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第1章

アルブ・ローザ帝国 vs Six or Seven

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それから順調に各自、分担した作業が終了し後は帝国の出方を待つばかりとなったが…。

「…何でこんなに遅いの?」
玉座に肩肘ついてふてくされる雪那。

「どーせ、ろくでもない事でも考えてんじゃね?」

「勝てると信じて立ち向かう地点で、ろくでもないがな。」

「ここで待っていても退屈でしょ?
だったら、正門の辺りで優雅に待ってたらどうかしら?」

「「「それ面白そう!(じゃんっ)」」」
チャシャとハル・アキが賛成の手を挙げる。

「じゃあさ、立ち位置決めよーぜっ!
モチロン真ん中はユキな、んで左右に並んで待つってどうよ??」

「セツの隣に立ちたい奴、手を挙げろ。」
――バッ!!

「…あみだくじの用意しましょう。」
クロードが即席で用意したあみだくじの結果、右にビアンカ左はクレイとなった。

「何だよっ、一番はしっこのポジションかい。」

「え、私と代わって?」

「「駄目(よ)、絶対」」
あわよくば場所移動出来るかも…と思った雪那はこっそりチャシャに話を持ちかけたが、ビアンカとクレイに笑顔で却下された。
―ビービービーッ!!!

「あ…何かセンサーに、」

「引っかかったみたいだよ!!」
ハルは怯えるように、アキは待ってました!とばかりに警報地点を調べに外へ行く。
2人が錬金術をフル活動させて開発したこの警報―これは小型の無人機を城の周囲に配置し、半径60㎞の範囲内に侵入すると発動するといういわゆるセコムみたいな物。認知阻害スキルを使用しているため、周囲に溶け込み攻撃されるリスクも少ない。

「ハルとアキが作った魔導具、性能が良すぎて感激したよ。僕みたいな普通の一般人は一生お目にかかれないね…。」

「は?何言ってんだよ、オマエは人間やめてもう死人だろ?
普通の意味間違ってんだろ。」
ラシュの頭を叩く。
頭をさすりながら、「まぁ…そうなんだけどね。」と返し、一行を見送る体勢に入る。

「やっと来たんだ…。。」

玉座に座ったままの雪那は、氷に魔力を流し人型を模した氷を作ると、静かに目を閉じた。すると、雪那の身体がまるで眠るように背もたれに身体をあずけた。
それと同時に人型の氷が色づき始め…

「―あーあー、テステス…。うん、違和感無く動ける。」
雪那は本来の身体をラシュに護らせ、自身の魔力で造った身体に
この術はかなり魔力を消費するし、一体までしか造れない。更に持っている魔力の100分の1しか保有出来ないのだが、幸い雪那は魔力の底が無く氷で出来ているため自己再生が可能なので問題ない。

「皆、行くよ。」
雪那を先頭に歩き出した。

★★

城門には既にハルとアキが待機していた。

「ユキ姉、相手がその…。」

「魔物の大群だったよ?」

「「しかもその数、およそ80万。」」
まさか魔物の大群が押し寄せているとは。
いくらこちらが強いとは言っても、魔物と帝国の両方を相手にするのは面倒である。
雪那は、チャシャを見つめる。

「はぁ、しゃーねぇーな…。
オレの亜空間にぶちこんどくか。閉じ込めてる間に共食いとかしやがったら<断罪火炎>で跡形もなく燃やすからな。」
雪那の無言のお願いに弱いチャシャは、しぶしぶ城門を出て<亜空間>を開く。
魔物の大群が次々と吸い込まれていき、80万程いた魔物を難なく閉じ込めた。

「チャシャ、ご苦労様。」

「おう、こんなもん朝飯前だぜ?」
チャシャに労いの言葉をかけつつ、帝国の襲撃に備える。…正直、面倒くさい。
―しばらくして。

「おや?あの紋章…。雪那さん、どうやら来たようです。」

「ねぇねぇっ、ユキ姉!わざと姿を消して驚かしたい!」

「自由にしていいよ、私は見物するだけだから。」
一行がフードを深く被り、<目眩まし>のスキルで城門の上から見下ろす。
奥の列で騎士達が何やら言っている。

「おい、本当にここであっているのか?」

「全く、国王様の御言葉を信用出来ぬとは…実に嘆かわしい。」

「はいはい、お前のお小言は今いらん。
しっかし国王様がバケモンに喧嘩を売るとは驚いたぜ、戦うこっちの身にもなってほしいんだけど…。」

「それもそうだか、魔物は一体どこに行ったんだ?戦闘した形跡も見当たらないぞ?」

「そこの小隊、言葉に注意しろ。
国王の名に恥じぬ行動をしてこそ、我ら聖騎士団の誇りだ。戦いたくないとほざく恥さらしはこの場で自害を命じるっ。」
隊長の怒号が辺りに響く。

シーーーーーン。
「ブフ…w」

「誰だ、今屁をこいた大馬鹿者はっ!!」

「テメ、オレが笑い声を必死に抑えてんのに屁とか言うなやボケッ!!」
チャシャの怒り声に騎士達が一斉にどよめいた。

「ふん。貴様らが国王を侮辱した不届き者かっ、この私が成敗してくれる!!」
隊長は怯まず、彼らに槍を真っ直ぐ向けた。

「はぁ…チャシャ、あんたのせいよ。」

「いや、今の笑うなっていうほうがムリあるだろ。なぁ、ユキ??」

「…。」

「え、何その無言。どったの?」
(人がいっぱいで気持ち悪い…吐き気が…)

