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今際の光景(1)
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シルヴァリエたちが予定通りにパラクダンダ砦に到着すると、ヴォルガネットの一行は予定より半日早く、すでに城内入りしているとのことだった。
パラクダンダ砦は、かつてはこの地方を収める領主の城であったのを、数代前のラトゥールの国王が領土ごと奪取して国境線の監視用に改築したものである。その由来からして砦とは言っても居住区や設備は充実しており、今回は砦内の教会で簡単な婚姻式までを済ませることになっていた。婚姻式を行いルイーズの国籍を正式にラトゥールに移した上で王都へ連れて行き、そこで盛大な披露宴を開催して、ヴォルネシアとラトゥールの結びつきを大々的に国内外へ知らせる、という手筈だ。
ふたりの婚姻式に立ち会う大司祭は別経路からすでに砦入りしている。最後の到着となった主役のシルヴァリエは、その晩行われる婚姻式のために、到着早々休む間もなく着替えを済ませた。
同行した騎士団の主だった騎士たちも、婚姻式の席を華やかに埋めるため儀礼用の鎧または礼服に着替えている。案の定、前日の晩に離脱した騎士の分人数が足りなくなったため、急遽式の警備の半数近くを砦の警備隊のメンバーで補充することになり、カルナスとモーランはその選定やら配置換えの確認やらに追われて、砦の中のあちこちを駆けずり回っている。
「カルナス団長」
立ち会いの大司祭が説明する式の手順についての説明を退屈そうに聞いていたシルヴァリエが、カルナスの姿を見かけて手をあげた。
「なんだ!」
カルナスが苛立ちを隠そうともしないぶっきらぼうな声で応える。カルナスの後ろに必死に追い縋っていたモーランが、ひきつった表情でカルナスとシルヴァリエを見比べる。
「似合います?」
シルヴァリエは椅子から立ち上がると、後ろに伸びた長い裾を宙に舞わせ、純白に金の刺繍が入ったその服を見せつけるように、ひらりとその場で一回転した。シルヴァリエ様、まだ話は終わっておりませんぞ、と司祭が眉根を寄せて抗議する。カルナスはその司祭に一瞬気の毒そうな視線を送った後、シルヴァリエを見て、
「ああ」
と答え
「……似合ってる」
と、眩しそうな表情で続けた。
* * *
「まあまあまあまあっ! シルヴァリエ様、お久しぶりでございますぅぅぅっ! 相変わらず惚れ惚れするような男ぶりでございますわねぇ~っ!」
初めて見たころよりさらに一回り大きくなったのではと思われる巨躯を揺らし、ルイーズの付き人であるイボンヌがシルヴァリエに向かって黄色い声をあげた。
「この度はルイーズ様とのご結婚おめでとうございまぁすっ! ヴォルガネットの臣民として、そして幼い頃よりルイーズ様を見守ってきた乳母として、これほど嬉しいことはありませんですわぁ!」
「それはそれは……」
シルヴァリエはイボンヌの派手な歓待ぶりに苦笑し、その奥に目をやった。
細長い作りの儀式の間の、左と右の入り口から入ってきた、ラトゥールとヴォルガネットの花婿と花嫁。そしてそれを護衛する騎士と兵士たち。その間に、儀式台を前に立つ大司祭。ラトゥールとヴォルガネットの互いの間は十数歩の距離。絶対安全とは言い難いものの、裏切った側の剣の切先が届く前に裏切られた側が鞘を落とすためには十分な距離である。
イボンヌの向こうの少し薄暗いところで、鎧の集団に守られるように取り囲まれて、ヴェールで顔を隠し純白のドレスを身に纏っているのがルイーズだろう。
「……少々数が多いようですが、イボンヌ殿?」
礼服を着たカルナスが、シルヴァリエを庇うような姿勢でずいと前に出た。
パラクダンダ砦は、かつてはこの地方を収める領主の城であったのを、数代前のラトゥールの国王が領土ごと奪取して国境線の監視用に改築したものである。その由来からして砦とは言っても居住区や設備は充実しており、今回は砦内の教会で簡単な婚姻式までを済ませることになっていた。婚姻式を行いルイーズの国籍を正式にラトゥールに移した上で王都へ連れて行き、そこで盛大な披露宴を開催して、ヴォルネシアとラトゥールの結びつきを大々的に国内外へ知らせる、という手筈だ。
ふたりの婚姻式に立ち会う大司祭は別経路からすでに砦入りしている。最後の到着となった主役のシルヴァリエは、その晩行われる婚姻式のために、到着早々休む間もなく着替えを済ませた。
同行した騎士団の主だった騎士たちも、婚姻式の席を華やかに埋めるため儀礼用の鎧または礼服に着替えている。案の定、前日の晩に離脱した騎士の分人数が足りなくなったため、急遽式の警備の半数近くを砦の警備隊のメンバーで補充することになり、カルナスとモーランはその選定やら配置換えの確認やらに追われて、砦の中のあちこちを駆けずり回っている。
「カルナス団長」
立ち会いの大司祭が説明する式の手順についての説明を退屈そうに聞いていたシルヴァリエが、カルナスの姿を見かけて手をあげた。
「なんだ!」
カルナスが苛立ちを隠そうともしないぶっきらぼうな声で応える。カルナスの後ろに必死に追い縋っていたモーランが、ひきつった表情でカルナスとシルヴァリエを見比べる。
「似合います?」
シルヴァリエは椅子から立ち上がると、後ろに伸びた長い裾を宙に舞わせ、純白に金の刺繍が入ったその服を見せつけるように、ひらりとその場で一回転した。シルヴァリエ様、まだ話は終わっておりませんぞ、と司祭が眉根を寄せて抗議する。カルナスはその司祭に一瞬気の毒そうな視線を送った後、シルヴァリエを見て、
「ああ」
と答え
「……似合ってる」
と、眩しそうな表情で続けた。
* * *
「まあまあまあまあっ! シルヴァリエ様、お久しぶりでございますぅぅぅっ! 相変わらず惚れ惚れするような男ぶりでございますわねぇ~っ!」
初めて見たころよりさらに一回り大きくなったのではと思われる巨躯を揺らし、ルイーズの付き人であるイボンヌがシルヴァリエに向かって黄色い声をあげた。
「この度はルイーズ様とのご結婚おめでとうございまぁすっ! ヴォルガネットの臣民として、そして幼い頃よりルイーズ様を見守ってきた乳母として、これほど嬉しいことはありませんですわぁ!」
「それはそれは……」
シルヴァリエはイボンヌの派手な歓待ぶりに苦笑し、その奥に目をやった。
細長い作りの儀式の間の、左と右の入り口から入ってきた、ラトゥールとヴォルガネットの花婿と花嫁。そしてそれを護衛する騎士と兵士たち。その間に、儀式台を前に立つ大司祭。ラトゥールとヴォルガネットの互いの間は十数歩の距離。絶対安全とは言い難いものの、裏切った側の剣の切先が届く前に裏切られた側が鞘を落とすためには十分な距離である。
イボンヌの向こうの少し薄暗いところで、鎧の集団に守られるように取り囲まれて、ヴェールで顔を隠し純白のドレスを身に纏っているのがルイーズだろう。
「……少々数が多いようですが、イボンヌ殿?」
礼服を着たカルナスが、シルヴァリエを庇うような姿勢でずいと前に出た。
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