上 下
10 / 78

第10話 東雲 紅映

しおりを挟む
 最近のゲームには2周目がある。
 ラスボスを倒せるだけのスキルが既にあり、1周目に起きたイベントを把握した状態で進める2周目。
 そう、「強くてニューゲーム」である。

 もちろん、『ぱんどら☆ばーすと』にも2周目は存在する。1周目の段階でヒロインになりそうだなってキャラクターが10人はいた。一人ずつ攻略しても10周は必要だし、複数人同時攻略、ハーレムルートまで考慮すれば組み合わせはとんでもないことになる。

 さて、俺が2周目に選んだヒロインに言及する前に、伝えておくべきことがある。まず、ゲーム内において所属する陣営についてだ。これは大きく3つある。

 一つは『岩戸』と呼ばれる伊勢神宮に本部を置く、東洋を中心とした組織。
 ここに所属した場合、神藤家を始めとしたキャラクター達とのイベントが発生しやすくなる。

 二つ目は『凱旋門』と呼ばれる、フランスに本部を置く、西洋を中心とした組織。
 こちらのルートは試したことがないけれど、おそらく西洋生まれのキャラクターとのイベントが発生しやすくなるだろうと思われる。

 この二つの組織は、活動範囲こそ違えど、目的は同じ「呪いの討伐」と「平和の維持」だ。
 もっとも、そのための手段や理念は相反する部分があり、敵対することもあるのだけれど、それはまた機会があれば話すとしよう。

 問題は、第三陣営だ。
 いや、彼らを一緒くたにするのは危険だろうか。

 彼らには、決まった組織名がない。
 それどころか本部もなければ、まとまりもない。
 そんな彼らを一言で言うのなら、あぶれ者だ。

 例えば東雲しののめ紅映くれはのように。
 緋色の髪、ちょこんと生えた愛らしい八重歯。
 元気が似合う彼女は、『岩戸』から指名手配された犯罪者だ。

「動くな、無関係なこいつの命を散らしたくはないでしょう?」
「東雲! きさま、どこまで卑劣な!!」

 ……どうしてこうなった。

(動かないで。大丈夫、あなたに危害は加えない)
(あ、はい)

 俺は今、彼女の人質として捕まっている。
 どうしてこうなった?

「柩を置きなさい」
「……我々のような端役は柩を持ち合わせていない」
「柩を置きなさい。三度目の忠告はないわ。この少年の首が飛ぶと思いなさい」
「くっ」

 『岩戸』の刺客さんたちが、黒い柩を足元に置いて手を離した。
 おー、嬉しいね。
 モブキャラの俺にも人質としての価値はあるのか。

「そう。そのままゆっくり振り返りなさい。手は頭の後ろで組むこと」
「分かった。だが、先に少年を解放してくれ」
「状況が見えていないのかしら? この場の支配権は私にある。交渉の余地はないわ」
「くっ」

 言われたとおりに背中を見せる『岩戸』の刺客。

 紅映は俺の耳元で吐息を零すと、懐から黒色の柩を取り出した。これこそが、彼女が『岩戸』から狙われている理由である。

「じゃあね、おまぬけさんたち」

 彼女の足を、黒い甲殻が覆う。
 これが彼女の超常の柩パンドラ
 蝗害こうがいの呪いだ。

 バッタ類の脚力を手にした(足にした?)彼女は、俺を抱えたままひとっとび。
 あっという間にその場を離れてしまった。



「やー、ごめんね少年くん。ごたごたに巻き込んじゃって」
「いえ、お力になれたなら幸いです」
「やー! いい子だね! なでなでしてあげよう」

 と、いうわけで。
 俺は東雲しののめ紅映くれはになでなでしてもらっていた。
 どうしてこうなった。

「……ああ、これかい? 気になるよね」
「いえ、そういうわけでは」
「このこのー、恥ずかしがるなって」

 超常の柩パンドラを手に取って彼女は言う。

「これさ、お兄ちゃんの形見なんだよね」

 そう口にする、彼女の瞳は揺らいでいた。

 本当に、どうしてこうなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...