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第18話 謎が解けていく
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「神藤! 貴様ら、人の命を、なんだと!!」
「守るべきもの、そう考えておりますわ」
「ふざけるな! どの口がほざく!!」
「この口、ですわ」
一本歯下駄で音をたてながら神藤さんが歩み寄る。
いや、あんまり近寄らないほうが……。
「だったら! どうして僕一人に向かわせた! たった一人で挑めば、死ぬのが分かっていただろ! 何度も、何度も何度も、死ぬと思った。比喩表現でもなんでもなく、全身から血が噴き出すたびに、魂が抜けていく気がした。気が狂いそうだった! そんな戦場に一人だけ向かわせて、何が守るべきものだ!!」
「碧羽、私は」
「戯言なんざ聞きたくねえ! 死ね、死んでしまえ! オレが味わった苦痛と同等のものを味わって、後悔に飲まれて朽ちればいい!!」
「本当に、ごめんなさい」
「……あ?」
神藤さんが、ひざを折った。
頭を下げた。
地にこうべを垂らした。
オレと碧羽さんは、目を見開いた。
「んだよ、それ。僕は、『お前なんて死ねばよかった』って言われると思って……。ふざけんなよ。なんでてめえが頭を下げてんだよ!」
「それが、道を誤った神藤にできる、精いっぱいだからですわ」
「何を言って……」
「……我々はかつて『岩戸』に所属していながら、超常の柩を悪用する輩に刺客を放ち、そのうちの一人から蝗害について聞きだしたのです」
「それは……僕も聞いたさ」
「彼らの話によると、当時の蝗害は数百匹程度の群れでしかなかったのです」
「……は?」
話が違うぞ。
だって、蝗害は数億もの虫の群れだって。だからこそ数千万の被害が出たって。
「違う、だって、僕が見たのは、何億という虫の群れだ」
「ええ。それが真実です」
「神藤が偽情報をつかまされたとでもいうのか⁉ 嘘を見抜く能力者を有していながら⁉」
あぶねえ!
やっぱり嘘を見抜く能力者いるじゃねえか!
迂闊なこと言わなくてよかった。
「いえ。当時はまぎれもない真実だったのです」
「はぁ⁉ たった少しの期間で、数百の群れが数億まで拡大したっていうのかよ!!」
「今回の蝗害でメインとなったのはトモグイバッタ。その名の通り、生きるためなら共食いを厭わない恐ろしい種族です。そして、蝗害は被食者から捕食者へ伝播する呪いだった」
……恐ろしい話を知ってしまった。
「1匹の死体には、平均で4匹のトモグイバッタが群がると言われています。ネズミ算式に増える呪い、それこそが蝗害の真の姿だったのです」
1匹が4匹に、4匹が16匹に、16匹が64匹に。
そんな増え方をしていくのであれば、たった数百の個体がわずかな期間で億へ到達してもおかしくない。
もっとも、捕食側が呪いに感染していない個体とは限らないから実際にはもう少し緩やかな加算になるだろうけど、倍々方式で増えるのなら当然の結果かもしれない。
「それを見抜けなかった、我々の落ち度です」
「……」
「謝っても許されないでしょう。ですが――」
「いいよ、もう」
碧羽さんがため息交じりに呟いた。
「……想矢くんから呪いが届いた日付を、見たんだ。
呪いと戦う期間を考えて、明らかに決着後の未来から届いたまじないだった。
……だから、てっきり、僕が死んで、それを嘆いた誰かが、僕に復讐の機会をくれたんだと思った」
――でも、違ったんだね。
そう口にした碧羽さんの声は、後悔をかみしめるようだった。
「僕が死んだのを嘆いたのは、神藤だったのか……。
僕が死なないように、過去改変というリスクまで犯してくれて、それなのに、僕は……」
「碧羽……」
