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194 冬華 ノヴァルト
しおりを挟む最初は会場に来ている貴族がどんな仕事をしているかとかロイク様やローズ様の婚約者候補の方々のお話をしていた。
「パーティーが始まる前にノヴァルト様がお一人で王城の敷地内をもう一度見回って下さったの。お客様なのにトーカにも皆さんにもたくさん助けていただいて……本当にありがとう」
ローズ様がふとそんなことをいった……こちらこそ得体の知れない私を信じて仲良くしてくれてありがとう。
それにしてもノバルトはそんなことをしてくれていたのか……知らなかった。
私がのんびりとパーティーまでの日々を過ごしている間、皆さんは忙しくしていたしなぁ……何だか申し訳なくなってきた。
そろそろ戻りましょうか、とローズ様が微笑みパーティー会場に戻る。
会場ではノバルトがそんな素振りも見せずに談笑している。
ロイク様とセオドアはご令嬢とのダンスが続いている……体力あるな、二人とも。
ノシュカトはリュカ様とイアン様と……カイル様も一緒にお話をしている。カイル様……イアン様の側を離れないな……
パーティーも終わりが近づいて皆さんが国王様と王妃様に注目する。
国王様はこの国で人身売買があったこと、まだ見つかっていない被害者の捜索に協力して欲しいということ、二度とこのような事が起こらないように身分に関係無く情報の共有と協力関係を築き、気を引き締めていくように、というようなことをお話してパーティーはお開きとなった。
部屋に戻ると三毛猫さんも帰ってきていた。
「三毛猫さんはどこへいってきたのかニャー」
庭を歩いていたのをみたよー、と一緒にゴロゴロする。
パーティーも終わって明日一日ゆっくりさせてもらって明後日にはダンストン伯爵家に戻る予定だ。
「明日は一緒にフロラの木をみにいこうね」
ニャァ、と三毛猫さんも賛成してくれたみたい。
三毛猫さんに温泉に行ってくるね、と言い撫でてからゲートをくぐる。
温泉に入ると慣れない場での疲れが一気に出てウトウトしてしまう。
部屋に戻り再び三毛猫さんとゴロゴロしているとあっという間に眠りに落ちた。
翌日、皆さんと少し遅めの朝食をいただいて昨日のパーティーのお礼ととても楽しかったと伝える。
食事の後にロイク様とセオドアにトーカと踊っていない、と言われたけれどご令嬢の列が途切れなかったのだから仕方がない。
「また次の機会にね」
そう言うとロイク様が
「では花見の時に踊っていただけるかな」
と言いセオドアが
「花見とは何だ?」
と食い付く。
「花見とは……」
と説明をロイク様にお任せしてノバルトの元へ行く。
「ノバルト、昨日はありがとう。素敵なドレスも選んでくれて……」
ノバルトが優しい表情でこちらをみる。
この顔で見られると甘えたくなってしまうから困る。
「あまりゆっくりと話ができなかったね」
すまない、と眉を下げる。
パーティーはたくさん人が来るし王族への挨拶は列ができるし皆さん滅多にない機会でお話をしたいだろうし……
そもそも私は恋人でも婚約者でもないわけで……
「トウカ、リアザイアに帰ったら話をしよう」
……うん……うん、
「私も話したい」
思えばこの会話が……もし本当にフラグというものがあるのなら……きっとこのときの会話がそうだったのかもしれない。
この日は午後から三毛猫さんと約束していた通りフロラの木を見に行く予定。
動きやすいワンピースに着替えてから荷物の整理をして、増えたものはゲートで山の家に持って行ったりしていたのだけれど……ドレス増えたな。
メイドさん達からしたら少なすぎるくらいだと言われそうだけれど、パーティーやお茶会の度に作っていたらあっという間に溢れてしまいそう。
皆さんどうしているのかな……一度公の場で着たドレスは着ない人とかもいそうだし。
そういえばリアザイアの王妃様はかなりの数のドレスを綺麗に取っておいていた。それだけ収納できるスペースがあるからだろうけれど、手を加えてデザインを変えて着たりもしているようだった。
そうやってなるべくドレスを増やさないようにもしているからたぶん王妃様にしては持っているドレスは少ない方なのかもしれない。
私のまだ数着しかないドレスにもそれぞれ愛着があって、もしかしたらもう着るような場所に行けることはないかもしれないけれどやっぱり大切に取っておきたいと思う。
そんなことを考えながら片付けを終えてお城の中を歩き回る。
この一週間でお世話をしてくれたり肝だめしに付き合ってくれたり美味しい食事やおやつを作ってくれて仲良くなった(……と私が勝手に思っているのだけれど……)皆さんに挨拶をして回る。
ローズ様に肝だめしをやると言われたときはどうなることかと思ったけれど、お陰でロイク様やセルジュ様、使用人の皆さんとの距離が近くなったと思う。
さて、皆さんにご挨拶もしたことだしそろそろ三毛猫さんとフロラの木を見に行こうか。
三毛猫さーん、と部屋のドアを開けるとベッドの上で毛繕いをしていた三毛猫さんが顔を上げる。
「フロラの木を見に行こうか」
「ニャン」
フフフッ可愛い。早くフロラの木からの景色を三毛猫さんと一緒にみたい。
フワリと浮き部屋の窓から外へ出る。
「三毛猫さん、外は寒くなってきたね」
「ニャァ……」
あ……寒いの苦手か……うーん、三毛猫さんの周りに張っている結界の中を常に快適な温度に保てたりするのかな?
まずは自分の結界で試してみよう。
風魔法でエアコンから出る温風をイメージする。
おぉ、暖かい、これはいい。
早速三毛猫さんの周りも暖めると……気持ちよさそう。
良かった、これで本格的な冬がきても凍えることはないね、と微笑むと三毛猫さんも嬉しそう。
フロラの木の枝に着地。
三毛猫さんの結界はそのままにしておいて私は結界を解く。
遠くをみながらサワサワと冷たくなり始めた風に季節を感じる。
「大きい木だね、春には桜の花が咲くみたいだから一緒に見に来ようね」
「ニャン」
三毛猫さんと木の枝に座ってしばらく景色を眺める。
こういう景色って何故か懐かしいような嬉しいような気持ちになって胸が締め付けられる……
「そろそろ戻ろうか」
お城に戻る前に馬屋にも寄ってみようかな、と思いながら立ち上がると光の粒が……光の粒? これって……
思い出してハッとする。
この世界に来てお城の屋根から落ちた時と魔獣化した巨大熊に出くわした時に発動したコントロールができないアレ!? 今!?
前に瞬間移動した時はどちらもピンチの時だった。
今は全然ピンチじゃないっ……どこに……まさか元の世界……!?
光の粒がどんどん増えていく……止められないっ! 三毛猫さん!!
フワリと三毛猫さんに触れた気がした瞬間……目の前の景色が変わり…………
息が……できなくなった……
※※※※※※※※※※※※
ーー ノヴァルト ーー
リアザイアに帰ったら話をしよう。
そう伝えるとトウカも話したいと言ってくれた。
嬉しかった。
トウカの行動だけは予測ができないことが多い。
私の知らない世界の生活や習慣、それからあの力があるからか……
先日も肝だめしというものをしていた。私は参加できなかったがなんとも可愛らしい遊びだ。
そんなトウカをみていると楽しいし……捕まえておきたくなる。
私の腕の中に……隣に……目の届くところにいて欲しいのだ。
幼い頃のあの時からトウカだけだ。
私が執着してしまうのは……トウカへの思いは強くなるばかりだ。
皆がこの気持ちを知ったら驚くだろう。
トウカはどうだろうか……
リアザイアに帰ったら伝えよう。
トウカに私のこの思いを…………
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