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第5話 ボルスト・ゼラ・ライナグル
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明日からは聖女の教育が始まる。
講義は王城内部で行われ、以降私は王城で生活することになる。
与えられた一室は、モノグラム家とは比べ物にならないくらい豪華な部屋だった。
豪華すぎて落ち着かない。
かといって家具を取り除くと広すぎる。
「アイーシャ様、よろしいでしょうか?」
「はい? なんでしょうか?」
どうしたものかと思案していると、扉越しに声を掛けられた。なるほど。使用人という立場があったか。
彼らの宿舎にどうにか私も混ざれないかな。
「ライナグル公爵家ご子息であるボルスト様より、ぜひ面会したいと言伝を預かっております。どうなさいますか?」
「へ?」
少しだけ考えて、すぐに意味を理解した。
(ああ、所得税がもともと彼のアイデアだから)
もしかすると着想自体はすでにあって、盗用したと疑っているのかもしれない。
いや疑うどころか実際盗用したけども。
だけどそれを証明する根拠はこの世界のどこにもない。
だったら、私は堂々としていればいい。
「ぜひ、ボルスト様とお話しさせていただきたいです」
「承知いたしました。では、会議室へご案内いたしますゆえついていらしてくださいませ」
先を行く使用人さんの後をついていくと、少しして広間に出た。その広間には円卓が設置されていて、向かいには一人の青年が座っている。
先ほどであったライナグル公爵を若くしたと言えばいいのだろうか。
一目見て、彼が噂の子息だとわかった。
「はじめまして、ボルスト・ゼラ・ライナグルと申します。お名前をお伺いしても?」
「お初にお目にかかります。アイーシャ・ロウ・モノグラムと申します」
入った瞬間、ボルストは立ち上がり貴族流のあいさつで先制パンチを打ち込んできた。少しばかり面食らいながらも貴族流のあいさつで返す。
言葉を発するタイミングを失った使用人さんは一礼して扉の近くで待機することになった。なんかごめん。
「僕の想像通り聡明そうな人だ! ねえ、所得税って君が考案したんでしょ? どこから着想を得たの? いつから考えていたの? 他にどんな案があるの!?」
……おー。
とりあえず、私の想像とはかけ離れてた。
いやまあその日のうちに会って話がしたいって言いに来る辺り行動力があるタイプだとは思ったけど、ここまで口数が多いとは思わなかった。
さて、どう返そうか。
私が考案した。否。
どこから着想を得たの。未来のあなたから。
いつから考えていたの。前世。
他にどんな案があるの。無いよ。
うん、答えられるものが一つもないや。
「答える義理はございませんね」
前世で、母の客だった名うてのギャンブラーが言っていた。相手に手札を知られるな。底知れない相手だと錯覚させろ。それが交渉の前提条件だ、と。
「それは、僕たちが赤の他人だから?」
「そうですね」
「だったら、縁組すれば話してくれるわけだ」
「そうですね……え?」
今なんて言った?
エングミ、えんぐみ、……縁組?
「僕と婚約してほしい。アイーシャ・ロウ・モノグラム」
……何言ってるのこの人。
天才は奇人が多いっていうあれかな。
「どうかな? 僕は公爵家の長男だし、顔も悪くないと思う。悪くない話だと思うんだけど――」
「お断りいたします」
「……どうして?」
どうして?
