真実は手紙と共に

小鳥遊怜那

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サトウキビ編

甘味革命

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 夕暮れ。家主が帰ってきた。
「ナージャ。客か?」
「サトウキビちゃんにね。貴方にもお話があるみたいよ」
 ナザトは自分から挨拶する。
「ナザトです。サトウキビさんとは昨日知り合いました。それでも私は彼女の役に立ちたいと思っています。その為に保護者の方々の協力を仰ぎたくお邪魔しております」
「丁寧だな。俺はカイ。大工だ。それで話ってのは何だ?」
「現在カイさんに建築を依頼した方と、会わせていただけませんか」
「そいつぁ無理な相談だなー」
「不利益を与えることはいたしません。約束します」
「俺は何も、お前さんを疑ってるわけじゃねぇ」
「では何が――」
「そもそも俺達が依頼主と会うのは、仕事の開始と終了、納期に間に合わない時。この3回なんだよ。後は依頼主の気まぐれで観察しに来る時だけ。貴族に会えるといっても、多くはないんだよ」
「あとどれくらいで完了しますか?」
「2ヶ月くらいだな」
「2ヶ月……」
 ――それでは間に合わない。祭りより早く、貴族御用達の状態に持っていきたい。ならばやるべき事は1つ。
「私に手伝わせてください」
「仕事嘗めんな」
「実力を示せば手伝わせてくれますか?」
「やってみろ」

 浜辺に行って、力を証明することにした。
 ――実際、建築の経験はない。でも本で読んだ。小さい物ならすぐに作れる。
「複合魔法・建築」
 煉瓦、接着剤、鉄、硝子を作り、小さな家を建てた。
「見てくれは上出来だ。だが問題は安全性だ。特にこの島は台風が多い。雨風に弱ければ売り物にならない」
 そう言ってカイは水魔法と風魔法を使ってみせる。女子2人は固唾を飲んで見守る。
 徐々に強める。そして1度止める。
「どうだった?」
 サトウキビが問う。
「まだテストは終わってねぇ。時間、向き、強弱の波を変えて複数回試さなければ、真の強度は分からねぇ」
「そっか」
「続きは飯の後だ。帰るぞ」

 その日のナザトはカイの家で評判にあずかった。
 夕食後。
「では試験の続きをお願いします」
「そう急くな。吸わせろ」
 男はパイプをふかす。
「やはり仕事の前はこれに限る。体が軽いかりぃわ」
 その後⒉時間に渡りテストを行った。
「うん。まぁこれなら十分だろう。お前、名前何といった」
「ナザトです」
「ナザト。明日から4時に起きろ。遅刻したらその時点で、貴族に会わせる話はナシだ」
「はい!」

 翌日からナザトは建築を手伝うことになった。その災害球の魔力量と、一級の現場の指揮により、完成を1月半も早めた。
 約束の時、貴族との対面が叶う日がきた。
「納期より大分早く終わりましたね。早いのはいいですけど、正しく完成出来ているのですよね?」
「問題ありません。我々は誇りと責任感を持って仕事をしています。今回早くできたのは、この者の協力があったからです」
 カイはナザトを前に引き寄せる。
「その功労者が、貴方に話をしたいそうなのですが、お時間を貰ってもよろしいでしょうか?」
「かまいませんよ」
「私たちが作ったお菓子を召し上がっていただけませんか」
「お菓子?」
「ベイクドチーズケーキです」
「ふむ。初めて見る食べ物ですね」
「甘味の一種です」
「ほう」
 貴族がケーキを食べる。
「おお。美味である。しっとりなめらかな食感に、濃いチーズの味。さわやかな甘みが実に美味しい」
「私は甘味をこの島に根付かせたいのです。そのために今度の祭りでこれを売るつもりです。そこでマウセ様には、チーズケーキを貴族の間で広めていただきたいのです」
「なるほどね。権威を借りたいと」
「そうです」
「でも駄目」
「なぜですか?」
「貴族の特権はいずれ庶民に行き渡るのが世の常です。でも今回はそれまでの期間が短すぎます。すぐに廃れる特権を広めたとあっては、私の見る目が無かったと馬鹿にされてしまう」
 ――なるほど。その考えはなかった。貴族のメンツへの意識の理解が足りなかった。
「ではこういうのはどうでしょう」
 サトウキビが口を開く。
「甘味の材料である砂糖。その元であるサトウキビを作る畑を用意します」
「それはいいですね。原材料があれば、チーズケーキが廃れてもすぐに新しい物を作れる。これはビジネスチャンスだ。いいでしょう。貴族間に、この甘味を広めましょう」
 交渉成立。ひとまず第一目標は達成した。

 そして祭当日。店は盛況した。貴族の間で広まっている食べものを、お手頃価格で買える。その宣伝文句が功を奏し、初日は3時間で売り切れた。
「サトウキビさん。売れましたね」
「はい。こんなに早く売れきれるとは思いませんでした」
「この調子なら明日もすぐ売り切れるでしょう。これなら貴女の願い、「自信を持つ」も達成できそうですね」
「……ええ。……そうですね」
「すぐには難しいかもしれませんが、そのうち認められるようになりますよ」
「はい」
 ――違うんだよ。ナザトさん。確かに自信を持てたら嬉しいけど、私の願いはそれじゃない。沢山の人に求められることなんだよ。畑を用意したのもそのため。ナザトさんには悪いけど、私はまだ植物に戻るわけにはいかない。
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