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しおりを挟む翌朝、目が覚めるとちゃんと一人で寝ていた。
よかった。やっぱりちゃんと話をすることって大事だな。
その日の午前中はイシュマがお昼には戻って来るから、と言ってエルに乗って出かけていった。
私は今日のお昼と夜のメニューを考えながら食糧の整理をしていた。
お昼頃、イシュマがエルと荷物を抱えて帰ってきた。
「お帰り、イシュマ」
「ただいま、トーカ」
イシュマが微笑み、お腹空いたと言うので昼食にする。
「トーカ、午後から街へ行こうか」
食事をしながら突然イシュマがそう言った。
えっ? と驚く私に行きたがっていたよね、と微笑む。
ずいぶん急だけれど嬉しい。
「カツラと服は用意してきたからね」
と持って帰ってきた荷物をチラリと見るイシュマ。
「ありがとう、イシュマ! すごく嬉しい」
そう言って微笑むとイシュマもよかった、といい少し照れながら笑う。
「急いで用意したから以前トーカが言っていたように男の子の格好になるんだけれど……いいかな?」
髪の長さが肩につかないくらいのカツラと目の色も隠せるように帽子も用意してくれている。
それから僕が子供の頃、隠れて街に行くときに着ていた服なんだけれど……と街の男の子が着ているような服を用意してくれた。
「大丈夫だよ、ありがとう」
久しぶりの男装だ。動きやすいからよかったかも。
食事と後片付けを終わらせて早速部屋で着替えをする。
着替えを…………
「イシュマ、着替えるから出ていってくれるかな……」
いや……驚かないで……
「トーカ……一人で男の子の服に着替えられるの?」
……着替えられるよ。
「着替えられるよ」
普通の少年の服よ?
「そうか……何かあったら呼んでね……」
着替えるだけだよ……何もないよ……
イシュマが出ていってようやく着替えられる。
服はやっぱり少しだけ大きいけれど少しまくったりしたら大丈夫そう。
カツラと帽子もいい感じに顔が隠れて目の色も見えにくい。
もし手紙が出せたら……と思ったけれど紙とペンとお金がない……今借りると変に思われるかな……
少し考えて今日は街で手紙を出せる場所を確認して、準備ができたらまた街に連れていってもらおうと決めた。
着替えをして部屋を出るとイシュマもカツラと帽子をかぶって着替えも済ませていた。
「イシュマも別人に見えるね」
まじまじと見ながらもし街でイシュマとはぐれたら見つけられないかもしれない、と思ったけれどなんとなく口には出さなかった。
イシュマが先にエルに乗り私を引き上げてくれる。
「行こうか」
そう言ってエルを走らせるイシュマ。
あまり馬に乗って走ったことがないからゆっくり……と言う前に走り出してしまった。
イシュマが後ろからしっかりと支えてくれていたけれど私も掴まっているのと帽子が飛ばないように押さえるのに必死で周りの景色を全然みられなかった。
街へ着くとエルを馬屋に預けていくと言うからエルから下ろしてもらってエルの顔を撫でる。
乗せてくれてありがとう、と言うとエルも私の肩に顔を乗せて甘えてくるから可愛い。
イシュマもまた帰りに頼むな、とエルを撫でながらいいエルを預ける。
「今ぐらいが丁度いいと思ったんだ。リアザイアからの一団が到着すると人がもっと多くなるからね。ゆっくり歩きたいしお店も見られないとつまらないよね」
大通りに向かいながらイシュマがそう話す。
そうか……もうすぐ到着する……滞在中にどうにかして会わないと……
「欲しいものがあったら言ってね」
お金を持っていないから有難い言葉。
でも欲しいものかぁ……今あるもので足りてるかな。
紙とペン……は今言ったらいろいろ聞かれそうだからイシュマが持っているものを何気なく借りよう。
「それにしても人も馬車も多いね」
「うん、いろいろなところから人が集まって来ているし商売をしに来ている人もいるからね」
そう話を聞いている間にも人とぶつかりそうになる。
「トーカ、こっち」
そう言って私の手を引くイシュマ。
連れてこられたのは女性ものの服屋さん……
「あの、イシュマ……私、今男装中……」
「大丈夫、トーカのサイズはわかっているから隣にいてくれるだけでいいよ」
そう言ってお店の中へ……
「いらっしゃいませ」
お店に入ってすぐにわかる。高いお店だ……
「イシュマ、もっとお手頃なお店に行かない?」
小さな声でそう言うと
「僕がプレゼントしたいからここで大丈夫だよ」
でも……と言う私の手を引いて服を見ながらお店の奥へと進んでいく。
イシュマがときどき私に服を当てながらどんどん選んでいく……
「……こんなにたくさんは必要ないと思うけれど……」
いいからいいから、とニコニコのイシュマ……ご機嫌だね。
「しばらくは外に出られなくなるんだから」
「え?」
……よく聞こえなかった……なんて……?
