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5 音楽夜会
5-2 音楽家たち
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ピアノの前には歌の練習の時と同じ伴奏者が座っていた。
モーラン先生が出て来て曲目の説明をし、最初の歌い手が前に進み出た。どこかの貴族の令嬢だった。
伴奏と歌とで音楽会は始まった。が、会場となっている大広間への扉は開放されており、人々は自由に出たり入ったりを繰り返していた。会場内もざわざわと落ち着かず、聴衆は音楽を聴くよりも、それを話題におしゃべりに興じることが目的のようだった。
曲が終わると歌手はお辞儀をした。モーラン先生が立ち上がって拍手をすると会場内からまばらな拍手がそれに応えた。
グラモン侯爵も拍手をしながらアナイスに話しかけた。
「歌手の方は、まあまあですね。でもあの伴奏者は思ったより悪くない。音の出し方がいいし、なにより歌の邪魔をしていませんね」
「それは、褒めているのですか?」
アナイスは言ったが、つい先日もエヴァンに同じ質問をした気がした。音楽家とか音楽評論家という人々は、いまいち素直でない言い方をするようだ。
「もちろんですよ。あれはよいピアニストです」
とグラモン侯爵は真面目な顔で答えた。
同じように何人かがピアノの前に出て来て歌い、拍手とおしゃべりが続き、歌手は去って行った。曲を追うごと観客の姿は増えていったが、それ以外はあまり変わった様子もなかった。
グラモン侯爵はたびたびアナイスに話しかけてた。それは必ず曲の合間のことで、少なくとも彼は音楽を真剣に聞いているのだった。
不意に盛大な拍手と悲鳴のような大歓声が起こった。観客席の中から一人の若い男が立ち上がり、ピアノに向かうところだった。歓声に手を挙げて応じる彼は大変な美男子だった。グラモン侯爵も拍手を送りながら興奮した様子でアナイスに言った。
「メルシエですよ……今一番勢いのあるピアニストです。驚いたな、彼が伴奏をするんだ」
歌い手としてはルイーズが前に出た。メルシエがピアノの前に着席すると会場内が静まり返り、聴衆は息をつめてピアノの第一声を待った。
ピアノからは次から次へと音が溢れ出て素晴らしい演奏だった。メルシエがピアノを弾きながら、時々目を閉じて歌うような表情を見せると、聴衆もつられて同じように表情を作った。ルイーズも負けじと声を張り上げて歌っているのが見え、しかしその声はまったく耳に入ってこなかった。
めずらしくグラモン侯爵が曲の途中で言った。
「メルシエは独奏者としては超一流ですが……それに、歌手も一流のピアニストに伴奏をしてもらいたがるものですが、それが必ずしもいい結果はもたらさないものです」
相変わらず遠回しな言い方だった。
歌い終わったルイーズが席に戻った後も、ピアニストのメルシエは手を挙げて歓声に応えていた。特にご婦人方が泣いたり悲鳴を上げたりで、会場内が熱狂し興奮状態に陥っていた。
順番では、ルイーズの次は、ジュリーが歌う番だった。しかしジュリーは胸元をおさえて咳がとまらない様子だった。完全に会場の雰囲気にのまれ、押しつぶされたようになっていた。
心配するアナイスとジュリーの目が一瞬合った。ジュリーは何かを言いたそうにアナイスの方に手を伸ばし、立ち上がりかけたところでその場に崩れ、セドリックがそれを受け止めた。
「ジュリー」
アナイスは席を立つと、伯爵夫人と女公爵の前を横切ってジュリーに駆け寄った。
「ええ、ええ、大丈夫よ……」
セドリックの腕に支えられながらジュリーはか弱い声で言った。
ジュリーのすぐ後ろで、席に戻ったばかりのルイーズが言った。
「女公爵様の前を遮るだなんて、無作法極まりないわ。あなたのお友達は、あきれるくらい素敵な方じゃなくて、ジュリー?」
アナイスか、ジュリーか、あるいは両者への当てつけと思えた。当の女公爵はといえば、隣の伯爵夫人とおしゃべりに夢中で、全く意に介した様子がなかった。
ジュリーを侮辱されたと感じたセドリックが即座にルイーズに向かって言い返した。
「そうなのです、ジュリーの友人でいられるのはとても素敵なことなのです。既にあなたはその光栄に浴していらっしゃるようで、私はあなたのことも羨みます。とるに足らない私も、そうでありたいと望んでいる所なのですが……」
ジュリーが慌てて口をさしはさんだ。
「まあ、セドリック、あなたはご立派な方です、卑下なさるのはおやめになって。それにルイーズも心の広い人なのです。お二人が仲よくしてくださらないのは悲しいことですわ。ねえ、ルイーズ?」
ジュリーに微笑まれて、ルイーズは黙り込んだ。
下手に反論を重ねて、自分を羨むと言ったセドリックの発言や、ジュリーが自分について心の広い人だと言ったことを、否定するわけにはいかなかった。
セドリックはジュリーはお互いに見つめ合って、再び二人は並んで椅子に腰を下ろした。
セドリックとルイーズが反目している間にも、ラグランジュ伯爵夫人は別の懸念事項を処理することで忙しかった。
次の曲目の『夏の日を讃える歌』は宮廷音楽家のドゥラエの曲だった。今日の音楽会にはドゥラエが参席しているのに、彼の曲を歌うはずのジュリーはとても歌えるような状態ではなくなってしまった。ドゥラエの手前、彼の曲を演奏せずには済ませられない。かといって、貴族の令嬢たちはすでに一人一曲ずつを歌った後で、誰かに二曲目を歌わせて、その人物に肩入れしていると思われるのは伯爵夫人の本意ではなかった。
扇を上げてモーラン先生を呼びつけると、モーラン先生は伯爵夫人の意図を察して何かを耳元で注進した。伯爵夫人は大きくうなずいた。
公爵令嬢も会場の興奮状態を収拾しようと動いた。彼女は扇で口元を隠すと隣にいたグラモン侯爵にささやき、グラモン侯爵はうなずいて席を立った。
グラモン侯爵は両手を広げ、いまだ歓声に応えているメルシエに駆け寄った。メルシエも近づいてくる音楽評論家の姿を認めると、彼と短く抱き合い、固く握手を交わした。それはピアノの名伴奏に対する賛辞であると思われた。
メルシエとグラモン侯爵は、二人で大歓声に送られながら、会場を後にした。会場には少しの興奮の余波だけが残った。
場内が落ち着きを取り戻したところでラグランジュ伯爵夫人はアナイスに言った。
「あなた、『夏の日を讃える歌』を、歌って下さるかしら」
断ることは許さないといった強い調子だった。
もともとアナイスは歌を辞退していて、音楽会で歌う予定になかった。令嬢たちの中では彼女だけが一曲も歌っていない状態だった。もしここでアナイスが歌えば、歌えないジュリーを除いて全員が等しく一曲ずつを歌うことになる。
伯爵夫人に依頼された時、アナイスは瞬時に事情を理解してしまった。
ジュリーは相変わらずせき込んでいたが、アナイスの方を見ると、「ごめんなさいね、ありがとう」と言った。
アナイスは気分は進まなかったが受け入れるほかなかった。自分が歌えばすべてが丸く収まるのだ。どうせ観客は聞く気がないのだし、ほんのわずかの間だけ前に出て立っていればいいだけのことだ。
「はい、歌います。私にできることでしたら、喜んで」
アナイスが承諾すると、伯爵夫人は大仰に感謝の気持ちを表した。
歌うとは言ったものの、アナイスは憂鬱な気持ちで顔を上げ、ピアノの方を見た。そしてそこで思いがけないものを見て、口をあんぐりと開けて立ち尽くしてしまった。
同じくそれを見つけて、座っていたセドリックも椅子から滑り落ちそうになった。ジュリーは期待を込めて見つめた。エリザベットは「あら、やっぱり」とつぶやいた。ピアノの前には伴奏をするつもりでエヴァンが座っていた。
エヴァンはアナイスを見ると微笑んだ。
彼は左手をあげてピアノの手前を指し、手のひらはゆっくりと自分の方に向けた。彼の仕草は、そこに立って、こちらを向いて、と言っていた。
アナイスはピアノの前まで来るとエヴァンを見た。これでいいのかしら?
