月が沈むまでは

前田 芍葉

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4話 あかるい花園

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 爽やかな秋風が吹く頃。

 夕日に染まるビル群とベランダのナデシコとススキが銀色の穂を揺らし、秋の雅な演出を醸し出してる姿を窓ぎわのソファーに座り、ウィローパターンのティーセットで紅茶を飲みながら黄昏てる頃だった。

 突然ゲイ友達の航平さんから、「久しぶりに二丁目で飲まない?」とLINEがきた。

 俺も暇だったから、即返信をし、「オッケー」と返した。

 航平さんとは二丁目のいつものようにバーで顔を合わせてるうちに、いつのまにか飲み友達みたいな関係になっていた。

 航平さんは渋谷でアパレルの会社を営んでいる。

 それにシャツを着ていても分かるくらい、中々の肉体美に、綺麗な髭を生やし、竹野内 豊に似た色男だ。

 約束通り、18時半に航平さんに待ち合わせ場所に指定された、新宿二丁目のシャインマート前に着いた。

 航平さんはセブンスターを吸いながなら、無地の白Tシャツにビンテージ者のジーンズを履いただけのシンプルな格好で、こちらに手を振った。

 「今日はどこで飲もうか?」と航平さんが聞いた。

 「俺はあまり詳しくないから航平さんの知ってる所でいいよ」

 そう言うと、航平さんは「おう」と言い、仲通りをみるみると進んだ。

 路地裏の雑居ビルにつき、航平さんに着いてくままエレベーターに乗り、開いてすぐに店の扉らしきものが見えた。

 銀色の扉に看板がぶら下がっている。

 「タロット」と書かれていた。

航平さんは慣れたように、扉を開けた。

 店内は薄暗い青いネオンの光がついていて、お店のママみたいな人がカウンターにポツンと立ってるだけだ。

 平日のせいなのか、客も常連らしき人が一人カウンターに座ってだけだった。

 ママらしき人がか「あらぁ…こんな若い子連れちゃって…航平さんもいやらしいわぁ~」と航平さんにニヤニヤしながら言った。

「そんなんじゃないよ、飲み友達だよ」と航平さんが言う。

「あらぁ‥本当かしらぁ」といやらしそうに言うからこちらも。

「ただの友達です」って言い、とりあえずカウンター席につき、ママさんが自己紹介してきた。

「ここのママのジュンです!よろしくね!」と言いこちらも。

「一樹です」と軽く自己紹介した。

ジュンさんは手慣れた感じのようにボトル棚から焼酎を取り出し、おしぼりと灰皿と、グラスと割り物を出した。

 ジュンさんは、セットのスナック菓子を出し、「今日のお通しでーす」と茄子の煮浸しが出てきた。

とりあえず航平さんのボトルキープしている、グランブルと言う焼酎を、ジュンさんが氷を入れ割り物とステアし、カウンターに丁寧に出し、乾杯した。

 俺たちはお通しを食べ、酒を飲みながら、ジュンさんが色々と話しを聞き出し、緊張をほぐしてくれたのだ。

 次第に常連らしき人も交わり、下ネタやら、恋愛話などをし、ひたすら他愛の話が続いた。


 「一樹くんとかも良い人とかいないの?」とジュンさんが聞いたので。

 恥ずかしそうに「居るにはいるけど…なんかね~」と濁すように言った。

 ジュンさんは察したのか「あらぁ~中々大変そうな恋をしてるのねぇ笑」と手に口を手で押さえながら笑った。

 「でも好きな人がいるなんて、素敵!私なんかもうとっくの昔に枯れちゃったわぁ~!!」と言い、空いたグラスにお酒を注いでくれた。

 航平さんは「一樹くんが気になっている人ってどんな人なの?」と聞いた。

 とりあえず「チャラそうな人なんだけど、なんかミステリアスな雰囲気がある人かなぁ」

 航平さんは「そっかー、それほど魅力的な人なんだねー」とカウンターに頬杖つき、ボトル棚を見つめながら言った。

「そういう危険な男ほど、トキメキもんよねぇ~!!」とジュンさんは女子会のノリのような感じで言った。

 確かにそうだ、卓也とはそういう危険な男だ…分かっているのに卓也に会えば会う程はかれてしまう…。

「バカな自分だぁ…」と心の中で自分に呟いた。

 酔った常連らしき人が「まぁ、恋とはそうやって色々経験し、成長しとくもんだよ少年」と何もかも分かってるかのように言い、「面倒くせぇ~」と思った。

 ジュンさんが「航平くんも一樹くんも」何か歌う?と聞いたので、航平さんが「じゃあ歌っちゃおうかなぁ」とデンモクを触った。

 航平さんはofficial髭男dismの「pretender 」
を熱唱したのだ。

 正直かなり上手くて、思わずジュンさん、常連さんと一緒に航平さんに喝采した。


 航平さんは照れたように「全然だよ」と謙遜したが、満更でもないように、嬉しそうだった。

 「一樹くんは何歌う?」とジュンさんが聞いたので、「俺は下手だし、航平さんの後に歌うのは恥ずかしい」と言った。

 「なら皆んなで歌おうよ!」と航平さんが言い、デンモクに大塚愛の「さくらんぼ」を入れたのだ。

 思わず皆んなで「え~!?」と口に出してしまったのだ。

「そんな治安の悪い曲嫌よぉ~!」とジュンさんがいうが、常連は「まぁ盛り上がりからいいやん!」と言った。

 俺は地獄絵図が思い浮かび、覚悟した。

そう思っているウチに航平さんが「す~いす~いすいすいすい、一樹が飲まなきゃ嫌だっちゃぁ~1一樹~!2一樹3一樹からのしーぼーお」と1番最初に俺を指名してきたので、グラスの酒を半気した。

