上 下
5 / 8
第1章

4.

しおりを挟む

コンコン…
「レイティア・フィ・ザイシェルでございます、入室の許可を。」

「入りなさい。」

「はい、失礼します。」
シェソがドアを開け私は音を立てずに入る。そしてお義父様の隣に立ち一礼をして座る。
「………はっ!
け、見学は如何でしたか?」
学院長は慌てた様子で訪ねてきた。

「はい、そうですね…。
一つに固執せず様々な形で勉学を学べるというのはとても魅力的ですわ。
能力に応じて他者と違う学びを受けられるのはこの学院にしかないと私は思います。
そう言えば先程、このような出来事がありました…。」
模擬戦での出来事を話すと学院長は真っ青な顔色で何度も謝罪される。
その時のお義父様の様子は、何と言うか表現出来ないお姿でした。
気を取り直して話しを再開する。
「それでしたら―」

「ですが、私が誇れる己の秀でるものがありません…。協会で鑑定して頂きましたが何一つ分からないままでした。
だって、私には…16年前の記憶が、無いのですから…。」
そう、私には生きた時間のほとんどを忘れてしまった…となっている。
邪黒神との契約によって記憶の一部を消失したのだから嘘ではない。

「レイティア、気に病む事では無い。

学院長には何度も同じ事を言うが、これ以上娘に入学を薦めるのを止めてくれぬか?」

「ですから申し上げておるのです、お嬢様の身を案じるのであればこの世界を学ぶ機会を与えるべきです!!
無知こそ己を滅ぼす、特に今のお嬢様のままでは……悪用されかねない。」
何故、学院長がここまで私に入学を薦めるのか。それは記憶喪失とは別に重大な秘密を抱えているから。

―不老不死。
名前の通り、私の体はあの日から時が止まってしまったかのように歳をとらなくなった。原因不明の病と医療術師に言われが、邪黒神との契約で与えられたものなのでさほど気にしてない。
周りには既に知れ渡っているからか、派手に騒ぎたてているだけのこと。
それに入学自体もともとするつもりが無いのにどうして学院長が執拗に薦めて来るのか理解できない。

「娘を入学させれば噂の的になり良からぬ事を考える輩が集まるだろう、その場合はどうやって抹―ンンっ、対処するつもりだ?」
お義父様?
今、とても不穏な言葉を聞いた気がしましたが表情にお変わりはありませんし…きっと何かの聞き間違いですね。

「そのような事が起こらぬよう最善を尽くす所存でございます。
手始めに、お嬢様の憂いを晴らす為の手段としてお嬢様が心を許せる者の同伴を提案させて頂きます。そして私が信頼する護衛を遠見からではございますが、直ぐ様駆けつけられるように手配をしましょう。
お嬢様の体調に合わせて授業の組み換え、個別指導を随時設けますので安心して勉学に励んで頂ければと我々は考えております。」

「そうか、そこまで考えてくれていたのか君は……!」
お、お義父様…?

「レイティア?今すぐにとは言わないが、ここまでお前の身を案じてくれているのだ。」
今まで通り反対して下さらないのですが!?

「そ、そうですわね。まさかここまで熱心にされては―」

「お嬢様がご入学されるのであればこのシェソ、手となり足となって貴女様にお仕えさせて頂く所存。
どうか、私めをお供にお選び下さい。」
後ろで控えていたシェソが突然、私の横で跪き頭を下げ始めた。
結局、入学する事がトントン拍子で決まってしまい今から憂鬱な気分になった。お義父様と別れ、学院に近い場所で食事をとることになった…が、その状態で食事が進むわけがない。
(私が自由に動ける時間が減る…。ここはラウラスに協力してもらわないと不味いわ、学院側も余計なお世話よっ護衛なんて私からすれば監視のようなものじゃない!)

「お嬢様、お食事があまり進んでおられないご様子。何か不服が御座いましたでしょうか?」

「少し気疲れただけよ、馬車の中で休めば平気だから心配無用。」

「畏まりました。もし宜しければ何か簡易的なお作りしますのでお早めに休まれますか?」

「…そうしようかしら。」

「仰せのままに。」
私が席を立ち出口へ向かう間に彼は料理長に簡易的な食事の用意を指示しながら屋敷のメイド長に帰宅予定時刻とスケジュールの前倒しを告げ、私をエスコートする。
「貴方、いつの間に通信用魔導具を持っていたの?」

「これはお嬢様の専属護衛兼執事になった当初より、旦那様から賜れた物でございます。」

馬車が到着し、扉が開けられたその時。
彼が美麗な笑顔を私に向け告げる。
「貴女様にこの命を救っていただいた時から私は貴女だけの下僕。
ご命令とあらばこの私に、その愛らしい口で、声でお聞かせください。貴女様を悩ます種をこの手で払拭する機会を与えて下さい。
全ては貴女の望みのままに。」

「シェソ…、いつもありが―「僕の姉さんを何口説いてんのかな?執事ごときが姉さんに惚れるとか死んでも許さない。この場で塵にするぞ?」

「ちょっと、ラウ!!」

「口説くなど、私はお嬢様を心からお慕い申し上げているのです。
お嬢様の敵は我々の敵、ならば立場が違えどやることは同じでございます。
ラウラス様ならばこの思いを汲み取って頂けるかと。」

「ふ~~ん…、分かっているなら良いさ。
姉さんっ!お待たせ、疲れたでしょ??
さぁ早く馬車に乗って帰ろう。」
今のやり取りが無かったかのように振る舞うラウラスに苦笑した。

★★★

屋敷に帰ればメイド長と数人のメイドが待っていた。どうやら、お目当ての仕立て人が応接間で待機しているとのこと。
少し急がないと……ん?何故メイド長らの顔が真っ青なの…?

「お嬢様っ、どうなさいましたか!?顔色が悪うございます!
一度お部屋で休まれて下さいませっっ。」

「だ大丈夫だからっ…落ち着いて?」

「姉さん、無理しないって約束したでしょ?メイド長が仕立て人に説明してくれるし、少し休んできてよ。
ゼーラは姉さんがちゃんと休んでるか見てて、シェソは僕から話があるから借りてくよ姉さん。」

「分かったわ、ちゃんと休むから喧嘩は駄目よ?」

「姉さんの嫌がることはしないさ、大事な話をするだけ。
シェソこっち来い。」
ラウラスはシェソを連れて部屋を出ていく。私はというと直ぐに簡易着に着替えベッドに入り仮眠をとったのだった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)

幻田恋人
恋愛
 夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。  でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。  親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。  童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。  許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…  僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

巨根王宮騎士の妻となりまして

天災
恋愛
 巨根王宮騎士の妻となりまして

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

処理中です...