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 -- 冬華 --


 三人それぞれと目が合いイシュマさんで視線を止める。

「ゆっくりできたかな」

そう言ってニコリと微笑むイシュマさん。

「服のサイズも大丈夫そうだ」

イシュマさんのお兄さん、なんとなく長男っぽい人が言う。

「水、ちゃんと飲んでおけよ」

三毛猫さんを持ち上げた人。

「ありがとうございます。いろいろと……」

イシュマさんが立ち上がり

「お腹空いているよね、食事は部屋に持って行くから先にミケネコサンのところに行ってあげて」

優しいし気が利く……なんか私……ここにいるとダメになりそう……でも三毛猫さんも心配だし……今だけ……今だけは甘えさせてもらおう。
 
ありがとうございます、とお辞儀をして部屋へ向かう。
部屋のドアをそっと開ける。籠の中を覗くと三毛猫さんが眠っている。

規則正しく上下するお腹に顔を突っ込む……ようなことはしないで起こさないように見つめる。

三毛猫さんが起きたら食べられるように後でキッチンを借りて何か作らせてもらおう。

そんなことを考えているとノックが聞こえたのでドアを開ける。
イシュマさんが食事を運んで来てくれた。

テーブルに置かれた食事は胃に優しそうなお粥と野菜をクタクタに煮込んだスープ。

「無理はしないで残しても大丈夫だからね」

そう言ってくれたけれどすみません……そんな感じではないのです私……残さずいただきます。

「僕達はリビングにいるからゆっくり食べてね。落ち着いたらリビングへ来てくれるかな、一緒にお茶を飲もう」

ずっと私のペースを考えてくれている……すぐにでもいろいろ聞きたいはずなのに……

「はい、ありがとうございます」

本当に有り難い……イシュマさんが頷いてドアへ向かう。
でも途中で立ち止まり…………振り返り私の前に戻ってきた。

な、なんか近い。

? どうしたのだろう……見つめられて首を傾げる私に

「名前……名前を聞いてもいいかな」 

ハッとする。そうだった……こんなに良くしてもらっておいて名前も名乗っていなかった!

「す、すみません! 申し遅れました! 私はトウカと申しましゅっ」

か……噛んだっ 

髪と目の色が黒に戻っているからフルネームではないけれど本名を名乗った……

イシュマさんはクスクスと笑い

「トーカさん、よろしくね。僕に敬称はいらないよ。話し方も砕けた感じの方が嬉しいかな」

そういわれたらやっぱり

「では私のこともトウカと……」

となる。

「ありがとう、トーカ」

そう言って私の髪に触れる……距離感……

「トーカ、兄上達と話す前に伝えておきたいことがあるんだ」

? なんだろう。

「トーカを湖で見つけた時に見た光の粒のこと、熱を出して寝込んでいる間に髪の色が黒く変わったことは兄上達には言っていないよ。本当はミケネコサンのことも黙っていたんだけれど……先に見つけてあげられなくてごめん」

そう言って眉を下げて私に謝るけれど……お兄さん達と話す前に教えてくれたということは、その事を話すか話さないかは私に任せてくれるということ……

「ありがとう、イシュマ。たくさん助けてもらって……そこまで考えてくれて」

そう言って微笑むけれどイシュマはなんだか寂しそうな顔をしてそれからね、と続ける。

「気付いていると思うけれど……僕達は三つ子なんだ」

……うん、そっくりだものね。

「……? 皆さんよく似ているよね」

そんなに寂しそうな顔をして言うこと?

「……僕は……三番目なんだ」

……うん、リビングの二人を兄上って呼んでいたものね。

「……うん」

何が言いたいのだろう……

「僕のこと……嫌いになった?」

ん? え……と、えーと何? 何の話し? 何か聞き逃したのかな? 

「どうして?」

本当にわからない……末っ子だから? なんで嫌いになるの? 