 それを繰り返していき酔いが回ってきた、最後にジュンさんで終わったのでジュンさんがグラスの焼酎を飲み干したのだ。

 ゲップしながらジュンさんは「あぁ~本当に地獄だわ~」と雄の声で言った。

 確かに盛り上がってテンションは上がったが酔いも回りだいぶ視界がボヤけてきた。

 しばらく休憩し、お会計をし航平さんと二軒目を目指した。

 エレベーターまでジュンさんが見送り「またいらっしゃっいねぇー」と手を振った。

深夜の0時を回り、仲通りの交差点は沢山のゲイ達がほろ酔いの状態で歩いてる。

 そんな中に見間違いだろうか、卓也らしき人が反対側の中通りの歩道を歩いていた。

「あれは見間違いじゃない、卓也だ」とはっきり分かった。

 隣には小柄なカッコ可愛い系の男を連れて、その男は卓也の腕にしがみついたり、イチャイチャした感じで歩いていたのだ。

 俺は急に酔いが覚め、急に嫌な気持ちになった。

 航平さんが「次はどこで飲む?もう終電もないだろ?朝までコースにする?」と聞いた。

 俺もふと、我に帰り「あぁ、そうだね、朝まで飲みますか!」と気を正常に保った。

 「どこで飲む?次は一樹の行きたい所でもいいよ?」と聞いてきたので、「ゴールデン街は?」と言った。

 「いいよ!あそこも中々いい店あるしな!」と航平さんが言い、二人で靖国通りを歩いた。

 花園神社の横の道を通りゴールデン街に着いたのだ。

 色々な飲み屋が並ぶゴールデン街、このノスタルジックな雰囲気は戦後の闇市の名残のおかげなのか、なんだかタイムスリップしたような不思議になる場所だ。

 あかるい花園1番街を歩き、色々な店を探した、けどさっきの一件がありただぼーっと歩くだけで、中々決められなかった。

 航平さんが「こことかどう?」と聞いてたので、「うん、そこにしよ」と言って店の扉を開けた。

 店の中は薄暗く、ステンドグラスのランプが小さなカウンターに置いてあり、大正レトロなポスターに、丸い真ん中に穴がある赤いパイプ椅子がカウンターに並んであった。

 カウンターには1人の女性立ち、「いらっしゃいこちらにどうぞ」っと、艶やかな声で言った。

 俺たちは手で指された先のカウンターに座った。  

 色っぽく艶やかなロングヘアの女性が「初めてですよね?」聞き、メニュー開き色々説明してくれた。

 航平さんは、バーボンウィスキーをロックで頼み、俺はスコッチウィスキーをロックで頼んだ。

 女性がカウンターの下からアイスピックと大きなブロック氷を取り出し、氷をカチ割りグラスに入れウィスキーを注いだ。

 目の前にコースターを置いて、「どうぞ」とウィスキーのロックを出した。

 俺たちは乾杯しゆっくりとウィスキーを口に含んだ。

 喉にゆっくりと通るように焼ける感じが、伝った。

 俺はさっきの出来事を思い出し、モヤモヤした状態で、カウンターのステンドグラスのランプを見つめたままウィスキーを口にはこんだ。

 「大丈夫?眠いの?」と航平さんが聞いた。

「あーごめん、ちょっと酔いが回ってね」と答えた。

「そりゃそうだよね、さっきはあんな歌を歌わせたからな」と航平さんが笑いながら言った。

 「お客さんは今日はどこで飲まれたんですの?」と艶やかな女性が聞いてきた。

 「二丁目です!」と航平が淡々と答えた。

「あーじゃあソッチ系の?」と艶やかな女性が聞いたので「はい」と二人で答えた。


 「なんとなくそう思ったんですよ」と微笑みながら女性は答えた。

 「やっぱ分かるもんですか?」と俺が聞いたら。

 「だってお客さん達、所々所作にホゲが出てますよ」と上品に笑いながら言った。


 なんだか急に恥ずかしくなったけど、この女性の嫌味のない柔らかな言葉使いに、この店のノスタルジックな雰囲気に、さっきの嫌な出来事が少し薄れた。

 この女性店主さんの名前は章子さんいう。

 大正レトロなインテリアが好きみたいで、お店のコンセプトも大正ロマンなのだ。

 椿柄のワンピースを着て、エプロンをつけ、艶やかな雰囲気は並み大抵の人には出せない色気だとつい感心してしまった。

航平さんとゆっくり話しながら、酒を飲んだ。

