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242 冬華 ノヴァルト
しおりを挟む-- 冬華 --
「そのままのトウカでいて欲しい」
そのまま……
「このままでいいの?」
王妃っぽく振る舞うとかそんなことは……
「しなくていい」
じゃぁ……
「コ……コルセットは……?」
「着けなくていい」
クスクスと笑うノバルト。
「立場が変わっても今のまま変わらずにいて欲しい」
そう言って私の頬に触れる。
「だから、あまり思い詰めないで。自信を持って私の隣に」
そう言って口付けをする。
ありがとう……
胸と肩にのしかかっていた何かが軽くなった気がした。
ノバルトはちゃんと言葉と態度で私を安心させてくれる。
私も……
「私は……変わらないよ。たぶん変われないと思う」
だから
「私が間違えてしまったときはちゃんと教えて……ちゃんと叱って欲しい」
知らないこともたくさんあるし知らないうちに自分の考えを押し付けてしまうこともあるかもしれない。
あぁ、と私の髪を指ですきながら
「私がちゃんと叱るよ」
と優しく微笑むノバルトに私も微笑む。
「ところで、イシュマ殿に何か言われなかったかな?」
おぅ……突然の変化球……
「何かって……」
「例えば、婚約者にして欲しい、とか」
ノバルトは別に不機嫌になっているわけでもなく変わらず微笑んでいる。
「この事に限らず、トウカが生まれ育った国との違いにはこれからも戸惑うことがあるだろう」
コクリと頷く。
「私やこれまでにトウカが出会った友人達は話を聞くし相談にものるから」
そういう人達がいることも忘れないで、と。
ノバルトと王様はこういうところが似ていると思う。
王様がジョシュアにかけた言葉。
あんな風に王位を継ぐことになるとわかっていて、立場上不安を表には出せないとわかっていたからこそ言葉にして伝えたのだと思う。
王様はきっとジョシュアにそれを伝える為だけに来たのだろう。
本当に優しい人達だ……
嬉しくてありがとう、と微笑むとノバルトが私の頬に触れてそろそろ寝ようか、と言いガウンを脱ぎ上半身裸になる。
いつも通りなんだろうけれど……さすがに……ちょっと緊張する……
「大丈夫だよ、トウカが困るようなことはしないから」
ただ、抱き締めさせて、と。
困ってはいない……怖がってもいないし嫌でもない。
むしろ少し期待している自分に困っている……
私の頬を包んでいるノバルトの手に唇で触れる。
「トウカ……」
そっと抱き締めてから口付けをする。口付けが深くなりそのままベッドへ……
ベッドに入るとノバルトは私の瞼や頬や首筋やいろいろなところに口付けをする。
くすぐったくてクスクスと笑うとノバルトも笑う。
それから私を優しく抱き込んで
「私は……トウカが思っているよりも独占欲が強く嫉妬深い」
私の頭を撫でながらそっと話すノバルト。
そんな風には全然見えない……
「だが、トウカが皆に好かれるのも嬉しい」
ノバルトの胸の音と言葉に緊張が解けていく……
「トウカだけのものだ」
私だけの……
ノバルトの体温が心地いい……
ゆっくりと瞼を閉じる……
「幼い頃のあの日からこの先もずっと私はトウカだけの……」
また……私が一番……聞きたかった言葉……
? 幼い頃…………
ノバルトの声が遠くなり……私はいつの間にか眠ってしまっていた……
心地いい温かさが目の前にあり手探りで抱きつく。
安心する……まだ目を開けたくない。
けれども……徐々に頭が冴えてきて昨日のことを思い出す。
どうしよう……私……眠ってしまったのか……
恐る恐る目を開けて少し離れるとギュッと抱き寄せられた。ノバルトも起きている……
「……おはよう、ノバルト」
クスクスと笑い声が聞こえて
「おはよう、トウカ」
そう言って私の頭にキスをする。
「あの……私、昨日寝てしまって……」
ごめんね……
「子供のように寝ていたよ」
お陰で可愛い寝顔が見れた、と……恥ずかしい。