「どうしてって……」

首を傾げる私にイシュマも首を傾げる。

グゥゥゥ……………………

私のお腹がなる。恥ずかしぃっ

「ごめん、食事が冷めてしまうね」

そう言ってドアの方へ歩いて行きまた後でね、と振り返り部屋を出ていった。

結局何の話しだったの……
まぁ……いいか、また後で話しはできるし。

とりあえず、食事をいただこう。お腹がペコペコ。

いただきます、と三毛猫さんの様子を見ながら食事を始めた。


※※※※※※※※※※※※

-- ジョシュア --


 午前中にヨシュアといつもの変装をして街で買い物を済ませた。

城の者達に女性用のものを揃えさせるといろいろと聞かれるだろうし、答えなければ要らぬ憶測を呼ぶ。
最悪父上と母上に報告されてしまうだろう。

街へ行き、貴族も買い物をするような店で柔らかい毛布やシーツ、好みがわからないのでシンプルな服や部屋着などを揃えた。
石鹸やタオルは城からのものがイシュマの家にあるからあとは…………

下着を買う時は顔見知りの店員にからかわれたりもしたがヨシュアが上手く話してくれた。

それから……菓子も買っていこう。甘いものは好きだろうか。

これで必要なものは揃ったと思う。
ふと、目にとまった店があり少し考えてからヨシュアを待たせて買い物をした。

荷物が多くなってしまったが馬は二頭いるから持って帰れるだろう。

荷物はしっかりと布に包んで中身が見えないようにしているから、このまま城へ戻って誰かとすれ違ったとしても、また変装して街へ行き買い物をしてきたか、くらいにしか思わないだろう。

森のイシュマの家へ行くと彼女が立っていた。

後ろ姿をイシュマと間違えたようだが、私が振り返り彼女を見ると……違うと気づいた。
後から入ってきたヨシュアのこともイシュマではないとわかっているようだった。

またイシュマのシャツを着ている。
それしかないから仕方がないがブカブカで肌が出すぎている。

昨日の記憶が熱で曖昧になっているようだったので近づいて額に手を当てる。

どうやら熱は下がったようだがこんなに薄着ではまた熱が出てしまうのでは……と思っていると

顔を赤らめて着替えてくる……と。見すぎてしまったようだ。

するとここへくる前に通った湖の近くの木の上で見つけた変わった毛色の猫がヨシュアの腕の中で鳴いた。

彼女はその鳴き声に反応してヨシュアの元へ行きヨシュアの腕から猫を抱き上げようとしたが……

ヨシュアが猫を高く掲げる。彼女は飛び跳ねながら届かない猫に手を伸ばす。

腕を上げたことでシャツが……スラリとした足が……それどころか下着まで見えてしまうのではないか……

あまりにも無防備すぎる……ヨシュアにやめるよう声をかけようとすると彼女が先にヨシュアの腹に拳を沈める。

………………

彼女は猫の無事を確認している。

ヨシュアは……まぁ……自業自得だ……

彼女はやはり我々が誰かわかっていないのか……?
この国の者ではないということか……


一体どこから……そしてどうやってあの湖に現れたのか……


※※※※※※※※※※※※


-- ヨシュア --


 腹を殴られた……

嘘だろ……こんなことをする令嬢が……いや、令嬢ではないのか? どちらにしろ女に拳で殴られるとは……

少し大袈裟に痛がってしまったがよほどあの猫が大事なのか彼女が動じることはなかった。

猫を取り戻そうと必死に手を伸ばしている姿は抱きしめたくなるほど可愛かったのにこの仕打ちだ。

まぁ……俺が悪いのだが。
彼女が泣き出したときはさすがに焦った。
本当に大切な猫なんだな…………

彼女が寝ていた部屋へ行き買い揃えてきたものを渡すと今度は礼を言いながら泣いた。

嬉しそうだったから良かったが泣かれるとやはり困ってしまう。


それにしてもこの毛色の変わった猫と黒髪に黒目のこちらも見たことのない色を持つ女性……この色が当たり前にある国か街がどこかにあるのか?
見たことも聞いたこともない……

彼女の態度からして俺達のことを誰かわかっていないようだったが……

それにイシュマのことを見分けていたようだ……俺のこともわかるのだろうか。

ますます興味が湧いてきた。


早く彼女と話をしてみたい……

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