俺は酔いのせいか、卓也の関係をポロッと航平さんに話し、さっきのは出来事も話した。

航平さんはただひたすら聴き相槌を打った。

「でもこのままだと一樹が苦しくない?」と航平さんがポツリと呟いた。

「それにその人、俺の知り合いなんだよ…」と航平さんが話した。

思わず「え!?」と声に出してしまった。

気まずそうな表情で「一樹には言いにくいけど、そいつ色々な年下男に手を出し、思わせぶりのような発言してるんだよ」と航平さんが下を向きグラスを見つめながら言った。

「なんで知ってるの?」と俺は聞いた。

「二丁目は狭い世界、だから色々な情報が入ってくる。」

「俺もそいつに弄ばれた子を何人か知ってるからさ…」と航平さんが言った。

正直、なんとなく知ってたけど、改めて人から聞くとなんだか心にグサってと刺されたような感覚になった。

「ごめんごめん、でも卓也も一樹の事をちゃんと見てるかもしれないからさ!」と慌てたように言った。

自分もそうだと思いたいけど急にさっき目撃した卓也とその男の事が脳裏に浮かんだ。

「あの二人今頃…」と心の中で思ったが、おそらくやる事は絶対してると確信できるぐらい自信がある。

アンティーク調の壁掛け時計は午前3時を差していた。

 「そろそろお暇するか」と航平さんが言い、お会計を済ましてくれた。

 章子さんが「またいらして下さいね」と言い、カウンターに立ちながら微笑んで見送った。


 まだ電車は動いてないのにどこ行くんだろう、と思いながらゴールデン街を歩いた。

航平さんはゴールデン街を抜け歌舞伎町の方を指差し「あっちに行こう」と向かってた。

しばらく歩いているとホテル街に入った。

 「航平さん?」と俺が聞いたら。

 「ここで休憩するか」と俺の手を引きホテルに入った。

 俺は抵抗しなかった。

 酔ってたのもあるが、卓也のさっきの光景を見て「俺も…」と少し自暴自棄モードに入っていた。

 部屋に入るなり、航平さんはキスをしてきた。

「ごめん我慢できない」と航平さんが耳元で言い、ベッドに押し倒された。
 

服も脱がされ、俺の体に愛撫してきたのだった。

 心の中で罪悪感もあったが、卓也もどうせ今頃…と思い航平さんに体を委ねた。

 航平さんの大きな体に覆われてただひたすらセックスをした。

 航平さんのセックスも激しく、気持ちよかったが、なぜか卓也ほどドキドキ感がない。

 航平さんに挿入され、激しく腰を振ってこちらにキスをしてる最中もどこかで卓也の事を思ってしまう…。

 シャワー浴びて体を拭き、ベッドに戻った。

航平さんはベッドの上でタバコを吸っていた。

「おいで」と航平さんが腕を開き、俺は腕枕される状態で一緒にタバコを吸った。

 スマホを見たら卓也からLINEがきてた。

「今週の金曜の夜どう?」と…。

 俺はますます罪悪感に襲われたが、卓也とは付き合ってないし、そもそも卓也には何人ものセフレがいるじゃないか…と言い聞かせた。

 航平さんが俺の頭を撫で「とりあえず寝ようか」と言い、とりあえず俺も眠る事にした。

 
 起きたのは午前12時ごろ、ホテルを出て、航平さんとファミレスでご飯を食べた。

 「昨日はごめんな」と航平さんが言う。

 俺は「別に謝る事なんてないよ」と言い。

航平さんが「なら良かったと」爽やかな笑顔で言った。

 俺たちは駅に向かい航平さんと解散した。

電車に揺られながら昨日の航平さんとのセックスを思い出した。

 航平さんとこれから友達の関係でいられるのかと少し不安に思ったが、あまり考えないようにしようと思った。

 とりあえず卓也に返信し、「大丈夫だよと」送った。

 帰宅し、疲れてベッドに倒れてしまった。

昨日は沢山の事が起こり、頭が思考停止状態になり、ただひたすら横になった。

 ベランダではナデシコやススキやらたくさんの草花達が風に揺れ動いてる姿がこちらを見て、ヒソヒソと噂してるように見えたのだ。
 




 

 

 
 
 

 
 

 

 


 

 






 
 

 

 
 

 
 


 

 
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