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逢瀬の約束(2)
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そんなシルヴァリエの内面も知らず、モーラスはさらに質問を重ねてきた。
「そういえば延期になっていた奇数隊分の野外騎馬訓練、明日ということに決まりましたね。シルヴァリエさまもご参加を?」
「……野外騎馬訓練?」
シルヴァリエはその存在自体知らなかった。わずかな屈辱を感じるいっぽうで、今日カルナスが第一小隊の隊長と訓練そっちのけで話し込み、訓練後はふたり連れ立って厩舎のほうへ消えて行った理由は、なるほどそれか、と、さきほどからシルヴァリエの心をざわめかせていたものが静まるのを感じていた。
シルヴァリエは名目上この騎士団の副団長という立場だが、本当に名目だけで、騎士団のことはほとんどなにもわかっていない。そもそも”副団長”という役職自体が通常は存在しない臨時用の名誉職だと聞いている。シルヴァリエのように、騎士団でそれなりの立場を与えてくれとゴリ押しされた誰かを受け入れるときのための。実質的な副団長にあたるのは、伝統的に第一小隊・第二小隊の隊長だそうだ。
第一小隊の隊長がノルダ・ロウ・レインズバーグ、第二小隊の隊長はグランビーズ・アウレラ。模擬槍や模擬刀、あるいは素手での乱取り稽古において、カルナスは申し込まれれば誰の相手も拒まないが、カルナスのほうから申し込むのはこの二人だけ。そして実際のところまともに相手を勤められるのもこの二人だけだった。
ノルダ・ロウは一見無表情で無愛想だが意外に親切なところがあり、グランビーズは愛想が良い代わり少し無責任なきらいがある。だがどちらも隊長としての、さらには実質的な副団長としての実力人格、そして人望すべてが十分。ふたりはシルヴァリエに対してもカルナスのように露骨に無視はせず、シルヴァリエが訓練場に姿を見せればいの一番に飛んで来て世話をやいてくれる。もちろん、シルヴァリエに対するその親切さは騎士団の正団員たちに対するものとはまるで異なる、いわば”お客様”としての扱いではあるが、このふたりの指導がなければ、シルヴァリエの槍の腕前は悲惨なままだっただろう。
カルナスが団長に就任する前は第一小隊の隊長を勤めていたそうで、ノルダ・ロウはその頃は副隊長だったらしい。つまりはカルナスが騎士団長に就任する前からのつきあいで――カルナスは、グランビーズよりもノルダ・ロウと話しているときのほうが、心なしかリラックスしているように、シルヴァリエには見えていた。
そんなふたりがひそひそと話し込み、さらには連れ立って厩舎へと――人気のないほうへと消えて行ったものだから、シルヴァリエの心はずっと穏やかではなかった。
その野外騎馬訓練についてずっと話し込んでいたのだろう、と、自分を納得させるだけの理由ができた今になっても、いや、でも、もしかしたら、それにかこつけて、と、二人の仲を疑う自分の声が耳元で囁いているようだ。
だから、思春期でもあるまいし、と、シルヴァリエはふたたび大きく頭を振った。
「ったくもう……」
「……ですから、ぜひとも…………え?」
急なシルヴァリエのひとりごとに、モーランが驚いた。シルヴァリエは軽く手を振って否定する。
「なんでもない。で、なんだっけ?」
シルヴァリエが自分の話をこれっぽっちも聞いていなかったことを察したモーランは、少し鼻白んだ表情になった。しかしそんな自分を見つめるシルヴァリエの視線に気づくと、とりつくろうように笑って、改めて話しはじめた。
「シルヴァリエ様は以前狩猟祭で王からお褒めに預かったほどの腕前とお聞きしておりまして」
「ああ」
シルヴァリエは苦笑した。
「そういえば延期になっていた奇数隊分の野外騎馬訓練、明日ということに決まりましたね。シルヴァリエさまもご参加を?」
「……野外騎馬訓練?」
シルヴァリエはその存在自体知らなかった。わずかな屈辱を感じるいっぽうで、今日カルナスが第一小隊の隊長と訓練そっちのけで話し込み、訓練後はふたり連れ立って厩舎のほうへ消えて行った理由は、なるほどそれか、と、さきほどからシルヴァリエの心をざわめかせていたものが静まるのを感じていた。
シルヴァリエは名目上この騎士団の副団長という立場だが、本当に名目だけで、騎士団のことはほとんどなにもわかっていない。そもそも”副団長”という役職自体が通常は存在しない臨時用の名誉職だと聞いている。シルヴァリエのように、騎士団でそれなりの立場を与えてくれとゴリ押しされた誰かを受け入れるときのための。実質的な副団長にあたるのは、伝統的に第一小隊・第二小隊の隊長だそうだ。
第一小隊の隊長がノルダ・ロウ・レインズバーグ、第二小隊の隊長はグランビーズ・アウレラ。模擬槍や模擬刀、あるいは素手での乱取り稽古において、カルナスは申し込まれれば誰の相手も拒まないが、カルナスのほうから申し込むのはこの二人だけ。そして実際のところまともに相手を勤められるのもこの二人だけだった。
ノルダ・ロウは一見無表情で無愛想だが意外に親切なところがあり、グランビーズは愛想が良い代わり少し無責任なきらいがある。だがどちらも隊長としての、さらには実質的な副団長としての実力人格、そして人望すべてが十分。ふたりはシルヴァリエに対してもカルナスのように露骨に無視はせず、シルヴァリエが訓練場に姿を見せればいの一番に飛んで来て世話をやいてくれる。もちろん、シルヴァリエに対するその親切さは騎士団の正団員たちに対するものとはまるで異なる、いわば”お客様”としての扱いではあるが、このふたりの指導がなければ、シルヴァリエの槍の腕前は悲惨なままだっただろう。
カルナスが団長に就任する前は第一小隊の隊長を勤めていたそうで、ノルダ・ロウはその頃は副隊長だったらしい。つまりはカルナスが騎士団長に就任する前からのつきあいで――カルナスは、グランビーズよりもノルダ・ロウと話しているときのほうが、心なしかリラックスしているように、シルヴァリエには見えていた。
そんなふたりがひそひそと話し込み、さらには連れ立って厩舎へと――人気のないほうへと消えて行ったものだから、シルヴァリエの心はずっと穏やかではなかった。
その野外騎馬訓練についてずっと話し込んでいたのだろう、と、自分を納得させるだけの理由ができた今になっても、いや、でも、もしかしたら、それにかこつけて、と、二人の仲を疑う自分の声が耳元で囁いているようだ。
だから、思春期でもあるまいし、と、シルヴァリエはふたたび大きく頭を振った。
「ったくもう……」
「……ですから、ぜひとも…………え?」
急なシルヴァリエのひとりごとに、モーランが驚いた。シルヴァリエは軽く手を振って否定する。
「なんでもない。で、なんだっけ?」
シルヴァリエが自分の話をこれっぽっちも聞いていなかったことを察したモーランは、少し鼻白んだ表情になった。しかしそんな自分を見つめるシルヴァリエの視線に気づくと、とりつくろうように笑って、改めて話しはじめた。
「シルヴァリエ様は以前狩猟祭で王からお褒めに預かったほどの腕前とお聞きしておりまして」
「ああ」
シルヴァリエは苦笑した。
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