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22.オヨビでない奴

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「アネット様、トミタカ様にお支払いする代金のご用意ができました」
「セバスチャン、ご苦労様です。トミタカ殿に渡してくださいな」

 ずっしりと重そうな麻袋を携えて、セバスチャンが応接間に入って来た。辺境伯様は茫然として床にへたり込んでおり、アネット様とエリス様が私に抱き付いているという異様な状況である。しかしセバスチャンは困惑する事もなく、淡々と麻袋を机の上に置いていった。察する所、辺境伯様の周りでは女性トラブルが日常茶飯事なのであろう。

「トミタカ様、代金の白金貨130枚と大金貨7枚で御座います。大きな麻袋に白金貨100枚入っており、小さな麻袋に白金貨30枚と大金貨7枚入っているので、お確かめください」
「いやいや、私はアネット様やセバスチャンさんを信用しています。数えるまでも無いでしょう」
 
 平然を装いアタッシュケースに麻袋をしまうが、内心は安堵感と喜びで満ち溢れていた。何せ800万円程で仕入れたアクセサリーが、1億3070万円で売れたからだ。しかもアネット様たちも満足しており、正にウィンウィンの関係である。これで開業資金は充分に確保できたので、腰を据えた生活が送れるであろう。

「アネット様、お買い上げありがとうございます。お陰様で商館を開業する目処が立ちました」
「あらあら、本格的に事業を始めるのですね。うふふっ、次はどんな品物をお披露目してくれるのか、今から楽しみですわ♪」
「えーっ、トミタカ様、屋敷から出て行ってしまうんですか?」
「はい、長い間お世話になりました。暫くは商館の着工で忙しくなりますが、完成したら皆様を招待しますので、是非いらしてください」
「むぅ~っ、寂しいですけど、それならば我慢します。忘れないで招待してくださいね」
「はい、美味しいお菓子や飲み物も用意しておくので、楽しみにしていてください。あっ、それからこれは、お世話になったお二人へのお礼です」

 二人に渡した品物は、昔の洋画によく出てくるポンプのついた香水瓶である。クリスタルのボトル部には花模様が施されており、土台は銀製で出来た高級品だ。そして中身の香水は、この世界では開発されていないと思われる合成香料である。天然香料では難しい香りの持続性あり、複雑で優雅な香りがする革新的な香水なのである。

「これは異国の香水でございます。体温の高い箇所に付けるのが基本ですが、箇所によって香り方にも違いが出ますので色々と試してみてください」
「あらあら、官能的で人を惹きつける香りですわね。これはジャスミンとローズの香りかしら? でも、それだけではないですわね……どのようにしたら、この様な複雑で爽やかな匂いを調香出来るのかしら? 本当に興味深いですわ♪」
「えへへ、私の香水は柑橘系のフローラルな香りがします。とてもいい香りで心が落ち着きます♪」

 二人は受け取った香水を試しながら、キャッキャウフフしている。ただでさえ魅力的な彼女たちであるが、甘くセクシーな匂いに包まれ、コケットリーで官能めいた雰囲気が漂い始めた。

「クスクス、どうしましたかトミタカ殿? 顔が少し赤いようですけど……」
「ははは、年甲斐もなく二人の色香にあてられたようで、思わず心惹かれてしまいました」
「あらあら、嬉しいですわ。私もまだ捨てたものではないですね♪」
「トミタカ様は、私にも女としての魅力を感じるんですね? きゃ~~~、恥ずかしいです♡」
「トミタカ殿! アネットとエリスを私から奪うつもりか? やらせはせん! この俺がいる限り、やらせはせんぞーっ!」
「あなた、うるさいです!」「お父様、邪魔です」
「あああああ~~っ! 目がぁぁ~! 目がぁぁぁぁあっ!!」

 バ●オハザードのゾンビのように、突如として起き上がった辺境伯様が襲い掛かって来た。しかし香水を吹きかけられて、目を押さえながらのたうち回っている。

 しかしアネット様もエリス様も容赦ないよな。彼女たちを本気で怒らせると非常に危険である。ム●カのように苦しみ叫んでいる辺境伯様を見て、私は反面教師にするのであった。


 正気に戻った辺境伯様にも挨拶を終え、貰った娼館へと向かう事にした。アネット様たちは名残惜しそうであったが、よそ様の屋敷では気ままな生活が送れないのだ。辺境伯様に馬車を借りて、御者は張遼ちゃんにやってもらっている。異世界に来てから波瀾万丈だった私は、漸く馬車の中で人心地ついたのであった。

「クスクス、ご主人様ぁ~、だいぶお疲れのようですねぇ~。うふふっ、私が慰めて差し上げますよ~♡ 」

 馬車の中には、私とリルルだけである。御者をやっている張遼ちゃんの目が届かないので、リルルはやりたい放題である。猫なで声を上げて、媚びるように身体をすり寄せてくる。

「謹んでお断りします。……というか、疲れている理由の大半が、君のエロい行動が原因なんだけどね」
「あ~ん、そんな冷たい事を言わないでくださいよぉ~。辺境伯様を誘惑したのもぉ~、ご主人様のためなんですよ~」
「辺境伯様を誘惑したことが、何で私のためになるんだよ!」
「クスクス、私と辺境伯様のエッチを目撃したらぁ~、アネット様はどんな行動を取ると思いますかぁ~?」
「う~ん、辺境伯様がリルルを誑かしたと思って、どきついお仕置きをするんじゃないのかな」
「それだけじゃないですよぉ~。辺境伯様に愛想を尽かしたアネット様は、癒しを求めてご主人様に抱かれると思いますよぉ~♪」
「はあ~、エロゲや官能小説じゃないんだから、そんなご都合主義の展開がある訳ないだろ」
「クスッ、ご主人様はアネット様の本質に気付いていませんねぇ~。此処だけの話ですけどぉ~、アネット様とエリス様には、サキュバスの血がほんの少しだけど流れていますよぉ~。そしてそのサキュバスの血が、ご主人様のチャーム(亜人限定)のスキルに反応してぇ~、好感度と情欲がダダ上がりの状態なんですよぉ~」

 げっ! そう言われてみると、アネット様もエリス様も見初めて直ぐに好意的に接してくれたよな。アネット様に至っては、下着姿を見せつけたり股間を触ったりで、やりたい放題だったよな。まあ、私としても役得であったのだが……。

「ご主人様はぁ~、高貴な女性とのエッチに憧れてますよねぇ~。ですから私が辺境伯様に抱かれている所をアネット様に見せつけてぇ~、怒った彼女を目の前で寝取っちゃえばいいんですよぉ~♪ プレイボーイの辺境伯様が、大事な女性を寝取られるなんて初めてでしょうからぁ~、メチャクチャ嫉妬すると思いますけどねぇ~」

 確かに、高貴な女性であるアネット様を抱くチャンスである。あの美しい人妻の熟れた身体を堪能し、あまつさえ辺境伯様の目前でこれ見よがしに絶頂に導くことも出来るのである。しかし代償としてリルルが辺境伯様に抱かれてしまうのだ。退廃的だが甘美で危険な誘惑である。ブルブルと頭を振っても、アネット様とリルルの悶えまくる煽情的な姿が浮かび上がり興奮が止まらない。ヤバい、危険な性癖に目覚めそうである。

「うふふっ、二人ともパートナーを寝取られる嫉妬感とぉ~、相手のパートナーを寝取っている優越感が入り混じってぇ~、興奮のあまり理性なんか吹っ飛んじゃいますよぉ~♡ ご主人様もアネット様とエッチが出来て満足ですしぃ~、辺境伯様も私とエッチが出来て満足ですよねぇ~。そして私も吸精が出来て満足ですしぃ~、アネット様も肉欲を満たせますからぁ~、いいこと尽くめじゃないですかぁ~。更にヤキモチを焼いた辺境伯様が、アネット様を大事にするでしょうからぁ~、夫婦円満にも繋がりますよぉ~」

 悔しいが心惹かれる提案である。しかし私は張遼ちゃんに心から惹かれているのだ。バレて醜態を晒すような真似はしたくないのである。しかしアネット様とのエッチも捨てがたいのである。……あーーーっ、どうすればいいんだぁぁぁぁぁ。

「男と女 寝取り取られ♪ 対の揚屋の……ムギュ~」
「このアホサキュバス、なんちゅう歌を歌うんだ! 止めろ、今すぐ止めろ!」

 沸き起こる葛藤と闘っていると、リルルがとんでもない替え歌を歌いだしたので慌てて口を塞ぐ。このアホサキュバスは、口の悪い女型のオッサンからクレームが来たらどうするつもりなのだろうか? 全くとんでもない奴である。 
 
 
 そんなアホなやり取りをしているうちに、馬車は娼館へと辿り着いた。しかし様子がおかしいのである。見慣れぬ馬車が停まっており、獣人のニャムたちがケバい女と言い争いをしているのだ。

「ニャムちゃん、どうしたんだ? 何かトラブルでもあったのかい?」
「にゃにゃ、やっとオジ様が戻って来てくれたにゃ! オジ様、この女を何とかして欲しいだにゃ!」
「あらっ、貴方がこの薄汚い獣人の飼い主かしら? 私はこの娼館で一番の花形だったメアよ。この娼館を買い取ったお大尽がいる――という噂を聞いたから来てみたけど、冴えないタダのオッサンじゃないの。はあ~っ、わざわざこんな所まで来たのに、とんだ無駄足だったようね」

 派手なドレスを着たケバケバ女は、開口一番でいきなり侮辱の言葉を吐いてくる。しかし一番の花形だった――と言う割には、張遼ちゃんやリルルの足元にも及ばないレベルである。少し男にチヤホヤされて、いい気になっている勘違い女の類であろう。

「プークスクス、自惚れたブス女がぁ~、何かほざいているみたいですねぇ~」
「ブ、ブスッ?! 聞きなれない言葉が聞こえてきたわ! おほほ、きっと気のせいね」
「このオバサン――ブスなだけでなく耳まで遠いんだねぇ~。可哀そうにぃ~……」
「な、なんですって! なんて失礼で身のほど知らずの女かしら! この美しい私を見て跪き……」

 リルルを凝視したケバい女は、驚きのあまり二の句が継げないようだ。淫乱で問題児のリルルであるが、さすがサキュバスクイーンである。絶世の美貌と至高のセクシーボディは、他の追従を許さない絶対的な美しさであった。

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