その位置に立つと、ちょうど歌手と伴奏者の二人がお互いの顔を見ることができた。エヴァンはうなずいた。それから彼の唇が動いて、無言のまま何か言うのがアナイスには分かった。
『心配ない、歌って』
エヴァンが一瞬アナイスから目を離すと、分散和音から前奏が始まった。
モーラン先生が出て来て曲目の説明をし、最初の歌い手が前に進み出た。どこかの貴族の令嬢だった。
伴奏と歌とで音楽会は始まった。が、会場となっている大広間への扉は開放されており、人々は自由に出たり入ったりを繰り返していた。会場内もざわざわと落ち着かず、聴衆は音楽を聴くよりも、それを話題におしゃべりに興じることが目的のようだった。
曲が終わると歌手はお辞儀をした。モーラン先生が立ち上がって拍手をすると会場内からまばらな拍手がそれに応えた。
グラモン侯爵も拍手をしながらアナイスに話しかけた。
「歌手の方は、まあまあですね。でもあの伴奏者は思ったより悪くない。音の出し方がいいし、なにより歌の邪魔をしていませんね」
「それは、褒めているのですか?」
アナイスは言ったが、つい先日もエヴァンに同じ質問をした気がした。音楽家とか音楽評論家という人々は、いまいち素直でない言い方をするようだ。
「もちろんですよ。あれはよいピアニストです」
とグラモン侯爵は真面目な顔で答えた。
同じように何人かがピアノの前に出て来て歌い、拍手とおしゃべりが続き、歌手は去って行った。曲を追うごと観客の姿は増えていったが、それ以外はあまり変わった様子もなかった。
グラモン侯爵はたびたびアナイスに話しかけてた。それは必ず曲の合間のことで、少なくとも彼は音楽を真剣に聞いているのだった。
不意に盛大な拍手と悲鳴のような大歓声が起こった。観客席の中から一人の若い男が立ち上がり、ピアノに向かうところだった。歓声に手を挙げて応じる彼は大変な美男子だった。グラモン侯爵も拍手を送りながら興奮した様子でアナイスに言った。
「メルシエですよ……今一番勢いのあるピアニストです。驚いたな、彼が伴奏をするんだ」
歌い手としてはルイーズが前に出た。メルシエがピアノの前に着席すると会場内が静まり返り、聴衆は息をつめてピアノの第一声を待った。
ピアノからは次から次へと音が溢れ出て素晴らしい演奏だった。メルシエがピアノを弾きながら、時々目を閉じて歌うような表情を見せると、聴衆もつられて同じように表情を作った。ルイーズも負けじと声を張り上げて歌っているのが見え、しかしその声はまったく耳に入ってこなかった。
めずらしくグラモン侯爵が曲の途中で言った。
「メルシエは独奏者としては超一流ですが……それに、歌手も一流のピアニストに伴奏をしてもらいたがるものですが、それが必ずしもいい結果はもたらさないものです」
相変わらず遠回しな言い方だった。
歌い終わったルイーズが席に戻った後も、ピアニストのメルシエは手を挙げて歓声に応えていた。特にご婦人方が泣いたり悲鳴を上げたりで、会場内が熱狂し興奮状態に陥っていた。
順番では、ルイーズの次は、ジュリーが歌う番だった。しかしジュリーは胸元をおさえて咳がとまらない様子だった。完全に会場の雰囲気にのまれ、押しつぶされたようになっていた。
心配するアナイスとジュリーの目が一瞬合った。ジュリーは何かを言いたそうにアナイスの方に手を伸ばし、立ち上がりかけたところでその場に崩れ、セドリックがそれを受け止めた。
「ジュリー」
アナイスは席を立つと、伯爵夫人と女公爵の前を横切ってジュリーに駆け寄った。
「ええ、ええ、大丈夫よ……」
セドリックの腕に支えられながらジュリーはか弱い声で言った。
ジュリーのすぐ後ろで、席に戻ったばかりのルイーズが言った。
「女公爵様の前を遮るだなんて、無作法極まりないわ。あなたのお友達は、あきれるくらい素敵な方じゃなくて、ジュリー?」
アナイスか、ジュリーか、あるいは両者への当てつけと思えた。当の女公爵はといえば、隣の伯爵夫人とおしゃべりに夢中で、全く意に介した様子がなかった。
ジュリーを侮辱されたと感じたセドリックが即座にルイーズに向かって言い返した。