「ん? あ、ほらこれも良さそう」
?
「これと……これも!」
これはもう好きにしてもらうしかないかな……
選んだものはイシュマが支払いを済ませてからまた後日取りに来るということで、一旦お店で預かってもらうことになった。
もう一度街に出る口実ができた。
取りに行く時は一緒に連れていってもらおう。
服屋さんを出て再び人がたくさん歩いている大きな通りを進んでいく。
途中でアクセサリーを売っているお店の前を通りかかる。
湖に落ちたときに失くしてしまったリアザイアのみんなから渡されたアクセサリー……申し訳ない事をしてしまった……
魔法がまた使えるようになったら探すこともできるけれど……このまま使えなかったら……
あの湖はどれくらいの深さなのかな……暖かくなったら潜って探してみようか……
ボンヤリとそんなことを考えているといつの間にかイシュマとはぐれてしまっていた……
はぐれたらどうするか決めていなかったけれど……エルのところには人に聞きながらでもどうにかたどり着けると思うから……落ち着け私。
とりあえず周りを確認するけれどやっぱりイシュマはいない……というか、ついついいつもの白髪で探してしまう。これでは見つかるはずもない……
キョロキョロとしているとなんだか気になる人が……知っている人なんているはずがないのにその後ろ姿から目が離せない。
すると……彼もゆっくりとこちらを振り返り……
目が合うと……微笑み……
声は聞こえなかったけれど(見つけた)と……
泣きそう……いや……もう……涙が溢れている……
見つけてくれた……ノバルト……
お互い変装をしているのに……それがなんだか可笑しくて泣きながら笑ってしまう。
そんな私に近づいてそっと涙に触れるノバルト……
「トウカ……ケガはしていないか」
久しぶりに聞くノバルトの声に胸が熱くなる。
「うん、大丈夫」
ノバルトの手に頬を預ける。
「ノバルトも無事でよかった……」
本当に……
「ごめんなさい……こんなことになってしまって……」
ノバルトが微笑む。
「トウカを探すのは楽しいよ、私は必ず見つけるからね」
私が必ず迎えにいくから、と……
ノバルトの優しい声と言葉にまた涙が出る。
ありがとう…………
少し落ち着くとノバルトが一人でいることに気が付いて……
「ノクトとオリバーは一緒じゃないの?」
そう聞くとノバルトが少し眉を下げて
「無理を言って途中から私だけ先に来たのだよ」
そうなんだ……でも本当に一人で……? 変装はしているけれど護衛とかいるんじゃないかな……
そんなことを考えているとノバルトが私の耳元で囁く…………と同時に後ろから名前を呼ばれた。
「トーカ、誰? その人」
振り返ると……
「イシュマ……」
その名前に少しだけノバルトが反応したような気がした。
「誰なの?」
イシュマ……な……なんか……怒っている?
「失礼しました。この方が道に迷われていたようなので。お連れの方が来たのなら安心ですね」
ノバルトが自然に芝居を始めたから私もそれに乗る。
誰なのかと聞かれてもどう言っていいのかわからないからよかった……けれど……
「トーカ、そろそろ帰るよ」
そう言って私の手を引くイシュマ。
「あ……」
ノバルトを見ると小さく頷いた。
大丈夫、ということかな……すぐ会えるよね……?
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