204 / 251
204
しおりを挟む-- 冬華 --
三人それぞれと目が合いイシュマさんで視線を止める。
「ゆっくりできたかな」
そう言ってニコリと微笑むイシュマさん。
「服のサイズも大丈夫そうだ」
イシュマさんのお兄さん、なんとなく長男っぽい人が言う。
「水、ちゃんと飲んでおけよ」
三毛猫さんを持ち上げた人。
「ありがとうございます。いろいろと……」
イシュマさんが立ち上がり
「お腹空いているよね、食事は部屋に持って行くから先にミケネコサンのところに行ってあげて」
優しいし気が利く……なんか私……ここにいるとダメになりそう……でも三毛猫さんも心配だし……今だけ……今だけは甘えさせてもらおう。
ありがとうございます、とお辞儀をして部屋へ向かう。
部屋のドアをそっと開ける。籠の中を覗くと三毛猫さんが眠っている。
規則正しく上下するお腹に顔を突っ込む……ようなことはしないで起こさないように見つめる。
三毛猫さんが起きたら食べられるように後でキッチンを借りて何か作らせてもらおう。
そんなことを考えているとノックが聞こえたのでドアを開ける。
イシュマさんが食事を運んで来てくれた。
テーブルに置かれた食事は胃に優しそうなお粥と野菜をクタクタに煮込んだスープ。
「無理はしないで残しても大丈夫だからね」
そう言ってくれたけれどすみません……そんな感じではないのです私……残さずいただきます。
「僕達はリビングにいるからゆっくり食べてね。落ち着いたらリビングへ来てくれるかな、一緒にお茶を飲もう」
ずっと私のペースを考えてくれている……すぐにでもいろいろ聞きたいはずなのに……
「はい、ありがとうございます」
本当に有り難い……イシュマさんが頷いてドアへ向かう。
でも途中で立ち止まり…………振り返り私の前に戻ってきた。
な、なんか近い。
? どうしたのだろう……見つめられて首を傾げる私に
「名前……名前を聞いてもいいかな」
ハッとする。そうだった……こんなに良くしてもらっておいて名前も名乗っていなかった!
「す、すみません! 申し遅れました! 私はトウカと申しましゅっ」
か……噛んだっ
髪と目の色が黒に戻っているからフルネームではないけれど本名を名乗った……
イシュマさんはクスクスと笑い
「トーカさん、よろしくね。僕に敬称はいらないよ。話し方も砕けた感じの方が嬉しいかな」
そういわれたらやっぱり
「では私のこともトウカと……」
となる。
「ありがとう、トーカ」
そう言って私の髪に触れる……距離感……
「トーカ、兄上達と話す前に伝えておきたいことがあるんだ」
? なんだろう。
「トーカを湖で見つけた時に見た光の粒のこと、熱を出して寝込んでいる間に髪の色が黒く変わったことは兄上達には言っていないよ。本当はミケネコサンのことも黙っていたんだけれど……先に見つけてあげられなくてごめん」
そう言って眉を下げて私に謝るけれど……お兄さん達と話す前に教えてくれたということは、その事を話すか話さないかは私に任せてくれるということ……
「ありがとう、イシュマ。たくさん助けてもらって……そこまで考えてくれて」
そう言って微笑むけれどイシュマはなんだか寂しそうな顔をしてそれからね、と続ける。
「気付いていると思うけれど……僕達は三つ子なんだ」
……うん、そっくりだものね。
「……? 皆さんよく似ているよね」
そんなに寂しそうな顔をして言うこと?
「……僕は……三番目なんだ」
……うん、リビングの二人を兄上って呼んでいたものね。
「……うん」
何が言いたいのだろう……
「僕のこと……嫌いになった?」
ん? え……と、えーと何? 何の話し? 何か聞き逃したのかな?
「どうして?」
本当にわからない……末っ子だから? なんで嫌いになるの?
