246 / 251
246
しおりを挟むまさかね……
そう思いながらもお菓子やお茶を運んでいく。
運びながらもやっぱり気になるから話を聞いてしまう。
「今度城で意見交換があるらしいな」
どうやらまだいろいろな人達の考えを聞く段階らしい。
「あぁ、いずれ他国とも協力していく大きな事業になるだろうな」
私もそう思うよ……
「それにしても、ローズ姫様は突然凄いことを思い付くものだな」
カイル様がそう言うとルシェナ様が
「何でも黒髪の女神様のご神託があったそうですよ」
ルシェナ様は時々お城でローズ様とお茶を飲むらしい。
それにしてもローズ様も……またとんでもないことを言うなっ……
「神託ねぇ……」
カイル様は半信半疑……
「謙遜のできる王族は民に好かれるからいいだろう」
イアン様は信じていない。
「女神様からのお言葉ならこの計画は成功しますね」
黒髪の女神様か……僕もお会いしてみたいな……と。
リアム様は意外と信じている……?
「成功するかはわからないぞ。まぁ……私達の努力次第だな」
どこまでも現実的なイアン様。
「そうだね、何せ国内だけではなく最終的に各国を移動できるようにと考えているからね」
カイル様がイアン様に私に向けるのとは全く違う笑顔で賛同する。ここはもう気にしても仕方がない。
それにしても、やっぱり列車の話しだよね……
やってしまったかとも思ったけれども一番大変そうなところは皆さんが考えてくれるし便利になるのならいいか……と切り替える。
「それにしても……女神か……リアザイアやザイダイバの一部の貴族も一時期口にしていたらしいが、しばらくすると様子が少し変わっていて女神の話しは二度としなかったとか……」
ザイダイバで魔獣達と戦ったときの奇跡のお話かな……
あれだけの人数……口止めは難しいよね……
それにしても私は姿を見せていなかったのに女神が登場するとは。
まぁ……戦場には女神が付きものか……ローズ様は黒髪の、とまで言っているし……
そしてカイル様の情報網……というかその貴族達に何があったのか……
「とにかく、こういう大きな事業が動き出すと不正を働こうとする貴族は必ず出てくる。いろいろな人や物、金の流れにも気を付けて、管理する者の人選も慎重にしなければならない」
カイル様がまともな事を言っている。
「莫大な金が動くが……国民の協力も必須だからな。正当な報酬が支払われるよう予算も修正していかなければならないだろう」
最近の四人でのお茶会はこんな感じらしい。
これから新しいことが始まる期待と不安……できるだけたくさんの人達と話して……意見をぶつけ合っていくのだろう。
始まりはこの国から……ここから広がっていく。
きっと上手くいく、そんな気がする。
「今度一緒にお茶を飲みましょう」
帰り際にルシェナ様がそっと話しかけてきた。
もちろん喜んで、と微笑む。
「居場所がなくなったら雇ってやるからうちにこい」
メイド服を着させてやる、とカイル様。
残念ながらメイド服に抵抗はない。
有難いことにルシェナ様もカイル様も心配してくれていたみたい。
こうしてお茶会も終わりダンストン伯爵家での仕事を全うすることができた。
その日の夜、アルとイーサンから今夜は飲むぞ、と言われていたから夜、リビングへ下りて行くと寮のみんなが揃っていた。
「ノア、お疲れ様」
ハリスさんが高そうなお酒を持っている。
「こちらへおいで」
差し出されたセドリックさんの手をとる。
前に出てみんなの顔を見る……こんなことされたら本当にお別れするみたいで……まぁ……寮は出ていくのだけれども……
なんだか寂しくなる……
「みんな……あ……ありが……」
ジワリと目頭が熱くなる……
「ノアーッ」
と真っ先に抱き付いてきたのはセオドア……
「聞いてくれよ、俺もノアと一緒に出ていくっていうのにみんな俺には無関心なんだよぉっ」
セオドア……ヨシヨシ。とりあえず頭を撫でてみんなを見る。
「レオン……お前は女の子にモテすぎ」
「仕事もできるし気も利くし完璧すぎ」
「しかもいいヤツだし」
セオドア、煙たがられてもいるけれどみんな寂しいってさ、そう囁くとセオドアもみんなを見る。
おまえらっ……といいながら嬉しそうに抱き付いていくセオドアを鬱陶しそうにしながらもちゃんと受け止めている。
それからハリスさんとセドリックさんがお酒を開けて仕事に支障がない程度にみんなが飲み始める。
セオドアと私は仕事はないのだから、とお酒をたくさん勧められて……セオドアが私の分もたくさん飲んでくれた。
「それにしても……寂しくなるなぁ」
そう言って後ろから私の首に腕を回し頭にキスをするのはセドリックさん。
「……セドリックさん酔ってます?」
んー? と私の頭に頬擦りをする……
「まぁ……ノアは可愛いしな、いなくなるのは残念だが……」
ハリスさんが私からセドリックさんを引き剥がしながら話す。
「クルクスの躾が終わってもここで一緒に働いてくれるかもしれないと勝手に私達が思っていただけだ」
ハリスさん……
「……また、皆さんに会いに来てもいいですか……」
みんながいっせいにこっちをみて当たり前だろ、と笑う。
なんなら毎週顔を見せに来いと。
リアザイアに帰るからそれはちょっと……でも嬉しい。
「皆さん、お世話になりました。ありがとうございました」
ちゃんとお礼も言えたところでみんな明日も仕事があるからお開きになった。
私は酔っているセオドアに肩を貸して一緒に部屋へ戻る。
ベッドに寝かせるとトーカ……と抱き寄せられてしまった。
「トーカ……」
眠そう……
「セオドア、お水を持って来るから」
そう言うと腕を緩めてくれた。
キッチンへ行ってお水を持って戻ると……寝たのかな。
布団をかけてあげようとコップを置いて近づくと
「ト……カ……俺と婚……諦めな……」
まったく……どこまで本気なのか……
こんな感じだから忘れてしまいそうになるけれどもセオドアはザイダイバの第二王子なんだよね……
自由……というかそう見せているのか……
そっと頭を撫でる。
本当はたくさん仕事を抱えているのだろうけれど私のためにここに残ってくれた。
いい人なんだよなぁ……
これまで会ってきた王族の中で一番平民の生活を知っているのは彼だと思う。
