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195 ノヴァルト 冬華
しおりを挟むーー ノヴァルト ーー
トウカの気配が消えた。
どういうことだ……突然消えた。
トウカからあの不思議な力を……魔法をかけてもらってから強く感じるようになったトウカの気配が消えた。
いや、正確には一瞬消えて今は微かに感じる。
今日は確かミケネコサンとフロラの木を見に行くと言っていた。
急いでそこへ向かう。
「トウカ……」
キラキラと微かに光の粒が降ってくる。
この光の粒はトウカが空から降ってきたときの……
集中してみるがトウカの気配が薄くなってしまいどこにいるのかわからない。
一瞬元の世界に戻ってしまったのかとも思ったが微かだがトウカの存在を感じるということはこの世界にいるはずだ。
トウカ……たとえ元の世界へ行ってしまったとしても今度はどこへでも迎えに行くと決めている。
以前この現象のことをトウカに聞いたことがある。
コントロールができなかったと、だから今回もトウカの意思ではないはずだ。
トウカから聞いた話を思い出しながらリアザイアに帰ることを皆に伝える。
急なことに驚いていたが荷物を纏めるためにすぐに動いてくれた。
(確か行こうとしていた場所や考えていた所に移動しているような気がする、とトウカは言っていたか……)
ロイク殿とローズ姫、セオドア殿とノシュカトにはトウカがいなくなったことを伝えた。
皆も動揺はしていたがトウカを見つけるために出来ることを考え協力すると言ってくれた。
(フロラの木の周辺を探したが…………触れていたものも一緒に移動すると言っていたからおそらくミケネコサンも一緒だろう)
トウカが作ってくれたレクラスの城とリアザイアの城を繋ぐゲートが繋がっているかロイク殿と確認する。
(身の危険を感じた時に発動するのかもしれないとも言っていた。何かあったのか? しかし城の敷地内の見回りは何度もした。万が一魔獣が出たとしてもトウカなら……トウカの力でも対処しきれない危険があったとは考えにくいが……)
先に帰る、とノシュカトに伝えると頷き、
「僕達が帰る時、兄上がいないことを変に思われないようにする」
セオドア殿をみると
「俺はダンストン伯爵家に戻ってトーカが戻らないかもしれない事を伝えて代わりに残った仕事を済ませてから戻る」
二人とも察しが良くて助かる。
よろしく頼む、と言いレクラスの国王と王妃にも挨拶をしてからゲートへ向かう。
トウカからこの話を聞いた時から考えていた……また起こるかもしれないと。
トウカがいなくなってしまうことが怖い……
トウカと出会ってから古い書物や王族のみ読むことができる歴史書などを読み返してみたが異世界の事や不思議な力のこと、黒髪や黒い瞳については載っていなかった。
母上もトウカと会う時は興味のある場所や行ってみたい国は必ず聞くようにしていたはずだ。
すでに予測はできている、恐らくは……
この予測を確実なものにするために一度リアザイアに戻って情報の整理をしてから動きだすことにする。
すぐにでも向かいたいが遠回りはしたくない。
トウカの力があれば大抵のことからは身を守れるだろうがあの力も元々は持っていなかったものだと言っていた。
熱で寝込んだ時は病や傷を治すヒールという魔法がトウカ自身には効かなかった。
寝込んでいる間にトウカの髪の色が戻っていたりミケネコサンの結界が解けていたりもした。
突然全ての力が使えなくなることがあるのかもしれない。
心配で堪らない……
私が迎えに行くまでどうか無事で……
※※※※※※※※※※※※
ーー 冬華 ーー
苦しい……三毛猫さん……
ゴポゴポと私が吐き出した空気にユラユラと揺れる光の粒が見える……移動した瞬間水面が見えた。
三毛猫さんの結界を岸に向かって弾いてすぐに自分に結界を張る間もなく水の中に落ちてしまった……
水面との距離が近すぎて三毛猫さんが水の中に落ちないように弾くことしかできなかった。
結界があるから大丈夫だと思うけれど無事かな……
それにしても冷たい……ここはリアザイアの森の湖? ……それとも海? いや、一瞬しか見えなかったけれど森の中だった気がするからやっぱり湖……もしかしたら……元の世界のどこかの湖かもしれない……
そんなことよりも今は息が……
服と冷たい水のせいか体が思うように動かない。なぜか魔法も上手く使えない……何かいつもと違う……おかしい。
やっぱりここは……
沈んでいく…………意識が………………
ん…………
日の光のような暖かさが心地よくて思わず微笑んでしまう。
まだ目覚めたくはないから目が開けられないけれど仕事に行かなくては。
目覚ましのアラームが鳴るまでは意地でも目を開けないつもりだけれども……悔しいことに頭の中では今日の段取りを組み始めてしまう。
今日は……今日は? 何をするのだったか……あれ?
長い間仕事を休んでいたような……何でだっけ?
手を伸ばして三毛猫さんを探す。
とりあえず三毛猫さんを撫でたい。
フワリ、と柔らかい毛並みに触れてホッとしてギュッと抱きしめる……温かい。
無事で良かった。
無事で? どうして……そういえばそもそもこのマンションはペット不可なのに私……とうとう連れ込んでしまったの……?
ま……まずいぞ……急いでペット可のマンションを探さなければ……
落ち着こうとフワフワの三毛猫さんを撫でながらいい加減現実を見ようとゆっくりと目を開ける。
柔らかい日差しの中、マンションの私の部屋……
ではなく全く知らない部屋……
そして抱きしめて撫でていたのは三毛猫さん……
ではなく人間……ダレデスカ?
しかも男性……と目が合う。
だ…………
「だ、誰ですか!? 私の部屋で何をっ」
違うっ私の部屋じゃない! ここは
「ど、どこですか!? 何!? どうして一緒にっ」
お、落ち着かなきゃっ……でもどうして知らない人とベッドに……
「落ち着いて、ようやく目を覚ましたね」
ゆっくりと話しニコリと微笑む男性。
真っ白い髪に赤みがかった目をした…………本当に誰?
「僕はイシュマ。君は湖で溺れていたんだよ」
溺れて……そうだっ……!
「三毛猫さんは!? 近くに猫はいませんでしたか!?」
なぜか涙が溢れてくる……
「落ち着いて……君の名前を教えてくれる?」
そんなことより三毛猫さんっ……
探しに行こうとベッドを出て立ち上がろうとするけれどクラリと目眩がして動けない。
「無理はしないで、まだ熱が下がらないのだから」
熱……そんな……熱が出てどれくらい経っている……? 三毛猫さんの結界が……
「大切な猫なんだね。もう一度僕が湖の周りを見てくるから今は眠って」
ポロポロと泣いている私を今度は彼……イシュマさんが抱き締める。
嫌だ、すぐに探しに行きたいっ……眠りたくないっ
そう思っているのに意識はどんどん沈んでいき私は再び深い眠りについた……
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