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 まさかね……

そう思いながらもお菓子やお茶を運んでいく。
運びながらもやっぱり気になるから話を聞いてしまう。

「今度城で意見交換があるらしいな」

どうやらまだいろいろな人達の考えを聞く段階らしい。

「あぁ、いずれ他国とも協力していく大きな事業になるだろうな」

私もそう思うよ……

「それにしても、ローズ姫様は突然凄いことを思い付くものだな」

カイル様がそう言うとルシェナ様が

「何でも黒髪の女神様のご神託があったそうですよ」

ルシェナ様は時々お城でローズ様とお茶を飲むらしい。
それにしてもローズ様も……またとんでもないことを言うなっ……

「神託ねぇ……」

カイル様は半信半疑……

「謙遜のできる王族は民に好かれるからいいだろう」

イアン様は信じていない。

「女神様からのお言葉ならこの計画は成功しますね」

黒髪の女神様か……僕もお会いしてみたいな……と。
リアム様は意外と信じている……?

「成功するかはわからないぞ。まぁ……私達の努力次第だな」

どこまでも現実的なイアン様。

「そうだね、何せ国内だけではなく最終的に各国を移動できるようにと考えているからね」

カイル様がイアン様に私に向けるのとは全く違う笑顔で賛同する。ここはもう気にしても仕方がない。

それにしても、やっぱり列車の話しだよね……

やってしまったかとも思ったけれども一番大変そうなところは皆さんが考えてくれるし便利になるのならいいか……と切り替える。

「それにしても……女神か……リアザイアやザイダイバの一部の貴族も一時期口にしていたらしいが、しばらくすると様子が少し変わっていて女神の話しは二度としなかったとか……」

ザイダイバで魔獣達と戦ったときの奇跡のお話かな……
あれだけの人数……口止めは難しいよね……

それにしても私は姿を見せていなかったのに女神が登場するとは。

まぁ……戦場には女神が付きものか……ローズ様は黒髪の、とまで言っているし……

そしてカイル様の情報網……というかその貴族達に何があったのか……

「とにかく、こういう大きな事業が動き出すと不正を働こうとする貴族は必ず出てくる。いろいろな人や物、金の流れにも気を付けて、管理する者の人選も慎重にしなければならない」

