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しおりを挟むイシュマがそのまま私の手を引きエルのところまで無言で歩く。
エルを連れて歩き人通りも少なくなると突然
「トーカ、泣いたの?」
私の目をみてイシュマが言う……
「……す、少しね……」
誤魔化すように笑うと抱き締められた……
「ごめんね、不安にさせて……」
そっかー……迷子になったから泣いたと思われているのか……
イシュマの腕に力が入り……でもね……と続ける……
「他の男とあんなに近づいて話さないで欲しい」
ときつく抱き締められた……く、苦しい……
なぜ……そんな彼氏みたいな事を言うのか……
エルがそんなイシュマの肩に顎を乗せる。
「帰ろうか」
とエルを撫でながらようやく解放してくれた……
ありがとう……エル。
帰り道は少しゆっくり進んでもらったけれど……
「イ、イシュマ……あれ……あそこにお城がある」
そしてお城に向かっているような……
「あぁ、森の中では見えなかったけれど僕の家はあの城とわりと近いんだよ」
へぇ……いい所に住んでいるんだぁ……
確かに街へは歩くと時間がかかりそうだけれど歩けなくはない……?
……いや……大丈夫かな……私の体力……
それよりもお城が近いということはノバルト達も近くに……
「トーカ、舌を噛むから口を閉じていてね」
そう言ってスピードをあげるからまた周りが見えなくなる。
そして気がつけばイシュマの家に着いていた。
お城はどこにあるのか……
「お城はどこにあるのかな……」
「どうして?」
しまった……声に出ていた……
「えーと……綺麗なお城だったから近くでみたいなぁ……なんて……」
いかん……目が泳いでしまう。
「外からは綺麗に見えるよね。……そうだ、今度ドレスを贈るからそれで我慢してくれないかな」
いらない……
「ドレスはいらないよ」
今度街に行くとき……
「今日買ってくれた服を一緒に取りに行くときにまた見れるよね。そのときにもう少しゆっくり歩いてくれたら……」
? イシュマが何か考えている……
「うーん……考えておくよ」
何を? お城を見ること? 街に行くこと?
「トーカ、疲れたよね。お茶にしようか」
そう言って私をソファーに座らせてお茶をいれてくれるイシュマ……優しい。
それ、私の仕事だけどね……
結局何を考えるのか聞けなかったけれど……
「ありがとう、イシュマ」
そう言って微笑むとようやくイシュマのどこか張りつめた感じの空気がなくなって……私もホッとする。
「今日はもうゆっくり過ごそうよ。街で買ってきたものもあるしトーカも食事を作らなくていいよ」
たまにそんな日があると嬉しい……
「うん、それじゃぁ今日は甘えさせてもらおうかな」
イシュマも嬉しそうに微笑み
「甘いものも買ってきた」
と言ってお茶のお代わりと一緒に持ってきてくれた。
至れり尽くせり……
そうだ、この後
「お茶を飲んだら馬屋の掃除とエルのブラッシングを手伝うよ」
今日はたくさんお世話になったからね。
「僕一人でも大丈夫だけれど……そうだね、一緒にやろうか」
それから二人でエルのお世話をして汗をかいたからイシュマに先にお風呂に入ってもらう。
その間にいつの間にか私の部屋にあったイシュマの本を二階の書斎に持っていく。
これでよし。
リビングに戻るとすぐにイシュマがお風呂から出てきた。
「お待たせ、トーカ」
それじゃぁ私も、と着替えを持ってお風呂へいく。
お湯を頭からかぶり髪を洗う。
エルのお陰で程よく体も動かせて汗もかいたから気持ちいい。
それにしても……
今日はいろいろとあったなぁ……
「ノバルト……」
見つけてくれた……フワリと胸が暖かくなる……
お城が近いみたいだからどうにかして行けないかな。行けたとしてもどうやってお城の中に入るか……
泡を流してタオルで髪をまとめ上げる。
「トーカ」
イ、イシュマ!?
突然呼ばれて驚く……ドアの向こうにイシュマがいる。
「な、なに?」
どうしたのだろう? こんなこと今までなかったのに……何かあった……?
「背中を流してあげる」
え……?
「入るよ」
えっ……?