「…わりい。」
チャシャそれ以上は言わず目隠しを雪那に渡す。
相手を怒らせておいても我が道を行く彼の性格は理解していれば腹が立つこともないだろうが、知らない者からすれば当然。
―激怒する。

「この糞餓鬼っ…!
聖騎士の戦いというものを知れっっ!!
第一部隊、双方を囲い込め!第二は遊撃を、第三は私と共に行くのだ!!」
隊長らしき男は、かけ声と同時にチャシャに向かって力の限り槍をぶん投げてきた。

が、
「おっと、オレらがここで相手にするのは簡単なんだけどさぁ~?
オレ、弱い奴に興味ないし楽しめないわけでさぁ?コイツらと戦って勝った奴だけ挑んでこいよ。」
ケラケラと笑いながら槍をいとも簡単に受け止め、終いには片手で折ってしまった。

「あ、やべ。まぁいっか。」

「そんな物、ほっといて行きましょ雪ちゃんっ♪」
(コクコク)

「そうですね、では先程の通りにして下さい。
チャシャさん、手に持っている物をさっさと捨てて行きますよ?」

「へぇーい。」

「「ハーイ。」」

「セツ、こっちに来い。
奴らの見せ物になるのは我慢できん。」

「そうよ!汚い塊を見ちゃダメよっ目が穢れちゃうわっっ。」

「じゃ、そういう訳でサイナラ~。
あ、早く氷兵を倒さないと死ぬぜ?」
一行は<転移>を使用して城へ戻る。

★★

挨拶を済ませた一行は、それぞれの階に移動して敵が来るのを待つ。
1階: チャシャ
2階: ハルとアキ
3階: クロード
4階: ビアンカ
5階: クレイ
最上階: 雪那(玉座の間の前の部屋)
という配置になって現在に至る。

(チャシャやり過ぎるなよ。)

(そうよ?私の楽しみを奪ったら雪ちゃんの添い寝権取り消しちゃうから。)

(はぁ!?ユキの添い寝権取り消しはいくらなんでも横暴だろっ!
ふざけんな、アイツらが虫けら並みに弱けりゃどう戦えって言うんだよっっ。)

(な~に~?戦い方なんていくらでもあるじゃない、これだから脳筋はww)

(へぇ…。ちょっくら表出て本気マジで殺り合おうぜビアンカ?) 
絶賛<念話>で言い合う2人に鶴の一声がかかる。

(喧嘩するのは自由だけど、その代わり一週間部屋に籠るから。)
((ごめんなさい、それだけは勘弁して。))

速答で返事が返ってきた。
そんなやり取りの後、冗談で言っていたはずの言葉が現実となる。
なってしまった。

「おい、チャシャお前何やっているんだ。」

「はっ?オレのせい?
オレは<幻術>しか使ってねぇーのに、マジでどうなってやがる??」
チャシャの<幻術>はあくまで幻を見せるだけで実現することは無い。
けれども最初に比べ約半分以下にまで減った騎士が1階の大広間のあちこちで氷塊と化していた。
雪那はその様子を何もいわず静かに見つめる。彼女の様子にいち早くクロードが気づいた。

「雪那さん…もしかして貴女の仕業で?」

「…これ、もしかすると聖水の影響。
聖水の魔力は元を辿れば私の魔力、体内に残っていた聖水が反応して起こった現象だと思えば辻褄が合う。」

「何だよ、自業自得だっただけかよ。
呆気なさ過ぎて何も面白くねぇ。スキルの無駄遣いだぜ…。」
圧倒的な力の差で、属国軍を含む帝国騎士団は数分で壊滅。そんな事態であってもまだもがいている者が1人いた。
―騎士団隊長と呼ばれていた男だ。
帝国騎士団隊長は、自分が凍っている事にも気づかず幻術の中で今だ戦い続けていた。

「ちょっ、志向を変えたら食いつきがハンパなくて引くんだけど、顔怖ぇー…。」

「興味ないけど、幻の中で何をやってるのかしら?」

「部下達に助けられながら必死に最上階を目指してる。しかも仲間の敵を絶対に討つとか何とか言いながらだぜ?
幻の中なのによくもまぁ、頑張るよな。」

「何よそれ。自己満足の薄っぺらい正義を振りかざして仲間を犠牲にしている野郎が仲間の敵を討つ??どの口でほざいているのって感じよ。
幻の中で無様に足掻いて絶望を知ればいいわ。」

「余程ご自身の正義とやらに心酔しきっているようで、最早救いようがないですね。
まぁ、幻の中ならば自由ですから。」
やたら幻の中でを強調する3人に段々あの男が哀れに思える。
でもたったそれだけの存在価値。

「…くだらない。」
雪那は凍ったままの男を完全に無視し、出入口に向かって歩く。
外に出てみればついさっきまで騒がしかった敵兵達が、辺りを埋め尽くす程の氷塊となって絶命していた。
まもなくしてそれらは氷兵器によってきれいに片付けられた。





こうして帝国との戦争が呆気なく閉幕したのだった。
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