カイル様がまともな事を言っている。

「莫大な金が動くが……国民の協力も必須だからな。正当な報酬が支払われるよう予算も修正していかなければならないだろう」

最近の四人でのお茶会はこんな感じらしい。

これから新しいことが始まる期待と不安……できるだけたくさんの人達と話して……意見をぶつけ合っていくのだろう。

始まりはこの国から……ここから広がっていく。
きっと上手くいく、そんな気がする。


「今度一緒にお茶を飲みましょう」

帰り際にルシェナ様がそっと話しかけてきた。
もちろん喜んで、と微笑む。

「居場所がなくなったら雇ってやるからうちにこい」

メイド服を着させてやる、とカイル様。
残念ながらメイド服に抵抗はない。

有難いことにルシェナ様もカイル様も心配してくれていたみたい。

こうしてお茶会も終わりダンストン伯爵家での仕事を全うすることができた。


その日の夜、アルとイーサンから今夜は飲むぞ、と言われていたから夜、リビングへ下りて行くと寮のみんなが揃っていた。

「ノア、お疲れ様」

ハリスさんが高そうなお酒を持っている。

「こちらへおいで」

差し出されたセドリックさんの手をとる。

前に出てみんなの顔を見る……こんなことされたら本当にお別れするみたいで……まぁ……寮は出ていくのだけれども……

なんだか寂しくなる……

「みんな……あ……ありが……」

ジワリと目頭が熱くなる……

「ノアーッ」

と真っ先に抱き付いてきたのはセオドア……

「聞いてくれよ、俺もノアと一緒に出ていくっていうのにみんな俺には無関心なんだよぉっ」

セオドア……ヨシヨシ。とりあえず頭を撫でてみんなを見る。

「レオン……お前は女の子にモテすぎ」

「仕事もできるし気も利くし完璧すぎ」

「しかもいいヤツだし」

セオドア、煙たがられてもいるけれどみんな寂しいってさ、そう囁くとセオドアもみんなを見る。

おまえらっ……といいながら嬉しそうに抱き付いていくセオドアを鬱陶しそうにしながらもちゃんと受け止めている。

それからハリスさんとセドリックさんがお酒を開けて仕事に支障がない程度にみんなが飲み始める。

セオドアと私は仕事はないのだから、とお酒をたくさん勧められて……セオドアが私の分もたくさん飲んでくれた。

「それにしても……寂しくなるなぁ」

そう言って後ろから私の首に腕を回し頭にキスをするのはセドリックさん。

「……セドリックさん酔ってます?」

んー? と私の頭に頬擦りをする……

「まぁ……ノアは可愛いしな、いなくなるのは残念だが……」

ハリスさんが私からセドリックさんを引き剥がしながら話す。

「クルクスの躾が終わってもここで一緒に働いてくれるかもしれないと勝手に私達が思っていただけだ」

ハリスさん……

「……また、皆さんに会いに来てもいいですか……」

みんながいっせいにこっちをみて当たり前だろ、と笑う。
なんなら毎週顔を見せに来いと。
リアザイアに帰るからそれはちょっと……でも嬉しい。

「皆さん、お世話になりました。ありがとうございました」

ちゃんとお礼も言えたところでみんな明日も仕事があるからお開きになった。

私は酔っているセオドアに肩を貸して一緒に部屋へ戻る。
ベッドに寝かせるとトーカ……と抱き寄せられてしまった。

「トーカ……」

眠そう……

「セオドア、お水を持って来るから」

そう言うと腕を緩めてくれた。
キッチンへ行ってお水を持って戻ると……寝たのかな。

布団をかけてあげようとコップを置いて近づくと

「ト……カ……俺と婚……諦めな……」

まったく……どこまで本気なのか……
こんな感じだから忘れてしまいそうになるけれどもセオドアはザイダイバの第二王子なんだよね……

自由……というかそう見せているのか……
そっと頭を撫でる。
本当はたくさん仕事を抱えているのだろうけれど私のためにここに残ってくれた。

いい人なんだよなぁ……

これまで会ってきた王族の中で一番平民の生活を知っているのは彼だと思う。

少しふざけているように見られるかもしれないけれど、日に焼けようが服が汚れようが気にせず楽しそうに、けれども仕事は真面目にする。

そんな明るい彼にみんな惹かれていくのだろう。

「ありがとう……」

起こさないように小さな声でそう言い布団をかけてあげるとフフッと気持ち良さそうに笑う。
なんだか子供みたいだ……私も思わず微笑む。

おやすみ、と囁いて私はゲートで山の家へ帰った。


翌朝、寮に戻るとセオドアが

「酷いよトーカ。一緒に寝ようって言ったのに」

と荷物を纏めながら私を責める……
そんなことを言った覚えはないから聞き流そう……

「荷物を纏めたらダンストン伯爵様にご挨拶に行こう」

お世話になったお礼と、セオドアと私、二人とも雇ってくれると言ってくれたお礼を言う。
それから時々クルクスさんと寮のみんなに会いに来てもいいですかと聞いてみると

「イアンとリアムにも会いに来てやってくれ、もちろん私にも。ここに戻りたくなったらいつでも言ってほしい」

有難いことにそう言ってくれた。
もう一度お礼を言ってセオドアと一緒にダンストン伯爵家を後にした。

お屋敷を離れて人気のないところまで歩く。
その間にセオドアと話をして一緒にベゼドラ王国へ行くことになった。

いきなりお城にセオドアを連れていくのはなんだか躊躇われたのでイシュマの家の私の部屋にゲートを繋げてくぐる。

家の中は静かでもしかしたらイシュマはエマを連れて湖に行っているのかもしれない。

とりあえずお茶をいれようか、とキッチンへ向かいセオドアにはリビングのソファーに座ってもらった。

外から馬の足音が聞こえてきてイシュマが帰ってきたみたいなので外へ出てみる。

「トーカッ」

お帰り、と私に抱き付き……ギュウギュウと抱き締める……

「イシュ……グェ……く、くるし……」

ごめん、嬉しくてとフニャリと笑うイシュマを怒れませんでした。

油断している私をもう一度抱きしめてから流れるようにキスをしようとしてくるイシュマの口を手で塞ぐ。

それでも嬉しそうに笑うイシュマの視線が家の方に向くと鋭くなる。
私の手首を取り口から離すと

「知らないヤツがいる」

……声……低っ……

「イシュマ、勝手に連れてきてごめん。説明するから」

あ……あれ? イシュマ? おーい……
鋭い視線はセオドアを捉えたまま……


二人ともごめん、ちゃんと説明してから来るべきでした……

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