「えっ!?」
ドアを開けて入ってきてしまった。
「ちょ、ちょっとイシュマ! 入ってこないでっ」
私、今裸っ……
私の言葉に構わず入ってくるイシュマ……短パンに上半身裸で……
「トーカ、今日は甘えてくれるって言ったよね」
言ったっけ!? 言ったとしてもこれは違う!
「甘えるなら私からいくから! 出ていって!」
キョトンとしない!
「そうなの? でもせっかくきたから洗ってあげる」
そう言ってタオルを泡立て始める……
前から薄々思っていたけれど……全然私の言うこと聞かないなイシュマ!
私は座ったまま前を隠すために丸くなることしかできない……
「イシュマっ……本当にもういいからっ」
そんな私を見て
「本当は髪も洗ってあげたかったんだよ」
やめて、私がわがままを言っているみたいな感じで言うの。
「ほら、トーカ。リラックスできるようにマッサージをしようか」
それはダメっ
もう……背中を流してもらって早く出ていってもらおう。
「……わ、わかった、背中を流してください」
ため息混じりにそう言うと嬉しそうにうん、と言うイシュマ。
そして泡立てたタオルをそっと私の背中に当てる。
「トーカの身体は僕とは全然違うね」
性別も違うからね……というかあまり見ないで欲しい。
「細い首に細い腕……くびれもあってすごく……」
ストップ!
「イシュマ、恥ずかしいからあまりみないで」
そして実況と解説もいらない。
「どうして? こんなに綺麗なのに……」
マジで言うこと聞かんな。
「肌もこんなに綺麗で……タオルでも傷ついてしまいそうだ……」
そう言って私の背中にそっと手を当てる……
「イシュマッ……」
そのまま手を滑らせて背中を撫でる……
「イシュマ……ヤッ……」
イシュマの息遣いが浅くなる。
私の肩に止まった手にグッと力が入り……
「トー」
「トーカー! イシュマー!」
ヨシュアの元気な声が聞こえる。
イシュマの動きが止まりため息が聞こえる……
「兄上達が来たみたいだ。ごめんね、今日はここまでだよ」
残念そうに言うイシュマ……
今日は……? 次なんてないけれど!?
「トーカはゆっくり入っていていいからね」
そう言ってようやく出ていってくれた。
「……疲れた……」
思わず呟いてしまった……
お風呂でこんなに疲れたの初めて……ここにも鍵……欲しいなぁ……
もうゆっくりなんてできない。
身体を洗ってさっとお湯に浸かりさっさと出よう。
身体を拭いて着替えをしてリビングへ行くと三人が話をしていたけれど私に気づくとこちらを見る。
「こんな時間に来るのは珍しいね」
もうすぐ日も暮れて夕食時だ……でもお風呂からでられて助かった……
「明日にはリアザイアの一行が到着するそうだからまた二、三日は来られなくなりそうだ」
ジョシュアが教えてくれた。
「ジョシュア達の家もお城の近くなの?」
「近くというか城だよな」
ヨシュアが…………なんて?
「? お城に住んでいるの?」
ジョシュアがヨシュアを睨む。
どういうこと? お城に住み込みで働いている貴族? 騎士団とか?
「あー……まぁな……」
とそれ以上は言いたくなさそう……
イシュマを見ると困ったように微笑むし……聞きにくい。
「何か足りないものや困っていることはないか」
ジョシュアが話をそらす。
困っていることは…………あるっ……
ジョシュアとヨシュアが来られない二、三日の間にイシュマが今日みたいなことをしてこないか……
でもこういうことって兄弟に話すと気まずくなったりするのかな……
それに正直ヨシュアもあやしいところがある。
一番常識人っぽいジョシュアに話してみるか……
ジョシュアを見ながら考えていると
「トーカ、少しいいか」
とジョシュアの方から呼ばれた。
こちらへ、と私の部屋の隣の部屋へ。
二人きりだ……なんだろう?
「これを……」
私の服を買ったときについでに選んだけれど渡せずにいた、と
「猫のぬいぐるみ……」
「あの時はトーカが弱っていて心細いかと思って選んだが……」
すまない、子供っぽかったな、と。
「可愛い……ありがとう、ジョシュア」
その気遣いも嬉しくて微笑むとジョシュアも優しく微笑む。
今なら言えそうな気がするっ
「ジョシュア、あのね……」
と覚悟を決めて話し始めた……
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