「そうなのです、ジュリーの友人でいられるのはとても素敵なことなのです。既にあなたはその光栄に浴していらっしゃるようで、私はあなたのことも羨みます。とるに足らない私も、そうでありたいと望んでいる所なのですが……」
ジュリーが慌てて口をさしはさんだ。
「まあ、セドリック、あなたはご立派な方です、卑下なさるのはおやめになって。それにルイーズも心の広い人なのです。お二人が仲よくしてくださらないのは悲しいことですわ。ねえ、ルイーズ?」
ジュリーに微笑まれて、ルイーズは黙り込んだ。
下手に反論を重ねて、自分を羨むと言ったセドリックの発言や、ジュリーが自分について心の広い人だと言ったことを、否定するわけにはいかなかった。
セドリックはジュリーはお互いに見つめ合って、再び二人は並んで椅子に腰を下ろした。
セドリックとルイーズが反目している間にも、ラグランジュ伯爵夫人は別の懸念事項を処理することで忙しかった。
次の曲目の『夏の日を讃える歌』は宮廷音楽家のドゥラエの曲だった。今日の音楽会にはドゥラエが参席しているのに、彼の曲を歌うはずのジュリーはとても歌えるような状態ではなくなってしまった。ドゥラエの手前、彼の曲を演奏せずには済ませられない。かといって、貴族の令嬢たちはすでに一人一曲ずつを歌った後で、誰かに二曲目を歌わせて、その人物に肩入れしていると思われるのは伯爵夫人の本意ではなかった。
扇を上げてモーラン先生を呼びつけると、モーラン先生は伯爵夫人の意図を察して何かを耳元で注進した。伯爵夫人は大きくうなずいた。
公爵令嬢も会場の興奮状態を収拾しようと動いた。彼女は扇で口元を隠すと隣にいたグラモン侯爵にささやき、グラモン侯爵はうなずいて席を立った。
グラモン侯爵は両手を広げ、いまだ歓声に応えているメルシエに駆け寄った。メルシエも近づいてくる音楽評論家の姿を認めると、彼と短く抱き合い、固く握手を交わした。それはピアノの名伴奏に対する賛辞であると思われた。
メルシエとグラモン侯爵は、二人で大歓声に送られながら、会場を後にした。会場には少しの興奮の余波だけが残った。
場内が落ち着きを取り戻したところでラグランジュ伯爵夫人はアナイスに言った。
「あなた、『夏の日を讃える歌』を、歌って下さるかしら」
断ることは許さないといった強い調子だった。
もともとアナイスは歌を辞退していて、音楽会で歌う予定になかった。令嬢たちの中では彼女だけが一曲も歌っていない状態だった。もしここでアナイスが歌えば、歌えないジュリーを除いて全員が等しく一曲ずつを歌うことになる。
伯爵夫人に依頼された時、アナイスは瞬時に事情を理解してしまった。
ジュリーは相変わらずせき込んでいたが、アナイスの方を見ると、「ごめんなさいね、ありがとう」と言った。
アナイスは気分は進まなかったが受け入れるほかなかった。自分が歌えばすべてが丸く収まるのだ。どうせ観客は聞く気がないのだし、ほんのわずかの間だけ前に出て立っていればいいだけのことだ。
「はい、歌います。私にできることでしたら、喜んで」
アナイスが承諾すると、伯爵夫人は大仰に感謝の気持ちを表した。
歌うとは言ったものの、アナイスは憂鬱な気持ちで顔を上げ、ピアノの方を見た。そしてそこで思いがけないものを見て、口をあんぐりと開けて立ち尽くしてしまった。
同じくそれを見つけて、座っていたセドリックも椅子から滑り落ちそうになった。ジュリーは期待を込めて見つめた。エリザベットは「あら、やっぱり」とつぶやいた。ピアノの前には伴奏をするつもりでエヴァンが座っていた。
エヴァンはアナイスを見ると微笑んだ。
彼は左手をあげてピアノの手前を指し、手のひらはゆっくりと自分の方に向けた。彼の仕草は、そこに立って、こちらを向いて、と言っていた。
アナイスはピアノの前まで来るとエヴァンを見た。これでいいのかしら?
その位置に立つと、ちょうど歌手と伴奏者の二人がお互いの顔を見ることができた。エヴァンはうなずいた。それから彼の唇が動いて、無言のまま何か言うのがアナイスには分かった。
『心配ない、歌って』
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