上 下
1 / 29
第一章 出会い

1-1 目覚め

しおりを挟む
「ねえねえ、あなたはなぜ、男の子の格好をしていたの?」
 そう呼びかけられて董星とうせいは目を開けた。
 天幕のついた寝台。傍らには小さな女の子。
 びっくりして飛び起きようとしたが、上半身を起こしたところまでしか身体が動かなかった。頭がくらくらとして目まいがする。
「昨日からずっと寝てたの。急に起きちゃだめよ。もう少し休んでないと」
 女の子が近づいて来て董星の頭をなでた。
 董星はぎゅっと目を閉じて、今度はおそるおそる目を開ける。夢ではない。
「えっと、俺……?」
 言いかけて董星は口をつぐんだ。自分の服の、ひらひらとした袖が目に入ったからだ。

 頭を下げて胸元の合わせを確認すると、やはり女物の服だった。
 自分の服はどこへ行ってしまったのか。男の自分がなぜ女の格好をしているのか。
 そして、ここはどこだ……?

 助けを求めるように女の子の方を見ると、女の子はにっこりと笑って言った。
「あなたの目が覚めたって、知らせてくるね」


 すぐに女の子は戻って来た。別の若い女と一緒だった。
 女の子は連れて来た女の後ろに隠れて、ちょこちょこと顔を出しながら董星の様子をうかがった。
 やって来た女は董星よりも少し年上くらいか。彼女を見たとき、天女のように美しい人だと、董星は思った。
 
 天女の瞳がぎらりと光った。彼女は美しい声で、しかし厳しく董星を追及した。
「自分の名前はわかりますか?」
「と、董星……」
「私は央華おうかよ」
 横から女の子が口を出し、言い終わるとまた女の後ろに隠れた。
「年は?」
「十二歳です」
 董星が答えると、また女の子が顔を出して言った。
「私は十歳。年の近いお姉さんが来てくれて、うれしいの」
「お姉さん……」
 董星は口の中で女の子が言った言葉を繰り返した。

 反応を迷って董星が天女の顔を見たとき、天女は董星の疑問を断ち切るように宣言した。
「董星、あなたが女の子でよかった。この神殿は男子を受け入れないのです。もしあなたが男ならば『物忘れのお茶』を飲ませて即刻追放するところでした」
「……」
「でも安心なさい、あなたは好きなだけここにいて、帰りたいときにはいつでも帰ることができます」
 天女の言葉に、央華はうれしそうに両手を合わせた。
 董星は思わず天を見上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

処理中です...