どうしてって、そんなの、決まってるじゃない。
「私が、貴族を嫌いだからです」
前世の私がどれだけ苦しくても、誰も助けになんて来てくれなかった。助けを呼ぶ声に応えてくれなかった。そんな相手を、誰がどういう理屈で好きになれよう。
「待ってよ、君の出した意見は模範的な貴族の意見だった。君の言動は矛盾していないかい?」
「一つ、勘違いしています」
私が自分勝手に起こした行動で、助かる命があるのかもしれない。
でも、その大部分は私にとってどうでもいい。
「誰かの力になりたいという気持ちは、身分に関係なく持ちうる感情なんですよ」
あなたにはわからないかもしれませんが。
講義は王城内部で行われ、以降私は王城で生活することになる。
与えられた一室は、モノグラム家とは比べ物にならないくらい豪華な部屋だった。
豪華すぎて落ち着かない。
かといって家具を取り除くと広すぎる。
「アイーシャ様、よろしいでしょうか?」
「はい? なんでしょうか?」
どうしたものかと思案していると、扉越しに声を掛けられた。なるほど。使用人という立場があったか。
彼らの宿舎にどうにか私も混ざれないかな。
「ライナグル公爵家ご子息であるボルスト様より、ぜひ面会したいと言伝を預かっております。どうなさいますか?」
「へ?」
少しだけ考えて、すぐに意味を理解した。
(ああ、所得税がもともと彼のアイデアだから)
もしかすると着想自体はすでにあって、盗用したと疑っているのかもしれない。
いや疑うどころか実際盗用したけども。
だけどそれを証明する根拠はこの世界のどこにもない。
だったら、私は堂々としていればいい。
「ぜひ、ボルスト様とお話しさせていただきたいです」
「承知いたしました。では、会議室へご案内いたしますゆえついていらしてくださいませ」
先を行く使用人さんの後をついていくと、少しして広間に出た。その広間には円卓が設置されていて、向かいには一人の青年が座っている。
先ほどであったライナグル公爵を若くしたと言えばいいのだろうか。
一目見て、彼が噂の子息だとわかった。
「はじめまして、ボルスト・ゼラ・ライナグルと申します。お名前をお伺いしても?」
「お初にお目にかかります。アイーシャ・ロウ・モノグラムと申します」
入った瞬間、ボルストは立ち上がり貴族流のあいさつで先制パンチを打ち込んできた。少しばかり面食らいながらも貴族流のあいさつで返す。
言葉を発するタイミングを失った使用人さんは一礼して扉の近くで待機することになった。なんかごめん。
「僕の想像通り聡明そうな人だ! ねえ、所得税って君が考案したんでしょ? どこから着想を得たの? いつから考えていたの? 他にどんな案があるの!?」
……おー。
とりあえず、私の想像とはかけ離れてた。
いやまあその日のうちに会って話がしたいって言いに来る辺り行動力があるタイプだとは思ったけど、ここまで口数が多いとは思わなかった。
さて、どう返そうか。
私が考案した。否。
どこから着想を得たの。未来のあなたから。
いつから考えていたの。前世。
他にどんな案があるの。無いよ。
うん、答えられるものが一つもないや。
「答える義理はございませんね」
前世で、母の客だった名うてのギャンブラーが言っていた。相手に手札を知られるな。底知れない相手だと錯覚させろ。それが交渉の前提条件だ、と。
「それは、僕たちが赤の他人だから?」
「そうですね」
「だったら、縁組すれば話してくれるわけだ」
「そうですね……え?」
今なんて言った?
エングミ、えんぐみ、……縁組?
「僕と婚約してほしい。アイーシャ・ロウ・モノグラム」
……何言ってるのこの人。
天才は奇人が多いっていうあれかな。
「どうかな? 僕は公爵家の長男だし、顔も悪くないと思う。悪くない話だと思うんだけど――」
「お断りいたします」
「……どうして?」
どうして?
どうしてって、そんなの、決まってるじゃない。
「私が、貴族を嫌いだからです」
前世の私がどれだけ苦しくても、誰も助けになんて来てくれなかった。助けを呼ぶ声に応えてくれなかった。そんな相手を、誰がどういう理屈で好きになれよう。
「待ってよ、君の出した意見は模範的な貴族の意見だった。君の言動は矛盾していないかい?」
「一つ、勘違いしています」
私が自分勝手に起こした行動で、助かる命があるのかもしれない。
でも、その大部分は私にとってどうでもいい。
「誰かの力になりたいという気持ちは、身分に関係なく持ちうる感情なんですよ」
あなたにはわからないかもしれませんが。
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