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 困った……


熱があるのもだけれど一度目を覚ましたときに話した男性はどこの誰なのだろう。

あの時は取り乱してしまったけれど……そりゃあ三毛猫さんだと思っていたのが上半身裸の男性だったら驚くよ……
しかもベッドの中で……

まぁ……私が抱き締めていたのだけれど……

実はあれから何度か目を覚ましている。

熱もまだ下がらないしそんなに動けないと思う。
だからこのまま寝た振りをして集められるだけ情報を集めようとして…………何も出来ないまま普通に寝たり目を覚ましたりを繰り返している。何せ熱があるから……

一人暮らしなのか今のところ彼……イシュマさんしかこの部屋にはきていないと思う。わたしが寝ている間はわからないけれど……

きっと彼が湖から助けてくれたのだろう……
三毛猫さんはまだ見つかっていないみたい……探しに行きたい今すぐに。

あの時……どうして三毛猫さんに触れてしまったのか……目覚める度に後悔している。
まさかあんな所に……いや……もっと高い位置だったけれどリアザイアの湖の上に移動したことはあった。

フロラの木の上に三毛猫さんを置き去りにしてしまっても魔法が使えるうちに木の上から降りてお城へ向かえばゲートもあるし、山の家に帰れたかもしれない。

結界がなくなったとしても三毛猫さんを知っている誰かに保護してもらってリアザイアには帰れたと思う。

ここはどこなのだろう……

三毛猫さんを巻き込んでしまった……
早く……早く探しに行きたい。

焦るほど熱が長引いてしまう気がするけれど焦らずにはいられない。

レクラスでは私と三毛猫さんが突然いなくなったことで皆さんに迷惑をかけているかもしれない……

こんな状態でも出来ることをしなきゃ……

イシュマさんが部屋を出て少ししてから薄く目を開けて部屋の中をみる。

広い部屋に私が寝ている大きなベッド……ベッドサイドのテーブルの上に水差しとコップがある。

重たい身体を起こしてどうにか立ち上がり震える手でコップに水を注ぎ飲む。

着ているものが彼のシャツだと気が付く……彼シャツ……
ふざけて現実逃避している場合ではない。

一息ついてからフラフラと窓まで歩き外を見ると……森? 色の変わり始めた葉と緑の葉が混ざっている……

イシュマさんがどこかへ歩いて行くのがチラリと見えた。

もしかしたらあの湖はここから近いのかもしれない。
申し訳ないけれど彼が留守の間に部屋の外に出てみよう。

そっとドアを開けると廊下がありいくつか部屋がある。
私の部屋は一番奥にあるらしい。

一人暮らしにしては広すぎじゃないかな……とリビングのありそうな方へフラフラと向かいながら思う。

やっぱり他にも誰か住んでいるのかも……部屋に戻った方が……と迷いながらも進んで行くとリビングかな……暖炉のある部屋。
隣にはキッチンもある。奥にはお風呂とトイレも。

階段があり二階もあることがわかったけれどさすがに今は上れない。

街に住んでいる人達の家よりは大きいけれど貴族のお屋敷にしては小さい……宿屋に一人で住んでいるような感じ……?

人の気配もしない。貴族なら使用人がいても良さそうだけれどやっぱりイシュマさんは一人暮らしなのか……この大きな家に……?

部屋に戻りベッドに入る。
とりあえずわかっていることを整理してみよう。


この家にはイシュマさんという男性が暮らしている。

(今のところ一人暮らしだと思われる)

イシュマさんは白髪で赤みがかった目をしている。

(綺麗な白だった。赤みがかった目は初めて見る)

年齢はたぶんノシュカトくらい……二十代半ばかなぁ……

(……これに関しては少し違和感がある)

