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【PW】AD199908《執悪の種》
置き場所
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何が起きている?
私は、何の為にここに居るのだろうか?
オレンジと黒に染まる世界を呆然と眺めながら香樹実は、小さな溜息を漏らした。
規則的な音と振動を鳴らしながら走る電車はそんな香樹実の気持ちを置いてけぼりにしながら目的地へと向かい走っていた。
「辛気臭い顔してるね」
隣に座る、藤の言葉に香樹実はそっと俯いた。
「私達、今日何をしてたんでしょか?」
今日も阿部の行確の調査だった筈なのにしていた事と言えば事務所に篭って起きた事に右往左往していただけだ。
大浦が意識を失い救急車で運ばれ、阿部が入ったビルが火災にあい安否不明。
明らかに色んな事が起きている中で自分達は蚊帳の外に居て何も助けられなかった。
そんな事でここに居ていいのか、なんの為にこの時代に帰ってきてしまったのだろうか…
そんな考えが頭の中でグルグルと回っていた。
「何も出来なかった、それが紛れも無い応えね」
藤は、バッサリと言い切ると香樹実の顔を覗いてきた。
「でも、料理にドライバーとか使わないでしょ、今回はそんなもんだったんじゃないの?」
はっ?
唐突の物の喩えに香樹実は、顔を上げて藤の顔をマジマジと見てしまった。
「ドライバー?」
「知らない?ほらネジ回のドライバー」
「いや、それはわかってますけど、なんでドライバー?」
「さぁ?昔私も言われただけだからね、本当になんでドライバーだったんだろ?」
藤は悪びれることも無く無表情のままそう応え、そんな表情を見てて思わず香樹実は吹き出してしまった。
藤もまたそんな香樹実の砕けた表情を見て少しだけホッとした表情浮かべた。
「これから暇?少し付き合ってよ」
そんな藤の一言で香樹実達は、池袋から下った志木駅へと向かうと駅から暫く歩き、1軒の民家へと入っていった。
正確に言うなら民家の装いをしたカフェだ。
黒い看板には、《陽だまり》と書かれていた。
こんな所に隠れ家カフェなんてあったんだ。
香樹実は、素直に驚きながらな店内に入ると2席のカウンター席とテーブル席、そしてテラス席があった。
藤は、慣れた足取りでテーブル席へ座り、香樹実もまたそれに習う様に目の前の席へと座った。
「いらっしゃいませ」
柔和な表情の中年の女性が水の入ったコップを持ってくると藤は直ぐにアイスコーヒーを頼み、香樹実はアイスティーを注文した。
程なくして注文した商品が運ばれ香樹実は喉を潤すと同時にアイスティーの風味に自分の奥の中の何かが解けていくのを感じた。
藤もまたアイスコーヒーを飲みながら安堵した表情しながらゆったりと香樹実へ目を向けた。
「ゴメンね、正直私にはアナタを傷つけないでその内を聞く方法をしらない、だから多分キツい言い方になるとは、思うけど、教えてアナタ今日変よ?」
あぁなんて真っ直ぐな言葉なのだろう。
香樹実は、少しだけ苦笑しながらゆっくりと俯いた。
「先輩に私の過去をちゃんと話したことないですよね?」
「えぇ」
「どこから話せばいいのかな…そう私には2人の子供がいました、1人はお腹を痛めた産んだ子、もう1人は先に亡くなった妹の子供…」
そう、言葉に出すと、あどけなく暖かい笑みを浮かべていた子供達の顔が過ぎった。
「私の絶望は2回起きました、一回目はお腹を痛めて産んだ子が先天性の心臓病で亡くなった時…まだ4歳だって言うのに最後は意識を失ったまま亡くなりました…あの時は本当に最低だったなぁ…」
「辛いわよね…」
どう答えたら良いのかわからないのか藤の表情が曇っていく、その表情を見て香樹実は、これ以上話すかどうか迷ったが、その目から全てを受け止め様とする光を感じて話すことを決意した。
もしかしたら、本当は自分が語りたくてそういう風に思い込んだ、だけかもしれなかったが、それは余りにも些末な事だった。
「最低なのは、それだけじゃないんですよ、その子…和穂が亡くなった時、旦那、どこに居たと思います?」
そう口火を切ると抑え込んでいた記憶と思いの濁流が決壊した。
人工呼吸器に繋がれ、辛うじて生きている幼いわが子の心拍が止まったあの瞬間、何度も携帯電話にかけても出ない旦那、あれは黄昏時だった。
ついにその心臓は動くことをやめ、その目は二度と開けられること無かった。
あの日、全ての世界が暗闇に落ちた。
旦那と連絡がついたのは、和穂が亡くなって2時間後、起きたての様な間の抜けた声を上げていたのを今でも覚えている。
最初は、言葉を理解できなかったのだろう、数秒後の間の後、掠れた声と慌てふためく音、そして聞き覚えのある女性の慌てた声。
そして、乱れたスーツで病院に現れた旦那から何処かで嗅いだことのあるシャンプーの匂い。
その匂いが何処で嗅いだのか思い出したと同時に香樹実の世界はより一層、深く暗い闇へと落ちていく。
そして、その匂いの主は、和穂の葬式の時にそれらしい顔で泣きそうになりながら自分の手を取って慰めの言葉をくれた。
どんな気持ちだったのだろうか?あざけ笑っていたのだろうか?それとも本当に同情していてくれたのだろうか?
今でもはもうわからない。
彼女は、あっちの世界でも、そして、この世界でも、もう居ないのだから。
「ちょ…まって…もしかして不倫相手って…」
掻い摘んだ話でも藤は、理解したのだろう。
香樹実の言葉に曇りの表情はいつの間にか驚愕と怒りのモノへと変化していた。
「中学の頃からの友人で笹野 真弓、そして旦那の名前が車木 和之、こっちも中学からの長い付き合いです」
そんな藤とは、裏腹に当人である筈の香樹実は淡々とした口調で応えた。
藤の表情は何も変わらなかったが途中何かを納得した様に数度頷いた。
「なるほどね、だから彼はアナタにベッタリくっついてアナタは彼をずっと毛嫌いしてたのね…間違えてたら恥ずかしいけど、もしかしてこの前の車木の行動がおかしたかったのってもしかして…?」
「そうです、先日の行確調査中に出会ったのが真弓です」
香樹実の応えに納得した様に藤は、背もたれに体を預けた。
「離婚はしなかったの?」
「調停中でした、私は離婚したかったんですけど向こうがゴネて、そしてアレが起きたんです」
何か思い出したのか藤は苦笑しながら小さな溜息を漏らしていた。
「そうなったら離婚とかそれどころじゃなかったでしょうね」
「向こうは、何かと私を気にかけてたんですけどね、煩わしいとしか思えませんでした」
「そりゃそうでしょ、でもだとしたらそんな表情なのは、何故?車木も離れたし逆に清々したんじゃないの?」
「本当ならそうなんでしょうね、真弓とも切れたんですし…でも、流石にあの爆破で死んだと知ったら…なんか、分からなくなってきて…」
香樹実の言葉に藤が無表情のままに膠着し、香樹実もそれ以上何を言ったらいいのかわからないまま止まってしまった。
「間違いないの?」
「はい、最初はリンクで見えて、昨日、連絡網で回ってきました…」
清々した、心の底からそう言えたのならどれだけ良かったか。
和之との不倫の発覚から真弓とは連絡を断絶し、暫くして彼女は災害で命を落とし、帰ってきてからは友人として近く居た彼女を信じる事が出来ずに遠ざけてきた。
恨み言の1つでも聞けたのなら何か違ったのかもしれない。しかし香樹実の中に居る真弓はくだらない事でケラケラと笑い合う彼女の表情しか思い出せずにいた。
この気持ちの置き場所は…どこにすれば良いのだろう…
香樹実は、重いからっぽを抱えたまま、群青に染まる世界を見つめながら小さな溜息を一つ漏らした。
私は、何の為にここに居るのだろうか?
オレンジと黒に染まる世界を呆然と眺めながら香樹実は、小さな溜息を漏らした。
規則的な音と振動を鳴らしながら走る電車はそんな香樹実の気持ちを置いてけぼりにしながら目的地へと向かい走っていた。
「辛気臭い顔してるね」
隣に座る、藤の言葉に香樹実はそっと俯いた。
「私達、今日何をしてたんでしょか?」
今日も阿部の行確の調査だった筈なのにしていた事と言えば事務所に篭って起きた事に右往左往していただけだ。
大浦が意識を失い救急車で運ばれ、阿部が入ったビルが火災にあい安否不明。
明らかに色んな事が起きている中で自分達は蚊帳の外に居て何も助けられなかった。
そんな事でここに居ていいのか、なんの為にこの時代に帰ってきてしまったのだろうか…
そんな考えが頭の中でグルグルと回っていた。
「何も出来なかった、それが紛れも無い応えね」
藤は、バッサリと言い切ると香樹実の顔を覗いてきた。
「でも、料理にドライバーとか使わないでしょ、今回はそんなもんだったんじゃないの?」
はっ?
唐突の物の喩えに香樹実は、顔を上げて藤の顔をマジマジと見てしまった。
「ドライバー?」
「知らない?ほらネジ回のドライバー」
「いや、それはわかってますけど、なんでドライバー?」
「さぁ?昔私も言われただけだからね、本当になんでドライバーだったんだろ?」
藤は悪びれることも無く無表情のままそう応え、そんな表情を見てて思わず香樹実は吹き出してしまった。
藤もまたそんな香樹実の砕けた表情を見て少しだけホッとした表情浮かべた。
「これから暇?少し付き合ってよ」
そんな藤の一言で香樹実達は、池袋から下った志木駅へと向かうと駅から暫く歩き、1軒の民家へと入っていった。
正確に言うなら民家の装いをしたカフェだ。
黒い看板には、《陽だまり》と書かれていた。
こんな所に隠れ家カフェなんてあったんだ。
香樹実は、素直に驚きながらな店内に入ると2席のカウンター席とテーブル席、そしてテラス席があった。
藤は、慣れた足取りでテーブル席へ座り、香樹実もまたそれに習う様に目の前の席へと座った。
「いらっしゃいませ」
柔和な表情の中年の女性が水の入ったコップを持ってくると藤は直ぐにアイスコーヒーを頼み、香樹実はアイスティーを注文した。
程なくして注文した商品が運ばれ香樹実は喉を潤すと同時にアイスティーの風味に自分の奥の中の何かが解けていくのを感じた。
藤もまたアイスコーヒーを飲みながら安堵した表情しながらゆったりと香樹実へ目を向けた。
「ゴメンね、正直私にはアナタを傷つけないでその内を聞く方法をしらない、だから多分キツい言い方になるとは、思うけど、教えてアナタ今日変よ?」
あぁなんて真っ直ぐな言葉なのだろう。
香樹実は、少しだけ苦笑しながらゆっくりと俯いた。
「先輩に私の過去をちゃんと話したことないですよね?」
「えぇ」
「どこから話せばいいのかな…そう私には2人の子供がいました、1人はお腹を痛めた産んだ子、もう1人は先に亡くなった妹の子供…」
そう、言葉に出すと、あどけなく暖かい笑みを浮かべていた子供達の顔が過ぎった。
「私の絶望は2回起きました、一回目はお腹を痛めて産んだ子が先天性の心臓病で亡くなった時…まだ4歳だって言うのに最後は意識を失ったまま亡くなりました…あの時は本当に最低だったなぁ…」
「辛いわよね…」
どう答えたら良いのかわからないのか藤の表情が曇っていく、その表情を見て香樹実は、これ以上話すかどうか迷ったが、その目から全てを受け止め様とする光を感じて話すことを決意した。
もしかしたら、本当は自分が語りたくてそういう風に思い込んだ、だけかもしれなかったが、それは余りにも些末な事だった。
