異星人X

安藤夏

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二尾暮爽という男

通過列車の霧

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月曜日の駅のホーム、そこでは鬱憤と怒りとため息と香水の混ざった不協和音のような霧が常に誰かに纏わりついては精神を蝕む。
羽村弘はそんな霧の最中、自分の香水の匂いにウンザリしていた。自分のなりたかった大人ってこれだっけ?そんな考えが月曜日のホームに篭る。突然、今までノイズでしかなかったアナウンスの『通過列車』などという単語がクリアに聞こえてしまう。こんな現状をいち早く変えてくれる最高の手段にどうして気づかなかったのかと自分を軽く責め立てる。
「羽村弘様専用通過列車が参ります」そんなアナウンスが聞こえたと思うほどには彼女にとって大発見だったのだ。
列車が近づいてくる、魅力的に見えるそれはとても大掛かりな処刑道具にしか彼女は見えなかった、最後に派手に散れる事に感謝した。
全身の力を抜き、カバンを地面に置き目を閉じると孤をえがいてホームに真っ逆さま・・・
かのように思われたが痛みはやってこない。目を開けると真剣な表情でこちらを伺う男が肩を両手で強く握っていた。
「何をしている、危なかったぞ。」
唐突な正論に戸惑っていると、沢山の命が乗った電車が轟音と共に通り過ぎる。
自分の計画の自己中心的な考えにようやく気づき、その場に泣き崩れてしまった、男は「気をつけてな」とだけ言い残しては立ち去ろうとする。弘が礼を伝えようと前を向くとそこには男の姿はもう見えない、ふとポケットに手を探り入れると入れた覚えのない飴玉が入っていた。
弘はこれが人生最後の涙だと決心し、飴玉を口に放り、実に5年ぶりの笑顔を取り戻した。
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