 そんな私に、彼はそう語り掛けてくれた。

「紅映さんはどうなの? オレと一緒に回って、楽しいって、思えてる?」

 思えてる。思えてるに決まっている。

「じゃあ、この話は終わり。お互い、変に気を使っててもつかれるだけでしょ?」
「……そう、だね。うん。そうだよね」
「よし。さて、午後はどこをまわ……」
「想矢? どうしたの?」
「……いる」
「いる? いるって何が?」
「……呪いが、近くにいる」

 急に、彼の表情が険しくなった。
 こんな一面もあるんだ、とか、やっぱりお兄ちゃんと似てるな、なんて思った時だった。

「きゃあっ⁉」
「紅映!!」
「やぁ……ひっぱっちゃ、らめぇっ」

 どこからともなく長い触手が現れて、私の手足を絡めとった。とっさに、彼に助けを求めた。

「行くぜ、フリカムイ。力を貸せよ」

 大きな翼を生やした彼は、まるでおとぎ話の天使さまのようだった。そんな姿まで、兄の姿を連想させる。

 呪いを空へ連れ去ると、どこからともなく取り出した剣で、目にもとまらぬ速さで呪いを切り裂いていく。
 あっという間に、彼は呪いを封印してしまった。
 まるで、お兄ちゃんみたいに。

「紅映さん、大丈夫だった?」
「う、うん……、それより、想矢って、本当にすごかったんだね」
「ふふん、まあね」

 言葉は尊大なのに、態度はどこか照れくさげだった。
 ああ、ズルいなぁ。

「……ちょっと、カッコよかった」

 思わず、ぽつりとつぶやいてしまった。
 彼が素っ頓狂な顔で「へ?」と呟く。

「に、二度は言わないんだからね!!」

 もう、彼に対する嫌悪はなくなっていた。
 残るはわずかに、恋慕の情。

(ああ、好きになるって、こういうことなんだ)

 たぶん、おそらく、きっと。
 この日私は、彼に恋をした。
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