せっかく二人だけで過ごせる夜だったのに……
でも……
「トウカと話ができてよかった」
うん、私も。いろいろと考えすぎていたみたい。
「私達のペースで進んでいこう」
そう言ってくれるノバルトだから
「ノバルトと話しをしたら思っていたよりも早く心の準備ができそう」
一瞬驚いたような表情から笑顔になり
「そうか」
と嬉しそうに笑うノバルトを見て私も嬉しくなる。
「今日はレクラス王国へ向かうのだろう、朝食を一緒に取ろう」
とノバルトが言い部屋に食事を運んで欲しいとロニーに頼んでくれた。
食事が来るまでの間に身支度を整えて二人で朝食を食べてから私はレクラス王国へ向かった。
※※※※※※※※※※※※
-- ノヴァルト --
トウカがレクラス王国へ向かうと言い出した。
皆が忙しいなかあまりやることがないと思っているのだろう。近くにいてくれると安心なのだが……
それともう一つ。
ゲートでトウカの元へ行くと部屋にはイシュマ殿もいた。
つい、対抗心を燃やしてしまいトウカを困らせてしまった。
リアザイアへ帰るまでの間、こんなことが続いては堪らない、と思ったのかもしれない。
行くと決めているトウカだが……
私はずっと……トウカが私の求婚を受けてくれたその後の様子が気になっていた。
このまま行かせるわけにはいかないと思い条件を出した。
私の部屋で一晩一緒に過ごすこと。
結果的に自分の首を絞めてしまうことになるのだが……
トウカはちゃんと来てくれた。
私を意識してくれているのか少し緊張した様子のトウカが可愛くて本来の目的を忘れてしまうところだった。
トウカは私の隣に立つということがどういうことか深く考えてくれている。
なかなか私には話してくれないが考えすぎて不安になっているようだった。
変わらなくていい。変わらないでいて欲しい。
貴族令嬢から王妃になったこれまでの妃とは確かに違うがそれがいい。そのままでいて欲しい。
トウカの動物達に……魔獣達にも見せる無償の愛。
人に対しても無条件に差しのべられる手。
私達が難しく考えている間に彼女は……気が付いたらすぐに手を差し出している。
損得や利害とは無縁のその手に触れて築かれた関係はとても強い。
トウカは無意識に味方を増やしていく。それも最強の味方を。
それに気付いていないところがトウカらしいのだが……
黒髪と黒い瞳のことも気がかりなのだろうが私はトウカを隠しておくつもりはない。
魔法で色は変えられるようだがそんな必要もない。
私の隣ではありのままの彼女でいて欲しい。
最初は珍しいその色に皆驚き、興味を持つだろうが……
この辺りのことは母上もトウカが社交界に馴染めるようにいろいろと考えてくれている。
結婚については生まれ育った国とこの世界との違いに悩んでいるようだ。
私はトウカだけと決めているがこの考えをトウカに押し付ける気はない。
本当はトウカも同じ気持ちでいてくれると嬉しいのだが……
これからたくさん求婚されるであろうトウカが相手の気持ちを受け止めて……そして彼女が答えを出すことだと思うから。
ノシュカトにはトウカをしっかりと捕まえておくよう言われてしまった。
あのノシュカトが……トウカに出会って一番変わったのはノシュカトかもしれない。
トウカは私達の命を……大切な人の命を救ってくれた。
私達が誰かも知らず、見返りも求めず。
ただ静かに暮らしたいという自分の願いも犠牲にして……
その温かさに触れてしまったら……
トウカは私を選んでくれたが私は……皆の気持ちもわかる。
だから、私は隣で見守っていよう。
トウカの出した答えなら私も受け入れられる。
全て受け入れていこうと思う。
少し緊張しているトウカを見て微笑む。
トウカに触れると話が出来なくなりそうだ……
二人で話をして、まずは彼女の不安を一つずつ消していこう。
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