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【PW】AD199908《執悪の種》
炎の虚ろ 4
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遠のいていく街の音、暑さを忘れていく感覚、再び落ちていく。
でも、何故?
視覚共有しているからなのか?
暁は、落ちていくのに戸惑いながら誘われる様に体をゆっくりと劇場通りに向け、そして歩き出した。
「アキさん!?」
後ろから聞こえるマツの声になんら反応を示す事は無い。
聞こえているし、わかっている。
だけどそれよりも何よりもそこに向かわないといけない。
そんな感覚だけが暁の足を動かしていた。
劇場通りに出ると1台の車両に目が向いた。
なんてことは無い白いワンボックスカーがこちらを向きで車道に停車していた、暁はどうしてもその車が気になりゆっくりと近づいていく。
「避けろ!」
唐突に後ろから聞こえる男の声と共に体を引っ張られ、通りにあるビルの出入口へと後ろから引っ張り込まれた。
何が起きてる?
そう思った矢先、轟音と共に弾ける音が聞こえた。
その音に暁は、聞き覚えがある。
乾いていて炸裂させる音、銃声だ。
そして、弾ける音は、硬い物に着弾して削った音だ。
暁を庇う様に若い背中が前に出ると雑居ビルの壁の影から通りのワンボックスカーへ目を向けていた。
銃声がしたのは、確かにワンボックスカー方面だった、だがそこから銃の影もそれを構える人間の影も見えなかった。
どこから?
「リンクに落ちてる?アキさん?」
目の前に庇う様に立っている若い男の背中が振り返り、見知ったハルの顔が見えた。
「ハル?お前?任務は?」
呆然としながらも暁がそう言うとハルは、肩を竦めた。
「終わって報告途中、嫌な予感がして来てみて正解だったわ」
ハルは、そう言いながら再び壁から顔を出してワンボックスカーの様子を伺った。
《隊長!?今の銃声は?》
マツの声が響き、暁は慌てて彼女の姿を探し、少し戻った通りの曲がり角にいるを見つけた。
ハルもまたマツの姿を見つけたのだろう手をヒラヒラと踊らせる様に合図を送っていた。
《チャンネルは大丈夫、向こうとは変えてます》
マツの返答にハルは、軽く数度頷いた。
《銃は歩道から、2件先の雑居ビルの出入口にいる金髪のチンピラが撃った、何者かはわからん、あのワンボックスカーに接近して欲しく無いみたいだ》
《だとしても撃ちます?》
《本来なら撃たない足がつくからな、素人だろ》
ハルは、そう言いながら再び顔を出すと荒くかけられたエンジン音とけたたましいクラクション音が響いた。
暁もまた自然と視線と体を車道へ向けるとワンボックスカーが猛スピードで駆け抜けていく。
その一瞬、後部座席の1人と暁は目が合った。
「阿部だ!阿部があの車に乗ってる!」
暁が反射的に言うと、ハルとマツが通り過ぎたワンボックスカーに目を向けた。
《ナンバー控えました》
冷静なマツの声が響き、ハルは静かに頷いた。
何故、阿部がワンボックスカーに?
何より、どうして銃撃がなんてされた?
濁流の様に起きた出来事に一切の整理が出来ないまま暁は、目の前の世界がゆっくりと黒く染まり、そのまま意識を失った。
目が覚めると見慣れない蛍光灯と天井、消毒液の匂いで病院だと直ぐに察した。
「お目覚めですか?」
聞きなれた声、しかしいつも無い棘が言葉の中に感じる。
これは、結構怒ってるかも…
寝覚めには、最悪な状況にもう一度目をつぶろうかと思ったが曲がりなりにも相手は医者だ下手な嘘は通じないだろうと思いゆっくりと体を起こそうとしたが直ぐに両肩を抑えられ寝かしつけられた。
「起きなくて結構」
目の前に見慣れた顔が現れ、暁は恐る恐るその眼を見た、表情は確かに怒っているがその目が語るのは、また違う色だった。
「気絶したのか?」
「みたいね?気分はどう?」
「スッキリしてる、どれぐらい意識を?」
「ざっと、3時間かな」
3時間か…
そう思いながら暁は、ゆっくりとまだ肩に触れてる手を指で撫でた。
「すまん…」
そう言うと、梨花は小さな溜息を漏らした。
「別に無茶しないとは、思ってないけど…」
出来れば命は大事にして欲しい。
以前から言われていた言葉だ。
「連絡は崇央から?」
「まぁね、とりあえず、検査の結果、恐らく過労だろうって、今日1日寝てれば大丈夫だって」
過労…そんな無茶した気は無いのだが…
暁は、ゆっくりと視線を周囲に向けた。
まさかの個室に崇央は何を考えているのかと少し考えたがとりあえず、入院費は請求してやろうと思いながらゆっくりと体を起こした。
梨花が再度寝かせ様としてきたがそれを手で制止しながら体を起こした。