少しふざけているように見られるかもしれないけれど、日に焼けようが服が汚れようが気にせず楽しそうに、けれども仕事は真面目にする。
そんな明るい彼にみんな惹かれていくのだろう。
「ありがとう……」
起こさないように小さな声でそう言い布団をかけてあげるとフフッと気持ち良さそうに笑う。
なんだか子供みたいだ……私も思わず微笑む。
おやすみ、と囁いて私はゲートで山の家へ帰った。
翌朝、寮に戻るとセオドアが
「酷いよトーカ。一緒に寝ようって言ったのに」
と荷物を纏めながら私を責める……
そんなことを言った覚えはないから聞き流そう……
「荷物を纏めたらダンストン伯爵様にご挨拶に行こう」
お世話になったお礼と、セオドアと私、二人とも雇ってくれると言ってくれたお礼を言う。
それから時々クルクスさんと寮のみんなに会いに来てもいいですかと聞いてみると
「イアンとリアムにも会いに来てやってくれ、もちろん私にも。ここに戻りたくなったらいつでも言ってほしい」
有難いことにそう言ってくれた。
もう一度お礼を言ってセオドアと一緒にダンストン伯爵家を後にした。
お屋敷を離れて人気のないところまで歩く。
その間にセオドアと話をして一緒にベゼドラ王国へ行くことになった。
いきなりお城にセオドアを連れていくのはなんだか躊躇われたのでイシュマの家の私の部屋にゲートを繋げてくぐる。
家の中は静かでもしかしたらイシュマはエマを連れて湖に行っているのかもしれない。
とりあえずお茶をいれようか、とキッチンへ向かいセオドアにはリビングのソファーに座ってもらった。
外から馬の足音が聞こえてきてイシュマが帰ってきたみたいなので外へ出てみる。
「トーカッ」
お帰り、と私に抱き付き……ギュウギュウと抱き締める……
「イシュ……グェ……く、くるし……」
ごめん、嬉しくてとフニャリと笑うイシュマを怒れませんでした。
油断している私をもう一度抱きしめてから流れるようにキスをしようとしてくるイシュマの口を手で塞ぐ。
それでも嬉しそうに笑うイシュマの視線が家の方に向くと鋭くなる。
私の手首を取り口から離すと
「知らないヤツがいる」
……声……低っ……
「イシュマ、勝手に連れてきてごめん。説明するから」
あ……あれ? イシュマ? おーい……
鋭い視線はセオドアを捉えたまま……
二人ともごめん、ちゃんと説明してから来るべきでした……
1
お気に入りに追加
1,173
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした
宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。
聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。
「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」
イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。
「……どうしたんだ、イリス?」
アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。
だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。
そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。
「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」
女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
ぽっちゃり無双 ~まんまる女子、『暴食』のチートスキルで最強&飯テロ異世界生活を満喫しちゃう!~
空戯K
ファンタジー
ごく普通のぽっちゃり女子高生、牧 心寧(まきころね)はチートスキルを与えられ、異世界で目を覚ました。
有するスキルは、『暴食の魔王』。
その能力は、“食べたカロリーを魔力に変換できる”というものだった。
強大なチートスキルだが、コロネはある裏技に気づいてしまう。
「これってつまり、適当に大魔法を撃つだけでカロリー帳消しで好きなもの食べ放題ってこと!?」
そう。
このチートスキルの真価は新たな『ゼロカロリー理論』であること!
毎日がチートデーと化したコロネは、気ままに無双しつつ各地の異世界グルメを堪能しまくる!
さらに、食に溺れる生活を楽しんでいたコロネは、次第に自らの料理を提供したい思いが膨らんできて――
「日本の激ウマ料理も、異世界のド級ファンタジー飯も両方食べまくってやるぞぉおおおおおおおお!!」
コロネを中心に異世界がグルメに染め上げられていく!
ぽっちゃり×無双×グルメの異世界ファンタジー開幕!
※基本的に主人公は少しずつ太っていきます。
※45話からもふもふ登場!!
農業機器無双! ~農業機器は世界を救う!~
あきさけ
ファンタジー
異世界の地に大型農作機械降臨!
世界樹の枝がある森を舞台に、農業機械を生み出すスキルを授かった少年『バオア』とその仲間が繰り広げるスローライフ誕生!
十歳になると誰もが神の祝福『スキル』を授かる世界。
その世界で『農業機器』というスキルを授かった少年バオア。
彼は地方貴族の三男だったがこれをきっかけに家から追放され、『闇の樹海』と呼ばれる森へ置き去りにされてしまう。
しかし、そこにいたのはケットシー族の賢者ホーフーン。
彼との出会いで『農業機器』のスキルに目覚めたバオアは、人の世界で『闇の樹海』と呼ばれていた地で農業無双を開始する!
芝刈り機と耕運機から始まる農業ファンタジー、ここに開幕!
たどり着くは巨大トラクターで畑を耕し、ドローンで農薬をまき、大型コンバインで麦を刈り、水耕栽培で野菜を栽培する大農園だ!
米 この作品はカクヨム様でも連載しております。その他のサイトでは掲載しておりません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる