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 イシュマが私を見る。


「話しをする前にこの誓約書に目を通して欲しい」

ノバルトがそう言うとロニーが三人の前に誓約書を置く。

「これは……?」

ジョシュアが少し緊張した様子でノバルトを見る。

「大丈夫、これは両国のことではなくトウカについての誓約書だよ」

緊張をほぐすように優しく話すノバルト。

「トーカの……?」

三人が私を見る。なんか照れる。

「これはノヴァルト殿が言えないと言っていたことと関係があるですか」

ジョシュアがそう言うと

「これから話すことを口外しないと約束して欲しいのだ。君たちもトーカを危険な目に会わせたくはないだろう」

それはもちろん……と言ってはくれたけれど

「ごめんね、突然言われても戸惑うよね。私の話しを先にするね」

そう言って三毛猫さんと異世界からきたことや魔法を使えるようになったことを話した。

「……トーカを初めて見つけたときもキラキラと光の粒が舞っていた……」

イシュマがポツリと呟くようにそう言うと

「部屋の窓から飛び降りた時もその力を使ったのか……」

うん……いや……そうなんだけれどあの時は一か八かだったのだよ……ノバルトが心配するから言わないけれど……

チラリ……

ほぅ、もう気付かれている気がする。

「だからね、イシュマはこれからはリアザイアに住むことになるけれどゲートを使えばいつでも行き来できるから」

トーカ……とイシュマが嬉しそう。

「なら俺の部屋とトーカの部屋を繋いでくれよ」

ヨシュアがふざけてそう言うと

「トウカの部屋は私の部屋だから私の部屋と繋がることになるね」

まさかのノバルトが乗っかるという……

……さらっと言うから聞き流してしまうところだった。
そうなの!? 帰ったら……そうなの!?

「失礼を承知で聞いてもいいだろうか……」

ジョシュアがそう言い私を見る。

「トーカはリアザイアで幸せに暮らしていたのだろうか、そしてこれからも幸せに暮らしていけるのか……」

ジョシュアはやっぱり一番お兄さんだね、心配してくれている。

「あぁ、我々はトウカを大切に思っている。トウカに無理強いをすることも、その力を悪用することもない」

ノバルトがキッパリとそう言い私も

「ジョシュア、心配してくれてありがとう。私の方が皆さんにたくさん助けられているの。だから大丈夫だよ」

そうか、と少し微笑んだように見えた。
それからジョシュアがペンを取り誓約書にサインをするとヨシュアとイシュマもそれに続く。

「ザイダイバとレクラスとも繋げられるからこれからは頻繁に王族同士の話し合いができるね」

それぞれの国の状況を早く把握することができればお互い助け合うこともできる。


その後、シャーロット王妃様が言っていた通り一月以内にジョシュアに王位は継承されたけれども、国民へのお披露目はもう少し先になるらしい。

これまでの考えを国民にも変えてもらわなければいけないのだからしっかりと考えて国王が代わるタイミングで効果的な話ができればいい、とジョシュアが考えているらしい。

先王のマシュー様はすっかり大人しくなってしまった。
シャーロット様が厳しく接している訳ではなく、むしろこれまでのマシュー様の態度も許しているかのように優しい。

「これから二人の生活が始まりますからね、楽しい方がいいでしょう?」

と優しく……けれども少しだけ寂しそうに微笑む。

わざわざマシュー様を怯えさせるようなことを言ったのは自分とマシュー様に対する罰なのかもしれない。

シャーロット様は殺したいほどの憎しみを持ちながらもやはりマシュー様を愛してもいるのだろう。

その深い愛にマシュー様が気付く日が来ればいいのだけれど……

それからのベゼドラでの日々は目まぐるしく……といっても私は特にやることはなかったのだけれども……

リアザイアの皆さんが帰国する日までにするべき事がたくさんあって……私は特になかったけれども……

そう、纏める荷物も無いし……周りはみんな忙しそう……私は特に…………

帰国するまではこれまで通りイシュマの家に滞在することになった。
ノバルトの部屋と私の部屋をゲートで繋いでおいて欲しいとノバルトからはお願いされた。

ジョシュア達はイシュマが持っている物の中に城に戻しておくものがないか確かめるために一緒にイシュマの家に行くというので一緒に戻ると……

ジョシュアは頭を抱えて……
ヨシュアはやるじゃないか、とイシュマに感心している。

「トーカ、本当に申し訳ない」

窓の格子とドアの鍵を見てジョシュアが謝る……王様なのに兄弟のために頭を下げてばかりだな……とそれがなんだか嬉しくて思わず笑ってしまう。

「ジョシュア、変わらないでいてね」

そう言うとジョシュアも困ったように少しだけ微笑んだ。

それから三人はイシュマの部屋へ行き、城へ持って帰るものをある程度分けてから

「これでイシュマの荷造りも進むだろう」

そう話しながら一階へ下りてきた。
ゲートを使えばいつでも行き来できるから本当は荷造りもしなくていいのだけれど……自分達の気持ちも整理できるからいいのだとか。

私のいれたお茶を飲み終わるとジョシュアとヨシュアはお城に帰って行った。

イシュマは……リアザイアに来るとは言ってくれたけれども本当は寂しいのかな……

チラリとイシュマを見ると

「もう少し部屋を片付けてくるね」

と二階へ行ってしまった。その後ろ姿がやっぱり少し寂しそうに見えてしまう。

今夜はイシュマが好きなものをたくさん作ってあげよう。
そう決めて食糧庫の整理をしながら早めに夕食の準備を始める。

しばらくすると

「いい匂いがする」

とイシュマが二階から下りてきた。

「イシュマ、もう少しかかるから先にお風呂に入る?」

そう聞くと手伝うよ、と言い私の隣で手を洗いながら作っているものをみて

「僕の好きなものばかりだ」

ありがとう、と微笑む。本当に……

「イシュマと一緒に過ごせる人は幸せだね」

家の事も手伝ってくれるし些細なことにも気付いてお礼が言える……動物のお世話もできるし手先も器用だ。
リアザイアへ行っても案外すぐに生活には慣れそうだし友達もたくさんできそう。

「本当に? トーカはそう思う?」

手を動かしながら聞いてくる。

「うん、きっとリアザイアで友達がたくさんできるよ」

もしかしたら一生を共に過ごす人とも出会うかもしれない。

「そうか……」

嬉しそうに微笑むイシュマ。
大丈夫、きっと素敵な出会いがあると思う。

食事を終えてお風呂も済ませて三毛猫さんと布団に入り、寝ようかというところでノックが聞こえた。

ゲート……ではなくこの部屋のドア。

「イシュマ?」

「トーカ、少し話しをしないか」

いいけれど……

「うん、それじゃぁリビングに行こうか」

「ここがいい」

このパターンは……

「あの……ね、イシュマ。お城でも話したように私には婚約者がいるから……」

だからここではちょっと……

「僕だってトーカが好きだ。僕も婚約者にして欲しい」

そうだった……この世界……重婚できるんだった……
これは未だに私の中では考えが追い付いていない異文化だ。

「あのね、イシュマ。私が生まれ育った国では……」

と、私が生きてきた国と文化が違うことや結婚は一人としか考えていないことを伝える。

「……そんな……それじゃぁトーカはノヴァルト殿としか結婚しないの?」

……そうです、コクリと頷く。

「でも、考え方はこれから生きていく場所によっても変わっていくかもしれないだろう? この国もこれからは考えを改めていくし、僕だってリアザイアのことを学んでいく」

うっ……確かに……そう言われるとそうなのだけれど……
私……頭が固くなっているのかな……囚われなくてもいいことに囚われている……?

でも……これまでそれが当たり前で育ってきたから……

「そうなんだけれど急には変われない……」

とそう言ったところでジョシュア達は相当大変なことをこれからしなければならないのだな……と思った。

「今は……だよね?」

うーん? こればっかりは変わらない気がするけれど……
でもジョシュア達がこれからすることを考えると変わらない、とは言えない。

うーんうーんと考えていると

「こんばんは、トウカ」


ゲートからノバルト登場……

    
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