「別に無茶なことをしたわけじゃないんだよ」
「じゃあ何で倒れるのよ?」
「俺にもわからん」
暁の答えに梨花が怪訝な表情を浮かべ、暁は倒れる迄の顛末を話した。
梨花には以前から医者としての見解を聞く為にリンクの事も話していた事もあった為に話はスムーズに進んだ。
本来なら一般人の梨花に話すべきでは無いのは、重々承知しているのだが、暁も人の子である。
明らかにこの情報を1人で抱え込む事は、出来ず、何よりも信頼している梨花だからこそ話していた。
「つまり、暁もリンクを使える様になったの?」
「無意識的だけど、恐らく」
「それが一番危なくない?」
制御出来ない力、それはしいて言うのならば始終、ずっと全力で動き回っているのと同じだ。
人間の体は、確かに治癒するがそれは色々制限して余った力を治癒に注いでいるから出来ることであり、その制限が壊れているとなれば次に待つのは停止、つまり終わりだ。
梨花の言葉は、より一層、暁自身の立場の悪さを知らせてきた。
そっと柔らかい感触を感じて手を見ると梨花がゆっくりと両手で握りしめていた。
「お願い…無茶はしないでとは、言わない…死なないで」
暁は、梨花の存在に何度も救われてきた。
実生活でも仕事で回らなかった暁の部屋の掃除や身の回りの世話などもしてくれているのは、勿論だが、何よりも大きいのは精神的なところだ。
恐らく梨花の存在が無ければ暁は自分自身この仕事を続けて居られたのかわからない。
本当なら死なないと誓いたい。
だけど、それは同時に梨花に対して嘘をつく事になる、梨花はそれでも良いのかもしれないが誰よりも裏切りたくない人物だからこそ暁はその言葉を言えなかった。
暁に出来たのは、握り締めている梨花の手を握り締め返す事しか出来なかった。
「あんな良い人、大事にしないと地獄行きですね」
イタズラな笑みを浮かべる伊澄の顔が頭を過ぎる。
本当にそうだよな…
暁はかつての伊澄に返しながらゆっくりと梨花を抱き寄せた。
でも、何故?
視覚共有しているからなのか?
暁は、落ちていくのに戸惑いながら誘われる様に体をゆっくりと劇場通りに向け、そして歩き出した。
「アキさん!?」
後ろから聞こえるマツの声になんら反応を示す事は無い。
聞こえているし、わかっている。
だけどそれよりも何よりもそこに向かわないといけない。
そんな感覚だけが暁の足を動かしていた。
劇場通りに出ると1台の車両に目が向いた。
なんてことは無い白いワンボックスカーがこちらを向きで車道に停車していた、暁はどうしてもその車が気になりゆっくりと近づいていく。
「避けろ!」
唐突に後ろから聞こえる男の声と共に体を引っ張られ、通りにあるビルの出入口へと後ろから引っ張り込まれた。
何が起きてる?
そう思った矢先、轟音と共に弾ける音が聞こえた。
その音に暁は、聞き覚えがある。
乾いていて炸裂させる音、銃声だ。
そして、弾ける音は、硬い物に着弾して削った音だ。
暁を庇う様に若い背中が前に出ると雑居ビルの壁の影から通りのワンボックスカーへ目を向けていた。
銃声がしたのは、確かにワンボックスカー方面だった、だがそこから銃の影もそれを構える人間の影も見えなかった。
どこから?
「リンクに落ちてる?アキさん?」
目の前に庇う様に立っている若い男の背中が振り返り、見知ったハルの顔が見えた。
「ハル?お前?任務は?」
呆然としながらも暁がそう言うとハルは、肩を竦めた。
「終わって報告途中、嫌な予感がして来てみて正解だったわ」
ハルは、そう言いながら再び壁から顔を出してワンボックスカーの様子を伺った。
《隊長!?今の銃声は?》
マツの声が響き、暁は慌てて彼女の姿を探し、少し戻った通りの曲がり角にいるを見つけた。
ハルもまたマツの姿を見つけたのだろう手をヒラヒラと踊らせる様に合図を送っていた。
《チャンネルは大丈夫、向こうとは変えてます》
マツの返答にハルは、軽く数度頷いた。
《銃は歩道から、2件先の雑居ビルの出入口にいる金髪のチンピラが撃った、何者かはわからん、あのワンボックスカーに接近して欲しく無いみたいだ》
《だとしても撃ちます?》
《本来なら撃たない足がつくからな、素人だろ》
ハルは、そう言いながら再び顔を出すと荒くかけられたエンジン音とけたたましいクラクション音が響いた。
暁もまた自然と視線と体を車道へ向けるとワンボックスカーが猛スピードで駆け抜けていく。
その一瞬、後部座席の1人と暁は目が合った。
「阿部だ!阿部があの車に乗ってる!」
暁が反射的に言うと、ハルとマツが通り過ぎたワンボックスカーに目を向けた。
《ナンバー控えました》
冷静なマツの声が響き、ハルは静かに頷いた。
何故、阿部がワンボックスカーに?