そして湖で溺れていた私を助けて看病もしてくれている。
額のタオルをこまめに替えてくれたり唇を湿らせてくれたり。
たぶん三毛猫さんのことも探してくれている。

きっといい人なのだと思う。

ただ……

……こんなに部屋があるのになぜ私のベッドに入ってくるのか……それも夜に限らず……

私のではなく彼のベッドなのだけれども……
一台しかないベッドを私が使ってしまっているとも考えにくい。

二階もあるならきっと彼の寝室は二階だと思うし。

それから……

指で私の頬や唇をつついてくるのは何なのか……
頭に頬擦りをしたり撫でたり……抱き締めて寝たり……
こんなに広いベッドなのにくっついてくる。

まるでお気に入りのぬいぐるみを抱いて眠る子供のよう……
抱き締められると私はすっぽりとおさまるから身体は大きいと思う。

そう……行動は子供っぽいのに……それなのに、だ。

気が付くと私の太もも辺りに当たる硬くて熱いもの……全然子供じゃない。

力を振り絞り寝返りをうつふりをしてベッドの端へ移動しようと彼に背中を向けるけれど……後ろから抱き締められて今度は……お尻に当たる。

かといって私の身体を変な風に触ってくるわけでもない。
この感触さえなければ本当にぬいぐるみ状態だ。

参ったな……

私がいるからかもしれないけれど、誰かがこの家にくる様子もないし彼が遅くまで出かけることもない……
恋人や家族は遠くにいるのか……いないのか……

とにかく熱が下がるまでは動けないから今は様子を見ることにしよう。

魔法も使えないみたいだから三毛猫さんが心配だけれども……体力が回復したらすぐに探しに行こう。

それから……次に名前を聞かれたらどう……答えよう……

歩き回って疲れたからか眠気が襲ってくる……
たったあれだけ歩いただけで……
とにかく休もう……早く…………三毛猫さんを…………


懐かしい場所。

ここは私が通っていた小学校だ。
小学校ではウサギを飼っていて、私は生き物係ではなかったのだけれど動物が好きでよくお世話を手伝いに行っていた。

何となくこれは夢だとわかる。

フワフワの白い毛に赤い目をしたウサギ……名前はシロだったはず。
きっと彼の……イシュマさんの髪と目の色を見て思い出したのだと思う。

今は何時だろう。熱が下がったのなら三毛猫さんを探しに行かないと。

目を覚まそうと無理矢理目を開けたつもりだったけれど、まだ夢の中みたい。

目の前にシロがいる。フワフワの白い毛に赤い目の私が小学生の頃に見たままのシロと目が合う……

「可愛いねぇ……」

フフッと微笑み両手で顔を包んだり頭を撫でたりしていると再び意識か深く沈んでいく……


今度は暑くて目が覚める。

夜になりまた熱が上がっているのかと思ったけれど身動きが取れないこの感じは……

隣にはイシュマさん……熱で火照った身体に抱きつかないで欲しい……汗もかいているのに……


こんな風に寝たり起きたりを繰り返し……何日目の朝だろう……熱が下がったのかいつもよりも動けそうな気がした。

私に抱きついて寝ていたイシュマさんがいつも通り外へ出てから起き上がってみる。

うん、フラフラするけれど動けそう。
とりあえずコップに水を注ぎ飲み干す。

何か食べないと外に出てもすぐに倒れてしまいそう……
ヒールが使えたら……クリーンも使えなくなっているからお風呂にも入りたいけれど……

魔法が使えなくなっているということは……三毛猫さんの結界も……何か食べてすぐに出よう。

キッチンの横にドアがあり、開けると外に出られて隣の小屋……たぶん食糧庫に続いている。

小屋のドアを開けるとやっぱり……お米がある。少しいただいてお粥を作ろう。
ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ……っぽいのもある。

迷ったけれど、勝手に使わせてもらうお詫びにお粥ができるまでの間に肉じゃがの肉がない煮物を作って置いておこうと思う。

これまでのお礼は三毛猫さんを見つけてから改めてするとして。
何もなく出ていくのは何だか気が引けるという私の勝手な都合なのだけれど……

お米を火にかけている間に煮物を作る。
調味料もいろいろと揃ってはいるけれどそんなに使われていないような……

煮物を火にかけている間にお粥がいい感じにできあがった。
煮物ができるまでの間に食べてしまおう。

きっと彼が帰って来たら私が大丈夫と言ってもベッドに戻されてしまいそうな気がする。

食べたらここを出て三毛猫さんを探しに行こう。


そう決めてお粥を食べ始めた。

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