「どうしてって……」
首を傾げる私にイシュマも首を傾げる。
グゥゥゥ……………………
私のお腹がなる。恥ずかしぃっ
「ごめん、食事が冷めてしまうね」
そう言ってドアの方へ歩いて行きまた後でね、と振り返り部屋を出ていった。
結局何の話しだったの……
まぁ……いいか、また後で話しはできるし。
とりあえず、食事をいただこう。お腹がペコペコ。
いただきます、と三毛猫さんの様子を見ながら食事を始めた。
※※※※※※※※※※※※
-- ジョシュア --
午前中にヨシュアといつもの変装をして街で買い物を済ませた。
城の者達に女性用のものを揃えさせるといろいろと聞かれるだろうし、答えなければ要らぬ憶測を呼ぶ。
最悪父上と母上に報告されてしまうだろう。
街へ行き、貴族も買い物をするような店で柔らかい毛布やシーツ、好みがわからないのでシンプルな服や部屋着などを揃えた。
石鹸やタオルは城からのものがイシュマの家にあるからあとは…………
下着を買う時は顔見知りの店員にからかわれたりもしたがヨシュアが上手く話してくれた。
それから……菓子も買っていこう。甘いものは好きだろうか。
これで必要なものは揃ったと思う。
ふと、目にとまった店があり少し考えてからヨシュアを待たせて買い物をした。
荷物が多くなってしまったが馬は二頭いるから持って帰れるだろう。
荷物はしっかりと布に包んで中身が見えないようにしているから、このまま城へ戻って誰かとすれ違ったとしても、また変装して街へ行き買い物をしてきたか、くらいにしか思わないだろう。
森のイシュマの家へ行くと彼女が立っていた。
後ろ姿をイシュマと間違えたようだが、私が振り返り彼女を見ると……違うと気づいた。
後から入ってきたヨシュアのこともイシュマではないとわかっているようだった。
またイシュマのシャツを着ている。
それしかないから仕方がないがブカブカで肌が出すぎている。
昨日の記憶が熱で曖昧になっているようだったので近づいて額に手を当てる。
どうやら熱は下がったようだがこんなに薄着ではまた熱が出てしまうのでは……と思っていると
顔を赤らめて着替えてくる……と。見すぎてしまったようだ。
するとここへくる前に通った湖の近くの木の上で見つけた変わった毛色の猫がヨシュアの腕の中で鳴いた。
彼女はその鳴き声に反応してヨシュアの元へ行きヨシュアの腕から猫を抱き上げようとしたが……
ヨシュアが猫を高く掲げる。彼女は飛び跳ねながら届かない猫に手を伸ばす。
腕を上げたことでシャツが……スラリとした足が……それどころか下着まで見えてしまうのではないか……
あまりにも無防備すぎる……ヨシュアにやめるよう声をかけようとすると彼女が先にヨシュアの腹に拳を沈める。
………………
彼女は猫の無事を確認している。
ヨシュアは……まぁ……自業自得だ……
彼女はやはり我々が誰かわかっていないのか……?
この国の者ではないということか……
一体どこから……そしてどうやってあの湖に現れたのか……
※※※※※※※※※※※※
-- ヨシュア --
腹を殴られた……
嘘だろ……こんなことをする令嬢が……いや、令嬢ではないのか? どちらにしろ女に拳で殴られるとは……
少し大袈裟に痛がってしまったがよほどあの猫が大事なのか彼女が動じることはなかった。
猫を取り戻そうと必死に手を伸ばしている姿は抱きしめたくなるほど可愛かったのにこの仕打ちだ。
まぁ……俺が悪いのだが。
彼女が泣き出したときはさすがに焦った。
本当に大切な猫なんだな…………
彼女が寝ていた部屋へ行き買い揃えてきたものを渡すと今度は礼を言いながら泣いた。
嬉しそうだったから良かったが泣かれるとやはり困ってしまう。
それにしてもこの毛色の変わった猫と黒髪に黒目のこちらも見たことのない色を持つ女性……この色が当たり前にある国か街がどこかにあるのか?
見たことも聞いたこともない……
彼女の態度からして俺達のことを誰かわかっていないようだったが……
それにイシュマのことを見分けていたようだ……俺のこともわかるのだろうか。
ますます興味が湧いてきた。
早く彼女と話をしてみたい……
1
お気に入りに追加
1,173
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
私、異世界で監禁されました!?
星宮歌
恋愛
ただただ、苦しかった。
暴力をふるわれ、いじめられる毎日。それでも過ぎていく日常。けれど、ある日、いじめっ子グループに突き飛ばされ、トラックに轢かれたことで全てが変わる。
『ここ、どこ?』
声にならない声、見たこともない豪奢な部屋。混乱する私にもたらされるのは、幸せか、不幸せか。
今、全ての歯車が動き出す。
片翼シリーズ第一弾の作品です。
続編は『わたくし、異世界で婚約破棄されました!?』ですので、そちらもどうぞ!
溺愛は結構後半です。
なろうでも公開してます。
農業機器無双! ~農業機器は世界を救う!~
あきさけ
ファンタジー
異世界の地に大型農作機械降臨!
世界樹の枝がある森を舞台に、農業機械を生み出すスキルを授かった少年『バオア』とその仲間が繰り広げるスローライフ誕生!
十歳になると誰もが神の祝福『スキル』を授かる世界。
その世界で『農業機器』というスキルを授かった少年バオア。
彼は地方貴族の三男だったがこれをきっかけに家から追放され、『闇の樹海』と呼ばれる森へ置き去りにされてしまう。
しかし、そこにいたのはケットシー族の賢者ホーフーン。
彼との出会いで『農業機器』のスキルに目覚めたバオアは、人の世界で『闇の樹海』と呼ばれていた地で農業無双を開始する!
芝刈り機と耕運機から始まる農業ファンタジー、ここに開幕!
たどり着くは巨大トラクターで畑を耕し、ドローンで農薬をまき、大型コンバインで麦を刈り、水耕栽培で野菜を栽培する大農園だ!
米 この作品はカクヨム様でも連載しております。その他のサイトでは掲載しておりません。
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】乙女ゲームに転生した転性者(♂→♀)は純潔を守るためバッドエンドを目指す
狸田 真 (たぬきだ まこと)
ファンタジー
男♂だったのに、転生したら転性して性別が女♀になってしまった! しかも、乙女ゲームのヒロインだと!? 男の記憶があるのに、男と恋愛なんて出来るか!! という事で、愛(夜の営み)のない仮面夫婦バッドエンドを目指します!
主人公じゃなくて、勘違いが成長する!? 新感覚勘違いコメディファンタジー!
※現在アルファポリス限定公開作品
※2020/9/15 完結
※シリーズ続編有り!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる