夢の結晶

優歩

文字の大きさ
上 下
24 / 26

夢の結晶 特別編 彼が白衣に着替えたら 前編

しおりを挟む
いつもと、変わらない朝だった、カ-テンを開けて、窓の外を見るまでは。家の周囲の塀全部に、脚立に乗って、カメラを構えている、報道人がいた。僕は、平静を装い、中庭に出て、池の鯉に餌を与えていた。すると、茶トラの猫が、僕の後を付いて歩いてきた。「モモ」名前を呼んでも、じっと池の鯉を見つめて、動こうとしない。仕方なく、僕は猫を抱えて、部屋に入ろうとした、その瞬間、フラッシュと、連写の音がした。僕は、猫を庇うように部屋に入った。その時、リビングから、僕の方に歩いて来る、家政婦の安原由美さんの姿が見えた。「旦那様、朝食の用意ができました。」と、声を掛けてきた。その落ち着いた声に、僕は救われた。「ありがとう」由美さんを、この家に紹介してくれたのは、小山教授で、この家に住む事を、勧めてくれたのも、教授であった。僕は、分不相応の生活に、まだ慣れていなかった。テーブルに着くと、右手に新聞が、置いてあった。その一面は「東照大学病院  新教授に  三島裕次郎氏」という、大きな見出しと、僕の白衣姿の写真が、大きく載せられていた。一ヶ月前の教授選挙の結果と、その後の教授会で僕は正式に教授になって、京都の今の住まいに、引っ越してきた。そして今日から、大学に出勤し、僕の教授としての、新しい医師生活をスタートさせる事となった。大学からの迎えの車に、井上君と二人で、乗り込もうとした時、記者の一人から「お二人で、門の所に並んで頂けますか。」との、リクエストがあり、写真撮影の間、数分、僕達は、フラッシュの光とカメラの連写音に耐え続けた。その後も、大学までの道路の歩道には、報道人やテレビ局のカメラやレポーターが、所々にいた。着なれないスーツ姿の井上君は、僕よりも、緊張しているようで、車内でも、極端に、口数が、少なかった。僕達が大学病院の正面玄関口に着くと、職員や病院スタッフが並び、花束が渡された。その時も記者から、写真撮影の要望があり、僕は今日何度目かのフラッシュとカメラの連写音を、再度経験する事となった。教授室に向かう前に、僕はトイレに行くと言った。少しの時間、一人になって、落ち着きたかった。「いつまでも、こんな日々が、続いたら困るな。早く、患者さんの事だけに、集中したいよ。」ため息と共に、僕は、そんな愚痴を、言ってみた。その後、「ただ今より、三島教授の総回診が、始まります。」という、定番のアナウンスが流れ、僕は助教授の前田俊哉、講師の松島健吾ら、医局員を、従えて、患者さん達の病室を回り、診察を、した。終わると、息つく暇もなく、教授診察室に、移動し、本日の特診患者を診始めた。京都府知事の杉崎氏の紹介名刺とかかりつけ医の浜田医院の紹介状を持参の京都染物社長の川田陽一さん  63歳  毎年、受けている、人間ドックで、脳動脈瘤が、発見されて、経過観察をしていたのだが、この数ヶ月で、大きくなってきているので、専門医に、診察を仰ぎたいとの事だった。紹介状と持参の検査資料に目を、通した僕は、血圧を計りながら「血圧は、かかりつけ医の浜田先生から、出されている、お薬で、落ち着いているようで、問題ないですね。今日は、この後、お時間は、ありますか。いくつか、検査を受けて頂きたいのですが、宜しいですか。」「今日は、そのつもりで、時間を空けて来ております。」「そうですか、では検査室に、ご案内致します。」検査オーダーを書いた用紙を看護師に渡すと「川田さんを、検査室に案内して下さい。」「川田さん、来週の水曜日に検査結果を、ご説明致しますので、来院、できますか」「はい、大丈夫です。よろしくお願い致します。」「お大事に」僕は検査室に向かう患者さんに、声を掛けて、カルテの続きを書いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...