何より、どうして銃撃がなんてされた?
濁流の様に起きた出来事に一切の整理が出来ないまま暁は、目の前の世界がゆっくりと黒く染まり、そのまま意識を失った。
目が覚めると見慣れない蛍光灯と天井、消毒液の匂いで病院だと直ぐに察した。
「お目覚めですか?」
聞きなれた声、しかしいつも無い棘が言葉の中に感じる。
これは、結構怒ってるかも…
寝覚めには、最悪な状況にもう一度目をつぶろうかと思ったが曲がりなりにも相手は医者だ下手な嘘は通じないだろうと思いゆっくりと体を起こそうとしたが直ぐに両肩を抑えられ寝かしつけられた。
「起きなくて結構」
目の前に見慣れた顔が現れ、暁は恐る恐るその眼を見た、表情は確かに怒っているがその目が語るのは、また違う色だった。
「気絶したのか?」
「みたいね?気分はどう?」
「スッキリしてる、どれぐらい意識を?」
「ざっと、3時間かな」
3時間か…
そう思いながら暁は、ゆっくりとまだ肩に触れてる手を指で撫でた。
「すまん…」
そう言うと、梨花は小さな溜息を漏らした。
「別に無茶しないとは、思ってないけど…」
出来れば命は大事にして欲しい。
以前から言われていた言葉だ。
「連絡は崇央から?」
「まぁね、とりあえず、検査の結果、恐らく過労だろうって、今日1日寝てれば大丈夫だって」
過労…そんな無茶した気は無いのだが…
暁は、ゆっくりと視線を周囲に向けた。
まさかの個室に崇央は何を考えているのかと少し考えたがとりあえず、入院費は請求してやろうと思いながらゆっくりと体を起こした。
梨花が再度寝かせ様としてきたがそれを手で制止しながら体を起こした。
「別に無茶なことをしたわけじゃないんだよ」
「じゃあ何で倒れるのよ?」
「俺にもわからん」
暁の答えに梨花が怪訝な表情を浮かべ、暁は倒れる迄の顛末を話した。
梨花には以前から医者としての見解を聞く為にリンクの事も話していた事もあった為に話はスムーズに進んだ。
本来なら一般人の梨花に話すべきでは無いのは、重々承知しているのだが、暁も人の子である。
明らかにこの情報を1人で抱え込む事は、出来ず、何よりも信頼している梨花だからこそ話していた。
「つまり、暁もリンクを使える様になったの?」
「無意識的だけど、恐らく」
「それが一番危なくない?」
制御出来ない力、それはしいて言うのならば始終、ずっと全力で動き回っているのと同じだ。
人間の体は、確かに治癒するがそれは色々制限して余った力を治癒に注いでいるから出来ることであり、その制限が壊れているとなれば次に待つのは停止、つまり終わりだ。
梨花の言葉は、より一層、暁自身の立場の悪さを知らせてきた。
そっと柔らかい感触を感じて手を見ると梨花がゆっくりと両手で握りしめていた。
「お願い…無茶はしないでとは、言わない…死なないで」
暁は、梨花の存在に何度も救われてきた。
実生活でも仕事で回らなかった暁の部屋の掃除や身の回りの世話などもしてくれているのは、勿論だが、何よりも大きいのは精神的なところだ。
恐らく梨花の存在が無ければ暁は自分自身この仕事を続けて居られたのかわからない。
本当なら死なないと誓いたい。
だけど、それは同時に梨花に対して嘘をつく事になる、梨花はそれでも良いのかもしれないが誰よりも裏切りたくない人物だからこそ暁はその言葉を言えなかった。
暁に出来たのは、握り締めている梨花の手を握り締め返す事しか出来なかった。
「あんな良い人、大事にしないと地獄行きですね」
イタズラな笑みを浮かべる伊澄の顔が頭を過ぎる。
本当にそうだよな…
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