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山月 春舞《やまづき はるま》

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【PW】AD199908《執悪の種》

轟音 2

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   唐突に向かれた視線に動揺して足を止めそうになったが暁はすぐに建て直し何気無い振りをして青いバンダナの男と視線を合わせたまま歩き出した。
   目を合わせるのは、長くても3秒、暁は頭の中で3秒を計測しながら2秒を計り目を逸らそうとした時だった。
   青いバンダナの男は、暁に向かい指を刺すとゆっくりと指先を反対方向のサンシャイン通りに向う五叉路へ向けた。
   暁は、視線を逸らす事が出来ずにその指先を追い五叉路を見ると全身に刺さる様な寒気が走り、横断歩道を渡っている足が止まってしまった。

   何だ、この感覚…
   初めてに近い感覚だが、何処か似た感覚を体感したのを思い出した。

   何処だ?何処でだ?
   そんな事を思い出しながら指を刺された五叉路と青いバンダナの男を交互に注視をしていた。

   黒髪の男の顔が頭を過ぎる。
   そうだ、これはあの男と会った時と似ている。

   柔和でスマートな佇まいに隠された狂気に似た攻撃性、殺気と言っても過言では、無い。
   鋼和組の槙島、そうあの男が持っていた雰囲気と似ている。

   だが、今感じるのは、その何倍も不快で全身を悴ませる程の寒気だ。
   誰だ?誰がそんなものを…

   暁がそう思いながら五叉路を見ていると1人の青年の姿が人混みの中でゆっくりとクローズアップされていく。
   黒髪で黒いシャツに肩掛けカバン。
   何処か、暗そうな雰囲気が人混みの中で妙な違和感として暁の中でまとわりついた。

   黒髪の青年は、少しだけ俯きかげんで立っていたがゆっくりと顔を上げると肩掛けカバンの中に手を入れた。

   暁の背中に寒気と電流が同時に走り、気づくと反射的に星見達の方へ目を向けていた。

   星見達は、まだその場で押し問答をしている。
   クッソ!
   暁は、駆け足で彼等に近づくと星見達を細道の方へ突き飛ばす様に押し込んだ。

「全ては、始まりに帰る!!!!」

   怒声に近い声が聞こえ、その内容に暁の気が持ってかれた次の瞬間、大地を揺らす程の轟音と風が吹き荒れた。
   その風に暁は、足を持ってかれそうになったが体を丸めて耐えると次に夏の日差しとは、違う熱風が頬やむき出しの腕を襲った。

   木霊する悲鳴とその場から逃げ様とする人達の波が押し寄せてくる。
   それと同時に今の音が何なのかと顔を出す人達で周囲は、混沌の坩堝だった。
   人混みで見えないが五叉路の方向から煙と微かな火の粉が舞っていた。
   暁は直ぐに阿部と青いバンダナの男を探そうと視線を走らせたが多くの人達でその姿は、見れなかった。

「香樹実?」

   車木の戸惑いの声に暁は、目の前にいる星見に目を向けると星見は、青い顔をしながらその場にへたり込んでいた。

「とりあえず、全員事務所へ、早く」

   改めて暁が強く言うと熊切と2人で星見を支えながら立ち上がらせるとあえて駅の中を外して北口の地上連絡通路から西側に出ると程なくして商店街の中にある事務所のある雑居ビルに着いた。

   尾行されてる形跡は、見当たらなかった事を確認しながら事務所に入ると星見達を来客用のソファーに座らせて暁は直ぐに崇央の居る室長室へと入っていった。

「外が騒がしいけど何が起きた?」

   崇央は、暁の顔を見るなり開口一番に聞いて来た。

「東口の五叉路の交差点で爆破だ」

   暁の応えに崇央の表情が険しいものになった。

「こちらに被害者は?」

「少し離れてたから特別怪我したとかは、ないけど、恐らく対象に存在がバレた可能性が高い」

   崇央は、その応えに頷きながら小さな溜息をもらし室長室のテレビをつけた。
   平日の午後のテレビは、ワイドショーや再放送のドラマばかりが流れていた。

「まだ、報道されてない?」

「ほんの10分ぐらい前の話だからな」

「とりあえず、先輩ところのメンツは返して、先輩はここに留まって下さい」

   崇央が暁に向かいそう言うと同時に緊急速報のサイレンがテレビから流れてきた。

《都内数カ所で爆発事件発生、発生地は以下の通り、豊島区池袋、渋谷区渋谷、新宿区歌舞伎町…》

「都内数カ所?」

   何が起きてる。
   暁と崇央は、ただテレビから流れる情報をただ呆然と飲み込むことしか出来ずにいた。
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