「最低なのは、それだけじゃないんですよ、その子…和穂が亡くなった時、旦那、どこに居たと思います?」
そう口火を切ると抑え込んでいた記憶と思いの濁流が決壊した。
人工呼吸器に繋がれ、辛うじて生きている幼いわが子の心拍が止まったあの瞬間、何度も携帯電話にかけても出ない旦那、あれは黄昏時だった。
ついにその心臓は動くことをやめ、その目は二度と開けられること無かった。
あの日、全ての世界が暗闇に落ちた。
旦那と連絡がついたのは、和穂が亡くなって2時間後、起きたての様な間の抜けた声を上げていたのを今でも覚えている。
最初は、言葉を理解できなかったのだろう、数秒後の間の後、掠れた声と慌てふためく音、そして聞き覚えのある女性の慌てた声。
そして、乱れたスーツで病院に現れた旦那から何処かで嗅いだことのあるシャンプーの匂い。
その匂いが何処で嗅いだのか思い出したと同時に香樹実の世界はより一層、深く暗い闇へと落ちていく。
そして、その匂いの主は、和穂の葬式の時にそれらしい顔で泣きそうになりながら自分の手を取って慰めの言葉をくれた。
どんな気持ちだったのだろうか?あざけ笑っていたのだろうか?それとも本当に同情していてくれたのだろうか?
今でもはもうわからない。
彼女は、あっちの世界でも、そして、この世界でも、もう居ないのだから。
「ちょ…まって…もしかして不倫相手って…」
掻い摘んだ話でも藤は、理解したのだろう。
香樹実の言葉に曇りの表情はいつの間にか驚愕と怒りのモノへと変化していた。
「中学の頃からの友人で笹野 真弓、そして旦那の名前が車木 和之、こっちも中学からの長い付き合いです」
そんな藤とは、裏腹に当人である筈の香樹実は淡々とした口調で応えた。
藤の表情は何も変わらなかったが途中何かを納得した様に数度頷いた。
「なるほどね、だから彼はアナタにベッタリくっついてアナタは彼をずっと毛嫌いしてたのね…間違えてたら恥ずかしいけど、もしかしてこの前の車木の行動がおかしたかったのってもしかして…?」
「そうです、先日の行確調査中に出会ったのが真弓です」
香樹実の応えに納得した様に藤は、背もたれに体を預けた。
「離婚はしなかったの?」
「調停中でした、私は離婚したかったんですけど向こうがゴネて、そしてアレが起きたんです」
何か思い出したのか藤は苦笑しながら小さな溜息を漏らしていた。
「そうなったら離婚とかそれどころじゃなかったでしょうね」
「向こうは、何かと私を気にかけてたんですけどね、煩わしいとしか思えませんでした」
「そりゃそうでしょ、でもだとしたらそんな表情なのは、何故?車木も離れたし逆に清々したんじゃないの?」
「本当ならそうなんでしょうね、真弓とも切れたんですし…でも、流石にあの爆破で死んだと知ったら…なんか、分からなくなってきて…」
香樹実の言葉に藤が無表情のままに膠着し、香樹実もそれ以上何を言ったらいいのかわからないまま止まってしまった。
「間違いないの?」
「はい、最初はリンクで見えて、昨日、連絡網で回ってきました…」
清々した、心の底からそう言えたのならどれだけ良かったか。
和之との不倫の発覚から真弓とは連絡を断絶し、暫くして彼女は災害で命を落とし、帰ってきてからは友人として近く居た彼女を信じる事が出来ずに遠ざけてきた。
恨み言の1つでも聞けたのなら何か違ったのかもしれない。しかし香樹実の中に居る真弓はくだらない事でケラケラと笑い合う彼女の表情しか思い出せずにいた。
この気持ちの置き場所は…どこにすれば良いのだろう…
香樹実は、重いからっぽを抱えたまま、群青に染まる世界を見つめながら小さな溜息を一つ漏らした。
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