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初秋の再会(8)

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「……今ではないだろう。今はそれどころじゃない」

 カルナスがシルヴァリエから目を逸らして言った。

「そう、かもしれませんが」
「今はとにかく、無事に帰ることを考えるんだ」
「そ、そうですね……少し寒いですし」
「そうだな……」
「…………」
「…………」

 小屋のなかに沈黙が落ちる。

 吹きっさらしの風とビショ濡れの衣服からは逃れられたものの、小屋の中の空気は冷え切っていて寒い。体も冷えたままだ。

 こういうときにどうするべきか。

 ふたりの頭にはすでに同じ答えが浮かんでいる。

 シルヴァリエがゆっくりカルナスのほうへ歩き出すと、カルナスは少し緊張した様子を見せる。しかしシルヴァリエが自分の目の前に来るまで、そこから一歩も動かなかった。シルヴァリエがカルナスを抱き寄せると、カルナスはシルヴァリエの胸元に顔を寄せ、やがておずおずとその腕を腕をシルヴァリエの背中に回した。シルヴァリエはカルナスを抱く腕に力を込め、その首筋に顔を埋める。

「……暖かいですね」
「そうだな……」

 どれくらいそうしていたのかわからない。小屋の中はわずかな衣擦れの音すらも板目の隙間から外に漏れ出すのではないかと思いたくなるほど静かで、互いの呼吸音どころか心臓の拍動まではっきりと聞こえた。はじめはばらばらに脈打っていたそれは小屋の外で鳴く夜鷹の声に共鳴するかのように徐々に同じリズムを刻み、やがてどちらの音がどちらのものなのかわからなくなる頃にはふたりの唇は重なりあっていた。

 互いの存在を確認するような性急だが静かな行為の後、シルヴァリエはカルナスに覆いかぶさったまま、川の水と汗とで濡れたカルナスの前髪をかきあげ、その額を唇で撫でるかのように何度もキスをした。

「淫紋、大丈夫ですか?」
「おそらくは」
「すみません、こんなときに」
「お前が謝ることじゃない」

 カルナスが下から手を伸ばし、シルヴァリエの顔にかかる髪を払った。シルヴァリエはその手をとって、指の先や、手のひらや、その付け根に、飽きることなくキスを繰り返す。

「……シルヴァリエ」

 カルナスがもう片方伸ばしてきたその腕を辿るようにして、シルヴァリエは再びカルナスの唇に口付けし首筋に顔をうずめ、その横顔を眺めた。

 カルナスは天井をじっと見つめたまま、なにかを悩んでいるようにも見えたし、ただ余韻に浸っているようにも見えた。

「……なんだか、ずっと前からこうしていたような気がします」
「そうだな」
「カルナス団長と、ここで、こうしているのがはじめてではないような……」
「そうだな……」
「カルナス団長、僕は――」
「――お前は本当になにも覚えていないんだな、シルヴァリエ」
「え?」
「狩猟の神の愛し子、大アンドリアーノの一粒種、陽に映える黄金の髪を持つ、将来を約束された子供、ルー。私があの頃お前をどういう風に思っていたのかも……あの夜のことも」
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