碧羽さんは、体が痛むだろうに、うめき声をあげながらも膝をついた姿勢になおり、頭を下げた。
「申し訳、ござい、ま、せんでした」
「守るべきもの、そう考えておりますわ」
「ふざけるな! どの口がほざく!!」
「この口、ですわ」
一本歯下駄で音をたてながら神藤さんが歩み寄る。
いや、あんまり近寄らないほうが……。
「だったら! どうして僕一人に向かわせた! たった一人で挑めば、死ぬのが分かっていただろ! 何度も、何度も何度も、死ぬと思った。比喩表現でもなんでもなく、全身から血が噴き出すたびに、魂が抜けていく気がした。気が狂いそうだった! そんな戦場に一人だけ向かわせて、何が守るべきものだ!!」
「碧羽、私は」
「戯言なんざ聞きたくねえ! 死ね、死んでしまえ! オレが味わった苦痛と同等のものを味わって、後悔に飲まれて朽ちればいい!!」
「本当に、ごめんなさい」
「……あ?」
神藤さんが、ひざを折った。
頭を下げた。
地にこうべを垂らした。
オレと碧羽さんは、目を見開いた。
「んだよ、それ。僕は、『お前なんて死ねばよかった』って言われると思って……。ふざけんなよ。なんでてめえが頭を下げてんだよ!」
「それが、道を誤った神藤にできる、精いっぱいだからですわ」
「何を言って……」
「……我々はかつて『岩戸』に所属していながら、超常の柩を悪用する輩に刺客を放ち、そのうちの一人から蝗害について聞きだしたのです」
「それは……僕も聞いたさ」
「彼らの話によると、当時の蝗害は数百匹程度の群れでしかなかったのです」
「……は?」
話が違うぞ。
だって、蝗害は数億もの虫の群れだって。だからこそ数千万の被害が出たって。
「違う、だって、僕が見たのは、何億という虫の群れだ」
「ええ。それが真実です」
「神藤が偽情報をつかまされたとでもいうのか⁉ 嘘を見抜く能力者を有していながら⁉」
あぶねえ!
やっぱり嘘を見抜く能力者いるじゃねえか!
迂闊なこと言わなくてよかった。
「いえ。当時はまぎれもない真実だったのです」
「はぁ⁉ たった少しの期間で、数百の群れが数億まで拡大したっていうのかよ!!」
「今回の蝗害でメインとなったのはトモグイバッタ。その名の通り、生きるためなら共食いを厭わない恐ろしい種族です。そして、蝗害は被食者から捕食者へ伝播する呪いだった」
……恐ろしい話を知ってしまった。
「1匹の死体には、平均で4匹のトモグイバッタが群がると言われています。ネズミ算式に増える呪い、それこそが蝗害の真の姿だったのです」
1匹が4匹に、4匹が16匹に、16匹が64匹に。
そんな増え方をしていくのであれば、たった数百の個体がわずかな期間で億へ到達してもおかしくない。
もっとも、捕食側が呪いに感染していない個体とは限らないから実際にはもう少し緩やかな加算になるだろうけど、倍々方式で増えるのなら当然の結果かもしれない。
「それを見抜けなかった、我々の落ち度です」
「……」
「謝っても許されないでしょう。ですが――」
「いいよ、もう」
碧羽さんがため息交じりに呟いた。
「……想矢くんから呪いが届いた日付を、見たんだ。
呪いと戦う期間を考えて、明らかに決着後の未来から届いたまじないだった。
……だから、てっきり、僕が死んで、それを嘆いた誰かが、僕に復讐の機会をくれたんだと思った」
――でも、違ったんだね。
そう口にした碧羽さんの声は、後悔をかみしめるようだった。
「僕が死んだのを嘆いたのは、神藤だったのか……。
僕が死なないように、過去改変というリスクまで犯してくれて、それなのに、僕は……」
「碧羽……」
碧羽さんは、体が痛むだろうに、うめき声をあげながらも膝をついた姿勢になおり、頭を下げた。
「申し訳、ござい、ま、せんでした」
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