夢の結晶

優歩

文字の大きさ
上 下
25 / 26

夢の結晶 特別編 彼が白衣に着替えたら 後編

しおりを挟む
僕が教授に、就任してから、三ヶ月が過ぎたある日、聖愛医療センターの新センター長の真壁先生から、久しぶりに、連絡があった。先日、東京の青山医科大学病院から、紹介状を持参した、患者さんで、治療をしているのだけれど、あまり経過が良くない、本人が、最近、三島教授の噂を聞き、診察を希望している。引き受けて、頂けないだろうか。という内容だった。僕も、古巣のピンチを、何とか救ってあげたいとの思いで、この話を快諾する事にした。あとは、東京からこの病院までの移動方法か。ぼんやりと、考えていた頭の中に、民間の救急車を使ったらと、急に思いつき、先日もらった名刺の電話番号に電話してみた。運の良い事に、希望した日時を予約できた私は、真壁先生に、折り返しの連絡をして、正式に、大学病院への転院が、決まった。当日の患者さんの移動には、奥田が同乗して、容態を注意深く診てくれる事にも、心強さを、感じていた。早速、僕は、助教授の前田君に、転院希望の患者さんの移動の事を伝え、受け入れの準備をするように、話した。その二週間後、その当日になった。朝から、急患が、立て続けに入り、気がつくと、午後の一時近くになっていた。僕の応接室のテーブルには、井上君が、用意してくれていた、「竹善」の懐石弁当が置かれていた。僕が、美味しい味を堪能している所に、井上君が、温かいお茶を運んできた。そのお茶を、一口啜ると「井上君、この懐石弁当、すごく美味しいね。どこで、こんなに、美味しいお店が、あるの知ったの。」「実は、京都に引っ越しする前に、平井先生に、教えていただきました。三島先生は、そういう事には、無頓着だから、と、言って。他にも、綺麗な芸子さんのいる店や魅力的なホステスさんのいる店など。連れて行って、息抜きさせるようにと、言われております。」「僕は、綺麗な女性の店は、遠慮するよ。でも、この「竹善」の懐石弁当は、気に入ったな。ここは、お店で、懐石料理、食べられるの、昼食、時間が、あったら、お店でも食べたいな。女将さんを紹介してね。」「今度、ランチ、大丈夫か、聞いてみますね」「うん、頼むよ。こんなに、忙しいと、楽しみは、食事だけだもの。」何だか、久しぶりに、きちんとした昼飯を食べた気がする。井上君の、入れてくれた、温かい緑茶も、しばらくゆっくり飲む事もなかったなあと、食後のコーヒーを、飲みながら僕が、ぼんやり考えていた時、携帯電話が鳴った。見ると、非通知の番号だった。 不審に思いながらも、電話に出ると、名古屋警察からだった。今日、東京から患者を乗せて、移動中の民間救急車が、高速道路で、大型トレーラーに、突っ込まれる事故に遭い、救急車が、横倒しの状態になって、一名が、救急車の外に、投げ出され、意識不明の重体になった。という一報だった。僕は、その重体の一名の名前を聞いて、激しく動揺した。より、詳しい状態を聞くと、救急隊員の二名と、搬送中の患者さんは、怪我もなく、無事であり、すぐに、別の民間の救急車で、こちらの病院に、向かって、搬送を続けているという事で、そちらは、安心した。僕が、携帯電話を切ると、平井先生からすぐに、電話が来た。高速道路に、横倒しになった救急車の近くには、ガソリンが、漏れはじめて、投げ出された、奥田先生は、今だに、救出されていない、私の同期生に航空自衛隊の新田という、知人がいる、そいつに頼んで、ヘリコプターから、奥田を救出する事を頼んだ、その後、名古屋大学に、運んで、オペになる、必ず救出できるから、三島、お前に奥田のオペを頼みたいという、緊急の要請だった。僕は、電話を切ると、井上君に、今日の午後の予定を全てキャンセルするように伝え、ロッカーに行きバイクのヘルメットを、抱え、地下駐車場に全力で、走った。ヘルメットを被り、バイクに乗ると、地下駐車場の出口の守衛さんに白衣を放り投げ、「僕の忘れ物、ロッカーに入れておいて」ぽかんとした守衛が、目にした白衣の名札には、「東照大学病院  教授  三島裕次郎」「えっ、すると、い今のバイクの人は。。。きょ。。。教授  え~~~~」薄暗い、地下駐車場の奥の、そのまた奥まで、守衛の絶叫が、木霊した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

愛なんてどこにもないと知っている

紫楼
恋愛
 私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。  相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。  白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。  結局は追い出されて、家に帰された。  両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。  一年もしないうちに再婚を命じられた。  彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。  私は何も期待できないことを知っている。  彼は私を愛さない。 主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。  作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。  誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。 他サイトにも載せています。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

処理中です...